季節がめぐる中で 28
「あのなあ、アタシだって誰彼かまわず喧嘩売るわけじゃねんだよ。それに誠。口から血が出てるぞ」
そう言うと要はそのまま事務所に繋がる階段に向けて歩き始める。誠とアイシャは目を白黒させながら、口の中の卵を殻ごと噛み砕く。
「それにしてもあの熊はやばいんじゃないか?ただでさえ同盟司法局のお荷物部隊ってことで叩かれているアタシ等だ。これ以上何かあったら……」
そう言いながら要は階段の手すりに手をかける。
「それは気にしなくてもよろしくてよ」
要の顔がまた明らかに不機嫌になるのを誠は見てしまった。階段の上で誠達を待っていたのは、隊長嵯峨惟基の長女で同盟司法局法術特捜首席捜査官、嵯峨茜警視正だった。
「なんだよ茜か。ずいぶん余裕だねえ」
そう言うと要はそのまま階段を上がり始める。
「要するにお金と活動権限を制限されること。そちらのほうが問題なのですわよね」
「言いてえことはわかる。嵯峨家の身銭で運営しているうちに手を出せるお偉いさんはいねえってことだろ?それに近藤事件でその実力を見せ付けたうち等だ、逆に予算を増やして監査などを入れやすい状況を作り出したほうが得策と言うわけだな」
要はそう言いながら階段を登りきる。
「それじゃあ権限の方はどうなるんだ?」
下種な笑みを浮かべて茜をにらむ要。だが、茜は表情一つ変えずに語り始めた。
「現状では私達法術特捜は、人員面であなた方四人の兼任捜査官を得ての活動を強いられていますの。法術適正者の特定と把握には東和政府はまだ二の足を踏んでいますが、遼北や大麗では市民の法術適正検査の義務化の法案を通しましたわ」
「あれだろ?本人に通知するかで揉めたって法案。遼北は非通知、大麗は通知だったか。それがどうしたんだよ」
そう言うと要はポケットからタバコを取り出そうとして茜ににらまれる。
「ネットではもうすでに法術の発動方法に関する論文が流出していますわ。自分に法術適正があり、そしてその方法を知ることができる機会があれば……それが何を意味するかおわかりになりますわよね?」
茜の言葉に要は顔色を変えた。
「馬鹿が神様気取りで暴れるのにはちょうどいいお膳立てがそろうって事か」
誠はアイシャやカウラの方を見てみた。二人とも先ほどまでのじゃれあっていた時とは違った緊張感に飲み込まれたような顔をしている。
「でもそんな急に……僕だって実際今でも力の制御ができないくらいだから……」
そう言いかけた誠を見て茜はため息をついた。




