季節がめぐる中で 3
マウンドの上。
誠が立っていたのはプロも使う東都大社球場のマウンドの上だった。高校野球東東都大会準々決勝、誠の左腕がメンバーをここまで引っ張ってきた。守備につく仲間達の視線が痛かった。九回裏、ツーアウトからファーボールを連発して一、二塁。打席には四番打者。リードは一点。誠はセットポジションから小さめのテイクバックでアウトコース低めに直球を投げ込む。
『ここはインローに投げたカーブがそのまま高めに浮いて……』
高校生の誠と今の誠。高校生の誠が投げた球に空を切る四番打者のバット。
『ああ、このとき相手は変化球を待っていたんだな……』
ガッツポーズを決める高校生の誠。ナインは手を上げながら彼に抱きつこうとする。
『ああ、あそこでは僕の配球が正解だったんだ』
上空から高校時代の仲間達を今の誠が見下ろしている。
「神前!神前!」
シンの低い声で目が覚める。裾野演習場。寝ぼけた目をこすりながらシンの車から降りると、誠はのんびりと伸びをした。
「さあ、行くぞ」
そんなシンの言葉にもう一度意識をはっきりとさせて周りを見渡す。周りに茂る木々のシルエット。日は暮れていた。停まっている車の数も少ない。そのまま本部の建物に吸い込まれるシンと誠。
廊下には訓練を終えたような東和陸軍の兵士達がたむろしていた。突然来訪したシンと誠だが、東都陸軍と仕様が同じ保安隊の制服を見てすぐに関心を失って雑談を再開した。
「とりあえず実験は明日の朝一番に行う予定だ。神前は仮眠室で寝ていろ。細かい打ち合わせは俺がする」
そう言うとそのままシンはエレベータに乗り込んだ。誠はそのまま一回のロビーを抜け、狭い廊下に入った。
東和陸軍裾野基地は東和でも最大級の演習場を抱えている為、誠も何度かこの基地には来たことがあった。今回は誠の専用機持込での法術兵器の実験ということしか誠は知らされてはいなかった。嵯峨は元々憲兵上がりと言うこともあり、情報管理には非常に慎重を期すタイプの指揮官だと言われていた。これまでも何度か法術系のシステム調整の出張があったが、多くは実際に実験が始まるまで誠にはその内容が秘匿されることが普通になっていた。
誠はそのまま仮眠施設のある建物に入る。正直東和軍らしくかなり老朽化した建物に足を踏み入れるのは気の進む話ではなかった。
手前から三つ目の部屋が空いていたので誠はその部屋のドアを開いた。そして、そのまま安物のベッドに体を横たえて、訪れた睡魔に身を任せた。




