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季節がめぐる中で 2

「おい、落ち込んでいるところすまないが出かけるぞ」 

 ダグアウト裏から浅黒い肌の髭面を出しているのは、保安隊管理部部長アブドゥール・シャー・シン大尉。誠は彼の言葉に頷いて静かにロッカールームに向かった。

「俺は野球は分からないからなんとも言えないけど・・・さっきの打球は運が悪かっただけだと思うぞ」 

 そう言いながらシンは指で車のキーを回している。

「そうなんですけどね」 

 ロッカールーム。上着を脱いで淡い緑色が基調の保安隊の勤務服に着替える誠。それ以上はシンも何も言えなかった。誠はそのまま着替えを済ませるとベンチから様子を見に来た部隊唯一の十代の隊員の西に荷物を渡した。

「大丈夫ですか?神前曹長」 

 荷物が運ばれてくる。まるで去るのを強制するかのように。西の気遣いが逆に誠を傷つけた。

「これじゃあプロで通用するわけも無いか」 

 自分の動揺に独り言のように誠はつぶやいた。精神面での脆さ。それは大学野球でそれなりの実績を上げた誠のピッチングを褒めちぎる人達がいつも付け加える弱点だった。そしてそれを一番理解しているのは誠自身だった。

「じゃあ行こうか」 

 腫れ物にでも触れるようにシンはそのまま誠を球場の通路に出る。付いていくだけの誠。外に出ればまだ秋の日差しはさんさんと照りつけてくる。歓声が上がる西東都スタジアムを後に誠はシンの車が止めてある駐車場に向かった。

「法術兵器の実験っていうことで良いんですよね?」 

 気持ちを切り替えようと仕事の話を持ちかける誠だが、シンの目には余りに落ち込んでいるように見えるらしくシンは黙ってドアの鍵を外す。沈黙の中、二人はシンのセダンに乗り込んだ。

「無理はするなよ。なんなら眠ったほうがいいかもしれないな」 

 そう言うとシンはタバコに火をつけた。気を利かすように少し窓を開けるシン。秋の風が車の中を吹き抜けてシンの口から吐き出される煙を運び出す。

「どうせ裾野の東和軍訓練場の到着までには時間がある。十分休んでいろ」

 そう言うとシンは車を後退させて駐車場を出た。誠はシンの好意に甘えるように目をつぶった。そしてそのままこみ上げる睡魔に飲み込まれるようにして眠った。

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