季節がめぐる中で 171
「えーと、困ったな私。何を言ったらいいんだろうね」
そう言って視線をそらすアイシャ。長い髪の先に手を伸ばし、上目遣いに誠を見つめる。
誠も困っていた。アイシャ、要、カウラ。三人に嫌われてはいないとは思っていた。それぞれに普通とはかなり違う好意が示されているのもわかっていた。それでもどうしても踏み込めない。そんな誠。そしてアイシャは今その関係を踏み越えようとしているのかもしれない。
そう考えると誠の心臓の鼓動はさらに早くなった。
「クラウゼ少佐……」
「いいえ、アイシャって呼んで」
二人は見詰め合っていた。お互いの呼吸の音が聞こえる。静まり返ったコンピュータルーム。近づく二人の顔と顔。誠にはこの時間がどこまで続くかわからないとでも言うように思えた。
「おい……」
突然沈黙が破られた。データの閲覧を終えた要がいらだたしげに机に頬杖を付いて二人を見上げている。
「ああ、いいぜ続きをしてくれても」
誠の額に脂汗がにじむ。明らかに怒りを押し殺している要。
「要ちゃん、無粋ね」
いつものように挑戦的な視線を投げるアイシャ。要は口元に皮肉めいた笑みを浮かべている。
「人を無視していちゃいちゃするってのは無粋じゃねえのか?」
要の言葉が震えているのに気づいた誠は一歩彼女から引き下がった。
「神前、三又とは良い了見じゃねえか。まず……」
「三又?カウラちゃんと私はわかるけどあと誰がいるのかしら?」
その切れ長の目の目じりを下げて要に迫るアイシャ。
「馬鹿!こいつは人気なんだよ!こんなんでも。ブリッジにもいるだろ?あんだけ女がいるんだから」
「ふーん。私よりあの娘達に詳しいのね要ちゃんは」
その言葉に反撃できずにただアイシャを見上げる要。
「まあ、いい。データの抽出はできたからあとは各事件の共通項を抜き出す作業だ!誠!手伝えよ!」
「素直じゃないんだから」
「何か言ったか?」
要の怒鳴り声に辟易したように両手を上げるアイシャ。誠も次々と自分の前のモニターに映し出されていくデータに呆然としていた。そこで部屋の扉が開く。
「仕事だろ、手伝うぞ」
そう言っていかにも偶然を装うように端末に腰掛けるカウラ。
「邪魔なのがまた来やがった」
そう吐き捨てる要。
誠はいつまでこのどたばたが続くのか、そんなことを考えながら自分の頬が緩んでいるのを感じていた。
了




