季節がめぐる中で 44
「そんなにしなくても聞こえるわよ……」
涙目で答えるシャム。だが、要もこの異様な格好をしている小学生もどきを一瞥すると何もいえなくなって目を逸らした。
「あ!私のこと馬鹿だと思ってるでしょ?」
叫んだシャムに要はまた目をやった後、すぐに誠に視線を移す。
「アホが伝染るとまずいから行くか」
そう言ってシャムを置いて立ち上がった誠を連れ出そうとする要に追いすがる為に、シャムは必死で着ぐるみを脱ぐ。ビリッと布が裂けるような音がした。
「ああっ!要ちゃんがせかすから!」
涙目のシャムを要はちらりと覗いた後、廊下に出た誠にあわせるようにして冷蔵庫にシャムを置き去りにした。
「いいんですか?あまさき屋でまたナンバルゲニア中尉に泣かれますよ」
誠はあまりにも露骨な嫌がり方をする要にそう言った。
「ああ、どうせシャムだぜ。目の前に食べ物置かれたら忘れるだろ?」
そう言うと二人は実働部隊控え室に入った。
アメリカ海軍からの出向者である第四小隊を迎えて、それまで机が点々と置かれているだけだった控え室も少しは司法執行官の執務室にふさわしい数の机がそろっていた。
「遅かったな」
すでにカウラは席に座って携帯端末で先ほどの誠の戦いを繰り返し見ていた。
「飽きねえなあお前も。吉田は隊長室か?」
そう言うと要もカウラの正面の席に座った。
「ああ、クバルカ中佐とお姉さん、それに姐御が二人とも入ったまま出てこないな」
お姉さんと言えばリアナ、姐御と言えば大きい姐御が保安隊警備部部長マリア・シュバーキナ少佐、小さい姐御が技術部部長許明華大佐を指す保安隊の専門用語である。
「タコは帰らないのか?」
この部屋の主である明石清海中佐の机を見ながら要がつぶやく。
「ああ、何でも同盟司法局の研修で偉い先生に質問を始めたら先生が勝手に盛り上がって説明が長引いたんだそうだ。本局から直接あまさき屋に行くからということだったな」
ここまで言うとアイシャは扉の外に手を振った。誠が振り返るとそこにはパーラとエダが手を振っている。
「アタシ等もいくか?」
要はそう言うと椅子をきしませながら立ち上がる。
「そう言えばクバルカ中佐の足はあるのか?」
そう要に尋ねるカウラだが、要は無視してそのまま部屋を出ようとする。
「あの鬼チビも餓鬼じゃねえんだ。タクシー呼ぶくらいのことならできるだろ?」
そう言うと要は一人、静かに部屋を出て行った。




