季節がめぐる中で 41
「結構もったじゃねえか!」
要が少し引きつった笑いを浮かべている。カウラはハンガーの脇の先ほどの戦闘が映っている画像を何度も巻き戻しながら見ていた。目の前には西が敬礼をしている。何か自分でも不思議な感覚に囚われたように感じながら、誠は静かにコックピットから降りた。
「カウラ!ちっとは新人の教育の仕方がわかってきたみてーだな。まあ詰めは甘いけどな」
モニターとにらめっこをしているカウラにそう言うと、ランは慣れた調子でそのままエレベータも使わずに05式から降りて大地に立っていた。
「それとアイシャ!」
明石の機体からエレベータで降りようとしているアイシャ。彼女は自分の方にランの関心が移ったと知るやびくりと背筋を震わせる。
「一応、予備って言ってもオメエもパイロットだろ?もう少し何とかならねーのか?神前に頼りっきりってのは感心しねーな」
奥から出てきたキムが図ったようにランにタオルとスポーツドリンクを差し出す。ランはそれを受け取ると奥から出てきたレベッカを見つめた。
「オメエさんが島田の馬鹿の代わりか?」
突然どう見ても幼女としか思えない姿のランに声をかけられて、レベッカはわけもわからず頷いていた。
「来週にはアタシの07式が届くはずだからな。明華には話しといたが、細かい設定とかの要望はお前さんに出すように言われてるから後でデータの送付先、教えてくれよ」
そう言うとそのまままだ画面を見つめているカウラに向かって歩いていく。
「なんかわかったか?」
後ろからランに声をかけられて、カウラは驚いたように振り返って直立不動の姿勢をとる。
「おいおい、ここはお前等のホームだろ?アタシはまだただ立ち寄った客みたいなもんだ。それにあのおっさんのやり方もあるだろうからな。もっと力抜けよ」
ランは笑いながらそう言ってそのままスポーツドリンクのボトルを手に執務室のある階段を登り始めた。
「お疲れ様でした!」
そう叫んだのはアイシャだった。ランは口元を少し緩めると軽く右手を上げてそのまま階段を登っていった。
「あの餓鬼、いつかシメる」
そう言いながらハンガーの扉に拳を叩き込む要。アイシャはすぐに彼女に駆け寄ると、要の拳ではなくそれが叩き込まれたハンガーの扉をさすった。さすがに手加減をしたらしく、へこんでいないことを確認すると、アイシャは要の肩に手をおく。
「しょうがないじゃないの。一応あんなちびっ子でも私達の教官なんだから。それに腕は確かなのは一番気に入られていた要ちゃんが良く知ってるんじゃないの?」
アイシャのその言葉に、口の中でぼそぼそ聞こえない言葉を漏らしながら要はそのままグラウンドの外で熊と戯れているシャムと整備員達の方に向かって歩いていった。




