季節がめぐる中で 101
「デモンストレーションか。趣味のわりー奴だな」
そう言いながらランはポーチから端末を取り出し、現状の写真の撮影を開始した。
「でもこれでリアナお姉さまの気遣いが無駄になってしまいましたわね」
東和警察と同じ紺色の制服に黒い鞘の日本刀を差した姿の茜が襟元で切りそろえられた髪をなびかせながら下の騒ぎを眺めていた。誠はちらりとランの視線を浴びると頭を掻いた。すでにここを所轄する豊川署の警察官が到着して進入禁止のテープを引いていた。
「でも仕事が優先ですから」
誠の言葉に一瞬笑みを浮かべた茜は端末を取り出して所轄に現状の報告を始めた。
「おい、この状況。オメーはどう思うんだ?」
写真を撮り終えたランが誠を見上げる。その姿は何度見ても小学校に入るか入らないかと言う幼女のそれだった。
「狙いはやはり僕だったと思います。それも攻撃をする意図も無く、ただこちらに存在を知らしめることが目的のような気が……。そのために必要も無い炎熱系の法術を使用して自分の持つ力を誇示してみせた……」
そこまで誠が言ったところで呆れたような顔で首を振るラン。
「ちげーよ。オメーの言った事は士官候補生の答えじゃねーよ。アタシが言いてーのはそこに立ってアタシ等に存在を誇示して見せた容疑者がどういう奴かってことだよ」
そう言うとランの視線が誠を射抜いた。誠はその目が別に誠を威圧しているわけではなく、ランの目つきがそう言うものなのだとようやくわかってきた。
「遼州同盟に反対するテロリストにしては何もしないで帰るというのが不思議ですし、国家規模の特殊部隊ならこのようなデモンストレーションは無意味でしか無い」
首をひねる誠にランは明らかにいらだっていた。
「じゃあ基本的なところから行くか。まず最近のテロ組織の傾向について言ってみろ」
その厳しい言葉はどう見ても子供にしか見えなくてもランが軍幹部であることを誠に思い出させた。
「近年はそれまでの自爆テロを中心とする単発的な活動から、組織的な活動へと傾向が変わりました。近年の代表的テロでは先月、遼南南都租借港爆破事件があります。アメリカ海軍の物資調達担当中尉を買収して、食料品の名目で多量の爆発物を持ち込んだ上で軍施設職員として潜入していたシンパが爆薬の設置を行う。計画性の高い大規模なテロが主流になっています。法術系のテロは近藤事件以降は僕を襲ったあの件だけです」
誠の言葉にランは黙って聞き入っていた。
「そうすると変じゃねーか?アタシも現場にいたからわかるけどこのの非合法法術使用事件は単独の法術師によるものなのはオメーも見てただろ?テロ組織にしたら虎の子の法術師をわざわざ身柄を拘束される可能性があるこんな街中でのデモンストレーションに使う意味がねーじゃん。するとテロ組織とは無関係の単独犯の行動?これほどの力の法術師が組織化が進む犯罪組織に目をつけられないはずはねーな」
そう言いながら頭を掻くラン。誠は少しばかり彼女の勿体つけた態度に苛立っていた。
「それなら誰がここに立っていたんですか!」
誠の語気が思わず強くなる。そんな誠に茜が肩に手を添えて言った。
「つまりクバルカ中佐はこうおっしゃりたいのよ。『既存のテロ集団とは違う法術師を多数要するテロ集団による犯行』とね」
誠は茜の穏やかな顔を見つめた。その瞳が少しばかりうれしそうに見えるのは、茜があの騒動屋の嵯峨惟基隊長の娘であると言う確かな証拠のように誠には見えた。




