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季節がめぐる中で 10

 沈黙が支配するエレベータを降りたシン達の前に広がる管制室の機器の壁。その中で一際大きな二百キロを越える巨大な体を椅子にようやく乗せながら、大きな手に似合わない小さなキーボードをいじっている男がいた。

「どうだ、シュペルター中尉」 

 声をかけたランに、巨体の持ち主ヨハンは何も言わずに振り返るとそのままキーボードで端末への入力を続けていた。

「とりあえず非破壊設定での指定範囲への砲撃を一回。それから干渉空間を設定しての同じく非破壊設定射撃。どちらも隊長が失敗した課題ですね」 

 モニターに目を向けたまま語るヨハンの言葉に高梨は眉をひそめた。

「兄さんが失敗ですか?」 

 高梨にとっては腹違いの兄、嵯峨惟基が失敗をするということが信じられないことだった。だが、その言葉を聞いて作業を中断したヨハンの顔はきわめて冷静だった。

「あの人の法術能力は確かに最高の部類に入るんですが、制御能力には著しい欠点がありましてね。まあ法術能力の封印をろくに解除の技術も無いアメリカ陸軍が興味本位で解いたものですから」 

 そう言ってまたヨハンはモニターに向き直る。

「しかし、この指定範囲。ホントにここすべてを効果範囲にするのか?やりすぎじゃねーの?」 

 観測室らしい巨大な演習場のすべてを映し出すモニターをランは見つめた。演習場の各地点に置かれた法術反応を測定する機器のマーカー。その範囲は誠が試作法術砲を構えている地点から奥は三十キロ、左右は二十キロというほぼ演習場の全地域が指定されていた。

「この範囲を活動中の意識を持った生物に法術ダメージでノックアウトする兵器か。確かにこれは脅威ですね」 

 この二月。時にCQB訓練やシミュレータを使っての訓練と言う名目で第二小隊の訓練に狩り出されたこともあるシンから見ても、誠の干渉空間制御能力の上昇は著しいものだった。シンのパイロキネシス能力は自らの干渉空間に敵を招き入れることで発動する能力である。だが、誠の作り出す干渉空間はシンのそれを侵食しながら展開する性質のものだった。

 自らの作り出した空間の侵食に気付いた時には、すでに誠とツーマンセルで動いている要やカウラが訓練用の銃をシンの背中に向けていることがほとんどだった。あの室内戦闘では嵯峨と並ぶ実力の持ち主である保安隊警備部のマリア・シュバーキナ少佐ですら、誠の展開する干渉空間への侵食は不可能だと言い切っていた。

 だが、どれも範囲としては五、六キロ四方。今回の試射の範囲とは桁が違った。それだけの広域にわたって干渉空間を形成する。シンは目の前のむちゃくちゃな実験に半ば呆れていた。

「本当にこれだけの範囲を制圧可能な兵器なんて……」 

「シンの旦那。誠の実力からしたら計算上は可能なんでね。そうでもなければこの演習場を午前中一杯借り切るなんて無駄なことはしませんよ」 

 ヨハンはようやくデータの設定が終わったと言うように伸びをしている。

「じゃあ見てやっか、あの餓鬼の力がどれほどなのかよ」 

 そう言うとランは空いている管制官用の椅子に腰を下ろした。

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