季節がめぐる中で 100
誠はいつでも干渉空間を複数展開できることを確認すると、先日嵯峨から受け取った銃、モーゼル・パラベラムを構えながら雑居ビルの階段を登ろうとするランの背中についた。
「的確な判断じゃねーか。まあ、もう少し状況を把握してくれる探知系の干渉空間をはじめに展開してくれたら楽だったんだがな!」
そう言ってランは銃を構えたまま開く扉から出てくる男に銃口を向ける。
雀荘から出てきた近くの大学の学生らしい若い男はその銃口を見て驚きの声を上げた。だが、すぐにランが銃口を下げて階段を下りるように手を動かすと、すごすごと降りていった。
「どうだ?相手は動いてるか?」
ランはそう言うと階段を今度は三階に向けて駆け上っていく。
「感覚的にはそう言う感じはしないですね。しかし、この空間制御力は……相当な使い手ですよ」
そう言いながらランの後ろにぴったりとついて誠も階段を上る。ランも超一流の法術師であることは初対面の時にわかっていた。しかし、ランは一切力を使うそぶりも見せない。
法術師同士の戦いでは力を先に使った者が圧倒的に不利になる。初動の法術は往々にして制御能力ギリギリの臨界点で発動してしまうことが多いため、最初の展開で術者の能力は把握されてしまう。
一応は遼南帝国の精鋭部隊『青銅騎士団』の団長であるシャムや保安隊に間借りしている法術特捜の主席捜査官、嵯峨茜警視正の法術訓練の成果がランの行動の意味を誠に教えていた。
「このまま一気に屋上のお客さんのところまで行くぞ!」
そう言うとランは銀色に輝く切削空間を作り出す。飛び込むランと誠。
昼下がりの生暖かい日差しを目にすると誠はすぐに防御用の空間を展開した。
しかし、目の前のランは銃を下ろしていた。誠もそれまで感じていた干渉空間とは違う感覚が誠を包んでいることを理解した。
「これは少し遅いのではなくて?」
そう言いながら手にした愛刀村正を鞘に収めていたのは、いつも誠に法術系戦闘術を伝授している嵯峨惟基の長女、茜だった。
「逃げたってことか?」
そう言いながら子供向けのポーチに拳銃をしまうラン。
「だとしたらいいですわね。こんな繁華街で破壊活動に出られたら私達は手も足も出ませんわ」
そう言いながら茜はぼんやりと手すりのない屋上から階下の道を眺めた。
『アイシャさん、解決しましたよ』
『わかったわ。とりあえず所轄が来るまで現状の保全体勢に入るわね』
『ったく、つまんねえなあ。この前みたいに暴れてくれたらよかったのによう』
アイシャとの感覚交信に割り込んでくる要。
『あの海に行った時みたいなことはもうごめんですよ』
そう言って苦笑いを浮かべる誠を監視するように見つめる茜。
「あの海の法術師、北川公平容疑者程度ならよかったんですけれど……神前曹長。これ見ていただける?」
そう言って茜は彼女の立っている足元を指差した。
「焦げてるな。炎熱系か?だが確かにあの感覚は空間制御系の力だったぜ」
そう言いながら腕を組むラン。誠の知る限りでは炎熱系の使い手、保安隊管理部部長のアブドゥール・シャー・シン大尉を思い出したが、彼から炎熱系の法術は他の力との相性が悪いと言うことを聞かされていた。
「別系統の法術まで使いこなすとなるとかなり厄介ですわね。それに明らかに今回はまるで自分の存在を示すためだけにここに現れたみたいですし」
そう言いながら茜は首をひねっていた。




