季節がめぐる中で 9
正直、シンも上官である保安隊実働部隊長の明石清海中佐や、システム運営担当で明石の右腕でもある吉田俊平少佐が全く第二小隊に助言をしないのを不思議に思っていた。第二小隊の小隊長のカウラは東和軍のアグレッサー部隊の出身とは言え、指揮官としての実戦経験は先の近藤事件が初めてだった。彼女が製造時に戦闘知識を脳に焼き付けられる『ラストバタリオン』と呼ばれる人造人間だとしても、瞬間湯沸かし器並の暴走娘、要を部下に抱えれば苦労することはシンも予想していた。
要の実家、西園寺家は胡州の四大公の筆頭の家柄、そして要はそのたった一人の姫である。確かに庶民派で知られる父西園寺基義の影響を受けて柄の悪いところはあるが、プライドの高さだけは胡州貴族らしいとシンも思っていた。それに胡州陸軍の暗部とも言える非正規戦部隊の出身と言うこともあり、軍でも日のあたるところを歩いてきたカウラとは全くそりが合うはずもなかった。
目の前のシミュレーションの画面では敵をどうにか撃退した後に起きる二人の喧嘩と、誠のうろたえる姿が映っている。
「まあ二人とも筋は良いみてーだがな」
ランは苦笑いを浮かべている。隣の高梨に視線を向けたシンが見たのはあきれ返っているキャリア官僚の姿だった。
「まあこれもあのおっさん一流の布石なのかも知れねーな。第二小隊が問題児の塊と言うことになれば、必然的にそれを押さえられる人物を同盟法務局に異動させる必要があると上は考えるだろう。そうなるとアタシくらいしか候補はいねーわけだ。結果、できあがるのは遼南内戦のエースのうち二人が在籍する緊急時即応部隊ってわけだ。地球の大国も下手な動きはできなくなるな」
茶を飲み終わったランの目の前にモニターが開く。そこにはヨハンの姿が映っていた。
「実験準備完了しました。観測室までお願いします」
ヨハンの一言にランは腰を上げた。
「まー……いいや、そこらへんは今度あのおっさんに直接確かめることにするわ。じゃー行くぞ」
そう言うとランは教導官室を出ようとする。シンと高梨もその後に続いた。
「なんか話を蒸し返すみたいでなんなのですが、明石中佐が異動になるってことですか?」
シンの言葉にランは腕を胸の前に組んだ。
「同盟法務局が公安と保安隊、それに法術特捜に関する交渉ごとをする人材が欲しいって話だからな。それなりに交渉ごとのできる前線部隊出身者となるとそうはいないから」
そう言うランの言葉に頷く高梨。
「あの人は保安隊では珍しく上の受けは良いですからね……ああ、それとシン大尉も良いですよ」
壁にひびの目立つ廊下を歩きながら立ち止まって敬礼をしてくる部下達の前を通り過ぎながら、三人は管制室へ向かうエレベータに乗り込んだ。




