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季節がめぐる中で 145

 保安隊運用艦である重巡洋艦『高雄』はバルキスタン内陸の荒涼とした山岳地帯上空を南下していた。眼下には誠の攻撃で意識を失うか全身麻痺の症状を起こしている政府軍、反政府軍、そして難民達が時が止まったように動かないでいるのが見える。そしてその救援の為に派遣された同盟加盟国の軍や警察、医療機関スタッフの車両走り回る様を見ることが出来た。

 誠は一人格納庫の小さな窓から自分が発した非破壊兵器の威力には恐ろしさと戦闘を未然に防いだという誇りを共に感じながらたたずんでいた。警備部はすでにウォッカを回し飲みし、戦勝気分を味わっているが、誠にはその輪に入る勇気が無かった。

「おい、ビール飲むだろ?」 

 要はパイロットスーツの上をはだけてアンダースーツを見せるようにして、手にしたビールの缶を誠に渡した。誠はそれを受け取りながらダークグリーンの作業服の襟を整える。

「これだけの地域の制圧を一人でやったんですね」 

 艦船の他国上空での運行にかかわる条約の遵守の為に低速で飛行している『高雄』だが、すでに07式を回収した地点からは30分も同じような光景が眼下に繰り広げられている。手を振るアサルト・モジュールは治安維持部隊所属の西モスレムのM7だった。

「それだけたいした力を見せ付けたってことよ」 

 アイシャの声が聞こえて誠は振り返った。そこにはパーラと二人でよたよたとクーラーボックスを運んでくる紺色の長い髪の女性の姿が見えた。

「おっ、気が利くじゃねえか。ビールか?それ」 

 要の手にはすでにウォッカの瓶が握られている。アイシャは要を見つめながらにやりと笑うと格納庫の床に置いたそのクーラーボックスを開く。中には氷と缶ビールが並んでいる。

「どうぞ、どんどん取ってよ。あちらもかなり気分良くなっているみたいだしね」 

 アイシャが振り向いたので、要と誠はそちらに視線を走らせる。そこではほとんど飲み比べという勢いで酒を消費している警備部の兵士の姿があった。その中央であまり笑顔を見たことのない警備部部長のマリアが部下の髪を引っ張ったりしながらふざけあっているという光景が展開していた。

「じゃあ私も飲もうかな。疲れたしな」 

 突然のカウラの声に伸び上がる誠。

「そんなに驚かなくても良いじゃないか」 

 そう言うと珍しく自分で缶ビールに手を伸ばすカウラ。

「オメエはできれば飲まない方向でいてくれると助かるんだけどな……あまさき屋の帰りとかに」 

 ウォッカをラッパ飲みしながら要がいつものように皮肉を飛ばす。いつものあまさき屋での騒ぎを思い出しているようで特徴的なタレ目がきらきら輝いている。

「運転代行を頼めばいいだけだろ?」 

 カウラはそう言うと缶を開ける。先ほどのアイシャとパーラが運んできた時の振動で震えていたのかビールの泡が吹き出し格納庫の床に広がる。

「おいおい、慣れねえことするから、誠!雑巾取って来い!」 

 酔った要の言葉に思わず泣きそうな視線を送る誠。

「いいわよ、神前君。私が持ってくるから。アイシャも一緒に飲んでて」 

 そう言うとパーラが居住ブロックに駆け出していく。

「いい奴だよな、あいつ」 

「そうね。本当にいい子よ」 

「となると許せないのは槍田だな」 

 要、アイシャ、カウラの瞳がぎらぎらと光る。誠は彼女をもてあそんだと言われている機関長槍田にどのような制裁が加えられるのかとひやひやしながら三人を見守っていた。

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