季節がめぐる中で 23
「荒れるか……なるほど。では四大公筆頭、西園寺家の次期当主の見通しを聞こうか」
カウラはそう言うと運転席から身を乗り出して要の方を見上げた。
「ああ。徴税権の問題に関しては親父は早期施行派だが、大河内公爵は施行そのものには反対ではないものの、そのあおりをもろに受ける下級貴族には、施行以前の見返りの権益の提供を条件に入れることを主張している。烏丸家はそもそも官派の支持を地盤としている以上、今回は反対の急先鋒だ。そして叔父貴は……」
要はそこまで言うと再びタバコを取り出して火をつける。周りでは遅い昼食を食べにきた作業着を着た菱川重工の技師達が笑いながら通り過ぎる。
「もったいつけることも無いだろ?嵯峨隊長は総論賛成、各論反対ってことだろ?早急な徴税権の国家への委譲は、ただでさえ厳しい生活を強いられている下級貴族の蜂起に繋がる可能性がある。あくまで時間をかけて処理する問題だと言うのがあの人の持論だ」
カウラの言葉に要は頷いた。
「胡州の貴族制ってそんなに強力なんですか?」
間抜けな誠の言葉に呆れて額に手を当てるカウラ。要は怒鳴りつけようと言う気持ちを抑えるために、そのまま何度か肩で呼吸をした。
「まあ、お前は西と西園寺が会話している状況を普通に見ているからな。これは隊長の意向で身分で人を差別するなと言う指示があったからだ。そうでなければ平民の西が殿上貴族の西園寺家の次期当主のコイツに声をかけることなど考えられない話だ」
カウラはそう言うと要を見上げた。タバコを吸いながら要は空を見上げている。
「でも遅せえな、アイシャの奴。さっさと置いて帰っちまうか?」
話を逸らすように要がつぶやく。
「とりあえずお前はその前にタバコをどうにかしろ」
そして、ずっと要の口元のタバコの火を眺めていたカウラが突っ込みを入れる。誠が生協の入り口を見ると、そこにはなぜか弁当以外の物まで買い込んで走ってくるアイシャの姿があった。
「ったく何買い込んでんだよ!」
「要ちゃん、もしかして心配してくれてるの?大丈夫よ。私は誠ちゃんじゃないから誘拐されることなんて無いし……」
要は仕方なくタバコをもみ消して一息つくと、そのまま携帯灰皿に吸殻を押し込んで後部座席に乗り込む。アイシャは当然のように助手席に座り買い物袋を漁り始めた。
「誠ちゃん。このなつかしの戦隊シリーズ出てたわよ」
アイシャがそう言うと戦隊モノのフィギュアを取り出して誠に見せた。
「なんつうもんを置いてあるんだあそこは?」
要が呆れて誠の顔を覗き込む。
「大人買いじゃないのか?」
車を発進させながら、カウラはアイシャに目をやった。
「ああ、そっちはもう近くのショップで押さえてあるから。これは布教のために買ったの」
そう言って要や誠にも見えるように買い物袋を拡げて見せる。そこには他にもアニメキャラのフィギュアなどが入っていた。




