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第十話 再会

17年8月15日

第九話にキャラクターイラストを投稿しました






異世界生活初日。

同じ時間を繰り返していると判断した雄一は、調整してもらった礼服を着込んで、蔵書室へと向かっていた。

本来ならば、すぐにでもシルフィに襲撃事件についての説明をするべきだが、少なくとも昼の間は会うことが出来ないらしい。

とは言え、襲撃までもう三日も無いのだから、悠長に遊んでいる場合でもない。何とか夜に面会の機会を設けてもらい、それまでの間は蔵書室で調べ物をしようと思い立ったのだった。

一度目はデックスと共にやってきて、アエルに基礎知識を教えてもらった場所だ。

しかしその時とは立場とタイミングが違う。デックスは見張りについておらず、アエルも今は室内に居ないようだった。

相変わらず薄暗い蔵書室で、雄一は一冊の本を手に取った。


「絶滅教団の成り立ち……か」


一度目にも手に取ったことのある書物。アエルと出会う前、興味本位でさらり部分だけ読んだ本だ。

襲撃者ミーシャが名乗っていた所属名。仮にシルフィに襲撃のことを報告して、信じてもらえたと仮定する。その際の円滑な話し合いの際に、持ち合わせて損な情報ではない。

パラパラとページを捲って、中の情報を頭の中へと取得する。



*    *    *

絶滅教団とは、人間の絶滅を目標にした宗教団体である。その歴史は古く、神話から数えて数千年。一度も絶えたことはない。

信仰するのは『慈愛の死神』。「死ねよ殺せよ」の教義に基づき、殺人や自殺を推奨する狂気の集団。

その規模は時代によってまちまちである。最も栄えていたと言う神話の時代では、一国の国教となった時期もある。

しかし、その破滅的な教義内容から、その規模は自然的に縮小する傾向にある。

教団員はギフトを保有する人間が多く、一時期ギフト保有者が迫害されていた遠因となっている。

*    *    *




まとめるとこのような内容が書物に記載されていた。

本自体が古いのか、現代における絶滅教団に関する情報は無いようだ。一般的な見解だけで、これだけではなんとも言えない。

なぜそんな異常な集団が、わざわざ兵士が大勢いる大国の城を襲うのか。そして、なぜその襲撃を成功させるだけの戦力を持っていたのか。

雄一が今知りたいのは、過去の歴史よりもそう言った要素であった。


「ユーイチ君、そんな宗教に興味があるの? 趣味が悪いんじゃない?」

「うわぁっ!? 居たのかよ!?」

「もちろん。君の専属メイドなんだから、居て当然でしょ?」


背後から話しかけるルティアスに驚いた。

そこで雄一はふと気がついた。アエルに基礎知識を教えられたときもそうだったが、わざわざ本で調べなくてもルティアスに聞けば良いではないか。

デックスとは違い、彼女は雄一が召喚された人間であることを知っている。ならば、この世界について疎いことにも理解があるはずである。


「わざわざ『お化け蔵書室』にまで来たかと思えば、こんな事を調べて……ユーイチ君って、もしかして危ない人?」

「人聞きが悪い! ……てか、『お化け蔵書室』? なにそれ」

「何度もゴーストが出るからって、誰も近寄らない場所なの。時々アエレシス様……この国の王宮魔法使いがお祓いに来てくれてるんだけれど……」

「そんな心霊スポットだったの!?」


思えば、デックスが頭が痛くなるといっていたのは方便で、本当はその噂を知っているがゆえ、入室を拒んだのだろうと雄一は考察した。

一応ゴーストが出るかもしれないという情報を雄一に伝える行為は、一種の言い訳だったのかもしれない。

気を取り直して、絶滅教団について尋ねることにした。


「絶滅教団の現在? ……ホント、なんでそんなことに興味があるの? 怖い……」

「ちょっと引かないでくれよ! ただ、その……俺はこの世界に疎いからさ、変な宗教勧誘されてホイホイ着いていったりしたら困るだろ? だから少し知っておこうと思っただけだよ」

「……一理あるかもね。そういうことなら、このお姉さんに任せなさい」


ふくよかな胸元に拳をポスンとぶつけて、ルティアスは雄一と机を挟んで座った。


「現代の絶滅教団は、その歴史の中ではかなり規模が小さくなってるわ。その原因とされているのが、三百年前に行われた『絶滅戦争』。別の意味に聞こえるけど、勢力を拡大させた絶滅教団と国々が戦った戦争のことなの」

「……国を相手にするくらいデカくなってたのか」

「けど、その戦争で一変。『死神の隻眼』と呼ばれる教団の聖遺物が、モントゥ王国に回収されたことにより、それ以降縮小の一途を辿ったわけね」

「その、聖遺物ってのはそんなに重要なものなのか?」

「死神についてだから説明は省略するけれど、教団の目的の一つに”死神の受肉”と言うものがあるの。聖遺物は全部で五つ。すべてが揃った時、現世に死神が降臨する……その目的が遠のいたのだから、縮小は当然と言えるわね」


ともかく、と付け加えてルティアスは話を続ける。


「ユーイチ君が考えているように、道端で勧誘という心配はないわ。そんなことをすれば、途端に通報で牢屋行きだから」


実のところ、雄一は勧誘される心配はしていない。あくまで、絶滅教団についてを聞くための嘘である。乾いた笑いとともに「なら安心だな!」とごまかしておく雄一であった。

作り笑いの最中、雄一はもう一つ聞いておくべき要素を思い出す。


「さっき、国と戦争してたって言ってたよな? 絶滅教団って、そんな武闘派な連中なのか?」

「うーん……教団員の実力は、その時代によって違うらしいから別に武闘派とは聞かないわね。でも、幹部と呼ばれる人たちは、教団の中で最も強い人間がなるそうだから、その人達は強いのかも」


絶滅教団幹部。そう名乗っていたわけではないが、教団員からの態度とその強さを見れば、ミーシャが教団幹部であると判断する事が出来るだろう。

逆に言えば、大半の教団員はミーシャよりも実力は下。撃退することも不可能では無いと、ルティアスに見えない位置でガッツポーズを決めた。 

だが、疑問が強まったこともある。そのような宗教団体が、なぜ国の中枢を全滅させることが出来たのか。

雄一が見たのはいくつもある建物の一部だけであり、すべてを確認したわけではない。もしかすると、他は無事で、惨劇が起きたのはこの建物だけの可能性もある。

しかしそれでも、なぜそのような失態を城側が演じたのかが分からない。一体あの夜、この場所で何が起こったのだろうか。雄一の疑問は解消されることはなく、ますます強くなってしまっていた。













*    *



蔵書室を後にする雄一とルティアス。お化け蔵書室は、基本的に複本しか置いておらず、載っている内容も基本的なものしか記述がない。

つまり、最初に開いた本の情報の他には、ルティアスから聞いたものしか収穫はなかった。

その他の蔵書室もあるにはあるが、王族や一部の人間にのみ開示されている部屋であり、メイドのルティアスはもちろん、客分の雄一であっても入室を許可されていないらしい。

だとすれば、情報収集はこれまで。せめてアエルと会うことができれば、何かしらの情報が引き出さるかもしれないが、現状雄一にできることはかなり少なくなったと言えるだろう。


「これからどうすっかなぁ。面会まではまだ時間があるし……ああ、もどかしい!」

「そんなに重要な話なの? 一国のお姫様を呼び出すなんて、客分の身の上じゃ、やってはいけない芸当よ?」

「え、マジ? 不敬罪とかになっちゃう?」

「なっちゃうわね」


ルティアスに取次願いを申しだした時は、テンションが上っていて失念していたこと。雄一の言う所のお姫さんが、本当のお姫様であるということである。

ループ前の気安さから、遠慮なしにシルフィと接していた雄一だったが、再会したと言ってもこの世界では彼女とは初対面。傍から見れば、図々しい態度だったに違いない。


「やべぇな……次会った時はもうちょっと丁寧に喋ろう…………っと?」


冷や汗をかきながら歩いていた雄一の体に、軽い衝撃とともに小さな物体がぶつかった。

小さく悲鳴を上げたその物体はメイド服。つまり、使用人の格好をした人間。ぶつかった拍子に持っていた洗濯物を辺り一面にぶちまけて、そのうち一枚のシーツを頭からかぶって慌てふためいていた。


「あ、悪い。大丈夫か?」

「は、はい! こちらこそすみません! 前がよく見えなかったものでして……」


被ったシーツが中々取れないのか、歩いては壁にぶつかり、回れ右をしてまたぶつかるを繰り返す。

雄一は散乱した洗濯物を集めてかごに入れ、ふらつくメイドに手渡した。そして最後の一枚。頭にかぶるシーツを取って見ると、そこには見慣れた顔が登場した。


「…………フラン?」

「はい、そうですが…………っ! お客様が着る礼服!? た、大変失礼致しました! お城のお客様に無礼なことを……」

「フラン! 良かったぁ……やっぱり無事だったんだな! 怪我とかしてないよな? 首筋とか大丈夫か!?」

「わひゃぁ!?」


意図せず再開した雄一とフラン。

興奮気味の雄一は、恐縮するフランを他所に、怪我がないか頭や首筋を弄り倒す。一見セクハラに見えるこの行為は、実際フラン本人やルティアスからは、セクハラであると受け取られた。


「止めなさい」


雄一の後頭部へルティアスの空手チョップの一撃。ようやく雄一は正気に戻った。


「あ、悪い……でもホント良かった。無事で……」

「あ、あの……どこかでお会いしたことが?」

「えーっと、そうだな……前世みたいな所でかな?」


笑ってごまかす雄一に、わけの分からないフランとルティアスは首を傾げる。

洗濯かごを持ち直したフランは、再度深く礼を言ってからこの場を去った。


ループ世界という特殊な環境。複雑なその世界観に気疲れしていた雄一だったが、良いこともあったようだ。少なくとも、死に別れた元同僚に会えたことは、彼にとって大変喜ばしいことなのである。



『まるで無意味な召喚者~冒険者達は俺の胃を攻撃してくる以外に能がない~』同時連載中です。

可能な限り、毎週火曜日の16時ごろに投稿しています。

こちらも合わせてお楽しみください。

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