季節がめぐる中で 38
シートの上で何度か体を動かして固定すると、誠はシミュレーションモードを起動した。瞬時に映っていた外の光景が漆黒の闇に塗り替えられる。
「宇宙?」
そうつぶやく誠の顔の前にアイシャのにやけた顔が浮かんだ。
「どうしたの?びっくりしちゃった?」
気楽に操縦系のチェックをしているようで手をあちらこちらに振りかざすアイシャ。誠も同じように機体チェックプログラムを起動、さらに動力系のコンディションを確認する。
「最初に言っておくけど手加減なんかしねーからな。全力で来い!」
そう言って笑うラン。ここでその顔を見たら要なら切れていたことだろう。
「わかりました。じゃあこれから作戦会議ぐらいさせてくださいよ」
そう言ったアイシャにランは少し考えた後頷いた。
「じゃあ、秘匿回線にしますね」
誠も通信を切り替えた。アイシャは運用艦『高雄』の副長という立場とは言え、パイロット上がりである。期待して誠は彼女が口を開くのを待った。
「じゃあとりあえず突撃」
そう言うと髪を手櫛でとかしているアイシャ。誠は少しばかり失望した。
「そんな突撃なんて、作戦じゃないじゃないですか!」
そう言う誠を宥めるようにアイシャは口を開く。
「正直に言うわね。ラン中佐の腕はシャムちゃん以上よ。まずどんな策でも私達の技量じゃ無駄に終わるわ。それにあの人の教導はその素質を伸ばすと言うのがモットーなのよ。誠ちゃんのどこが伸びるところなのか見極めるには下手に作戦を立てるより、今ある全力を見せるのが一番よ」
珍しく正論を言うアイシャを呆然と見つめる誠。
「どうしたの?もしかして私に惚れたの」
「そう言うわけでは……」
「えー!やっぱり私じゃあだめ?」
そう言って目の辺りを拭うアイシャ。これがいつもの彼女だとわかりなぜかほっとする誠。
「おい!いつまで会議してんだ!ぐだぐだしてねえでさっさと終わらすぞ!」
画面に向けて怒鳴りつけているラン。
「じゃあ、がんばりましょう!」
アイシャはそう言うと通信を切った。
「よし、それじゃあ開始!」
そう言うとランも通信を切った。




