季節がめぐる中で 99
「ああ、そう言えば皆さんの会計は……私は払わないわよ」
思い出したようにコーヒーを飲み終えたアイシャの言葉が福音にも聞こえた。
「なんだよ、けちだなあ」
要の意識がアイシャの誘導したとおり別の話題にすりかえられた。
「まあ、しかたないんじゃないか?俺等ただ尾行していただけだしな。すいません!こいつと俺のは一緒で!」
そう言うと吉田はケーキを貪り食っているシャムの頭を叩く。
「そうだな、私も自分の分は払うつもりだ」
静かにカウラが頷く。要は同調してくれることを願うようにランに目を向ける。
「なんならアタシが払ってやっても良かったのによー」
「じゃあ、ちっちゃい隊長!アタシの……」
「バーカ。全員のなら上官と言うことで払ってもやったが、西園寺だけの勘定をアタシが払う理由はねーだろ?それに人の気にしていることを平気で口にする馬鹿な部下を奢るほどアタシは心が広くねーんだ」
そんな言葉にうなだれながらポケットから財布を取り出す要。
「じゃあお勘定お願いします」
そう言うアイシャはすでにジーンズからカードを取り出して席をたっていた。
「今度は僕に払わせてくださいよ」
誠の言葉に首を振るアイシャ。気になって振り向いた誠の前には鋭く突き刺さる要とカウラの視線があった。
「ちゃんとアタシ等が出るまで待ってろよな!」
そう言ってコーヒーのカップを傾けるラン。一足先に店を出た誠。
彼は奇妙な感覚に囚われた。
何者かに見つめられているような感覚。そして虚脱感のようなもので力をこめることができない体。それが第三者の干渉空間の展開によるものだと気づいたのは、ランが厳しい表情で店の扉をすばやく開けて飛び出してきたのと同時だった。
「神前。オメーは下がってろ」
そう言ってランは子供用のようなウェストポーチから彼女の愛銃マカロフPMMを取り出した。周りの買い物客はランの手に握られた拳銃に叫び声をあげる。
「保安隊です!危険が予想されます!できるだけ頭を低くして離れてください!」
部隊章を取り出して周りの人々に見せながら、誠も干渉空間を展開した。店の中のアイシャ達は警戒しながら外の様子を見守っている。シャムとカウラは丸腰だが、アイシャと要は拳銃を携帯しており、吉田の左腕には2.6mm口径のニードルガンが内蔵されている。
「あのパチンコ屋のある雑居ビルの屋上です!」
誠はその明らかにこれまで接触をもったことの無い種類の干渉空間を発生させている人物の位置をアイシャに伝えた。
「おう、こういうところでは感覚通信は危険だって習ってるんだな。良い事だ」
ランはそう言うと店から銃を構えて出てきたアイシャにいったん止まるように指示を出す。
「とりあえずアイシャ。テメーはシャムとカウラを連れて一般人の避難誘導の準備をしておけ。それと西園寺と吉田は現状の把握ができるまでこの場で待機。指示があるまで発砲はするな!」
そう言うとランは彼女の拳銃に驚いてブレーキを踏んだ軽トラックの前を疾走して敵対的な行動を示している法術師の確保に向かった。




