季節がめぐる中で 4
日差しを浴びて目覚めた誠はそのままシャワー室へと向かった。昨日あれだけ酷使した左腕を何度か回してみるが、特に違和感は無い。そのまま食堂で施設管理の隊員や教導官達に囲まれて食事をしたが、そこにシンの姿は無かった。
敬虔なイスラム教徒である彼が別のところで食事をすることはよくあることなので、誠も気にもしなかった。そしてそのまま携帯通信端末をいじりながら食事を済ませ、昨日のシンの指示通りハンガーへと向かった。
一両の見慣れた05式専用の運搬トレーラーの周りに人だかりができている。
「マジかよ……」
「写真撮って配ったりしたら受けるかもな」
「アホだ……」
作業着姿でつぶやく陸軍の連中を見ながら、誠はトレーラーの隣のトラックの荷台から降りてきたヨハンと西、そして見慣れた整備班の連中を見つけた。
「神前さん!」
西が声をかけると野次馬達も一斉に誠の顔を見て口をつぐんだ。ちらちらと誠達を見つめてニヤニヤと笑う陸軍の将兵。
「とりあえずパイロットスーツに着替えろよ」
そう言うとヨハンはばつが悪そうに手にしていた袋を誠に手渡す。
「いいですよ、気にすることは無いですから」
誠はそう言ってヨハンからパイロットスーツを受け取るとそのままトラックの中に入って着替えを始めた。
「おい!お前達。仕事はいいのか!」
外ではヨハンは中尉で将校と言うこともあり、ぶつぶつ言いながら陸軍の野次馬達を追い払っているようだった。誠はそんな言葉に自嘲気味に笑うと作業着を脱いだ。
「まああいつ等の気持ちもわかるがなあ」
「駄目ですよシュペルター中尉。中で神前さん着替えているんですから」
「そう言うがよ、西。あれ見たら誰でも突っ込みたくなるだろ?」
着替えながらも誠は二人の雑談を聞いていた。誠は胡州で起きたクーデター未遂事件、通称『近藤事件』での七機撃墜と言うことでエースとして自分の愛機にオリジナルの塗装を施すことを許される立場となった誠。そこで彼はアニメのヒロインキャラを描きまくった塗装を希望したところ、隊長の嵯峨は大喜びでそれを許可した。
痛車ならぬ『痛特機』の噂は銀河を駆けた。
誠はヨハンと西の雑談を聞きながら着替えを終えて外に出た。
「どうだ?調子は」
作業服に身を包んだシンが歩み寄ってくる。
「とりあえず神前は3号機の起動、西達は立ち会え。シュペルターは俺と一緒にデータ収集だ。本部に行くぞ」
『了解しました!』
ヨハン達は一斉に敬礼をするとそれぞれの持ち場へと走る。
「とりあえずコックピットに乗っちゃってください。デッキアップしますんで!」
西はそう言うとトレーラーに飛び込んだ。それを見ながら誠はそのままトレーラーの足場に取り付いた。




