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季節がめぐる中で 74

「世話になるな、いつも」 

 そう言って駐車場に出た嵯峨、彼は胡州の赤い空を見上げた。胡州の首都、帝都のある遼州星系第四惑星はテラフォーミングが行われた星である。人工の大気と紫外線を防止する分子単位のナノマシンのせいで空はいつも赤みを帯びて輝いていた。

 駐車場にとめられた車、楓の私有の四輪駆動車がたたずんでいる。いつもその運転手は楓の部下であり、領邦領主としての嵯峨公爵家の執政でもある渡辺家当主のかなめが担当していた。

「なんど言ったのかわからねえけどさあ、かなめって言うのは紛らわしいよな」 

 後部座席に乗り込む嵯峨。運転席でかなめが苦笑いをする。

「私は西園寺の姫様の代わりですから……いつまでたってもお姉さまの心は奪えません」 

 彼女は嵯峨の部下の鈴木中佐達と同じ人造人間、ゲルパルトの『ラストバタリオン』計画の産物だった。その中でもかなめは連合軍の製造プラント確保時には育成ポッドで製造途中の存在であり、ナンバーで呼ばれる世代だった。そんな彼女に目をかけた楓は、彼女の面差しに愛する従姉の要を思い、そしてかなめと言う名前をつけた。

 ほかの有力領邦領主家と同じように嵯峨家の被官達にも先の大戦で断絶する家が多く、当時跡取りを求めていた渡辺家の養女としてかなめは人間の生き方を学んだ。

 いつも彼女を見守っているのは恩義のある楓である。かなめが楓に惹かれた当然かもしれない。苦笑いで時々助手席と運転席で視線を交わす彼等を見守る嵯峨。

「まあいいか。それより加茂川墓苑に頼む」 

 その言葉に楓は少し緊張した面持ちとなった。

「父上、やはり後添えを迎えるつもりは……そう言えば同盟司法局の……」 

「野暮なこと言うもんじゃねえぞ。それに順番から行けば相手を見つけるのは茜だろ?まったく。あいつも仕事が楽しいのは分かったけどねえ」 

 嵯峨はそう言うと禁煙パイプを口にくわえる。

「それと、法律上はお前等が結婚してもかまわないんだぜ。女同士なら家名存続のためにお互いの遺伝子を共有して跡取りを作ることが許されるって法律もあるんだからな」 

 ハンドルを握りながらもうつむくかなめ。楓はちらりと彼女の朱に染まった頬を見て微笑んだ。

「しかし、あれだなあ。遼南や東和に長くいると、どうもこの国にいると窮屈でたまらねえよ」 

 道の両脇に並ぶ屋敷はふんだんに遼州から取り寄せた木をふんだんに使った古風な塗り壁で囲まれている。立体交差では見渡す限りの低い町並み、嵯峨はそれをぼんやりと眺めていた。

「それでも僕はこの町並みが好きなんですが……守るべきふるさとですから」 

 そう言う楓はただ正面を見つめていた。そんな彼女に皮肉めいた笑みを浮かべる嵯峨。車の両脇の塗り壁が消え、いつの間にか木々に覆われていた。すれ違う車も少なくなり、かなめは車のスピードを上げる。

「しかし、電気駆動の自動車もたまにはいいもんだな」 

 そう言いながらタバコをふかしているように右手で禁煙パイプをもてあそぶ嵯峨。なにも言わずにそんな彼を一瞥すると楓は車の窓を開けた。

 かすかに線香の香りがする。車のスピードが落ち、高級車のならぶ墓所の車止めでブレーキがかかる。

 静かに近づいてくる黒い背広の職員。加茂川墓所は胡州貴族でも公爵、侯爵、伯爵までの貴族のための墓地である。多くの貴族達は領邦の菩提寺や神社とこの帝都の加茂川墓所に墓を作るのが一般的だった。

「公、お待ちしておりました」 

 職員の言葉に楓は父の手際のよさに感心した。

「例のやつは?」 

 その言葉に楓は父が墓参りの為以外の目的でここに来たことを察した。時に大胆に、それでいて用心深い。数多くの矛盾した特性を持つ父を理解することができるようになったのは、彼女も佐官に昇進してからのことだった。

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