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旅路へ向けて


 康明としての生は大したものではなかった。

 日本で生まれて真っ当に義務教育を受けて育ち、大学での一般教養までそつなくこなしてこれた。まぁ一般の社会的には大学2年目でインターネットゲームに躓いた脱落者、と評価されるわけではあるが。

 とどのつまり、セティが指摘するように康明に選択の余地はない。


「なんであれ、言われるがままに流されてみるかぁ」


「それは了承と受け取ってもよろしいですか?」


 セティが手を差し出す。戸惑うことなく手を握り返す。


「おう、よろしく!」


「ありがとうございます。ヤスさん」


「で?このあとはどうすればいいのかな?」


「ひとまず、龍神殿の応接室へ移動しましょう」


 セティの案内の元、少し歩いた先には巨大な神殿が姿を現した。

 華美ではないが威厳ある厳格なつくりの神殿、案内されたその内部も要所には豪華な装飾がつかわれており、ヤスが通された応接室も華やか過ぎず豪華さを感じられる。

 セティは対面に向かい合わせたソファの1つに座るようヤスを促がし、反対のソファに座った。


「ではまず、基本的なことをお伝えします。ヤスさんには地球からイリアースへの最初の移住者になっていただきます。そのためには宇宙空間を私がしたように旅しなければなりません。そこで肉体を捨てていただき、私と同じような存在になっていただく必要があります。」


「移住すれば地球での生は捨てなくちゃいけないわけか」


「そうです。また無理をすればイリアースから地球へ帰ることは可能ですが、もとの地球人とはいえない存在になりますし肉体のほうは存在しませんので全て元通り。とはいきません。もちろん、地球を旅立つまでは全て元通りにすることはできます」


「それでイリアースはどんな世界なんだ?ゲームとしてプレイしてきたから世界観やらは理解しているが違うところもあるんだろ?」


 ゲームで知るイリアースはこうだ。

 知性種とされる人族、獣族、海洋族などが文明をになっており国を興している。しかし生き物としては知性種に満たないとされるモンスターが陸海空と数多に存在し、そのために国々は孤立した文化を形成している。力によって国が脅かされている結果、多くの国は絶対的な力と畏怖の象徴たる龍を信仰している。


「はい、ゲームではドラゴンも討伐対象になってましたがそれはあくまでゲーム性を重視したまでです。ですが地球でいうところのモンスターが実在し数多く生息しています。ゲームと異なる最たるは、ドラゴンが知的生命体であり文明をもつ1種族ということです。そして、私たちドラゴンが文明を牽引する最高の知性種でもあります」


 セティ曰く、各国で信仰されるそれぞれのドラゴンは実際には各々が浮遊する大陸を造りだし、そこで暮らしていると。ドラゴンを除く地上で生きる知性種の平均的文明度は地球でいう中世期前後であり、理由としては外敵との争いからくる人口と国土の拡大が難しいことがあるそうだ。


「なにか修羅な世界なんだな」


「日本人から見ればそのイメージで間違いないでしょうね。でもご安心ください。ヤスさんはあちらに到着したのちに器となる肉体をご用意します。そんじょそこらに負けない身体にいたしますし、浮遊大陸の上でであれば外敵はおらず脅威は一切ありません」


「それは頼もしいな。しかしまぁその浮遊大陸にはドラゴン以外も住んでいないの?安全そうだしそっちの方がいいんじゃないの?」


「住んでいる他知性種の者たちはいます。ただし、その浮遊大陸のドラゴンが認めた者だけです。ドラゴンと同等の知性を示さなければいけません。庇護されるだけになると文明も知性も根腐りを起こし健全でなくなる。それはイリアースにとって良くないことでもあり、当然避けるべきであると全ドラゴンは認識しています」


「ドラゴンは外宇宙まで探査できる文明をもっているのに他の文明は中世程度なのか……なんかバランス悪くないか?」


「それはイリアースの歴史からくる理由が大きいです。ドラゴン族は現状を鑑みるに不老の存在であると仮定されています。そして他の知性種が文明を築くよりも前から知能を持って存在していました。イリアースのドラゴンは地球でのイメージ通りの巨体であり耐久力もあります。滅多なことでは死に至る事態になりませんし、老衰で死んだドラゴンの報告を聞いたことがありません」


「ほぼ不老不死と……」


「そうです。そして他知性種が文明を築いた頃、ドラゴンの討伐を目指した時代がありました。歯牙にもかけない事態ではありましたが、その巨体は目立ちますし、融和を目指そうにも体躯の大きな違いによって困難を極めました。その時、ドラゴンはお互いに協力をし浮遊大陸の建造技術のベースを完成させ、巨体による強引な力によって早期に浮遊大陸を造りだし天空にその身を隠しました。以来、災厄に近い出来事が地上に及ばない限り、ドラゴンは地上の知性種との交流を最小におさえ、有り余る時間を文明の発展と文化の発達に費やして今日に至ります」


「壮大な歴史だなぁ」


「一部不確かな情報もありますが、概ねお話した通りが史実となっています。ドラゴンは非常に長い時間を生きてきたために時間の概念に甘いといいますか、おぼつかないのが常ですので……。体躯から記録をとることが難しく他種を浮遊大陸に招きやっと口頭伝承から脱したのは近代からになります」


「俺はそんなイリアースで何をしなくちゃならない?」


「目的は大事です。ヤスさんには地球人としてイリアースで生活をしていただきたいのです」


「生きるだけでいいのか?」


「はい。幸いにも地球の知的生命体はヤスさんを含め多くの方々がイリアース知的生命体の平均的知性より非常に高い水準で文明、文化を築き上げて維持する社会性のなかで生きていらっしゃいます。」


「だから生きるだけでも文明や文化をイリアースに影響させると……」


「その通りです。イリアースのドラゴンたちは嘆いていました。他の知性種の遅い発展に対して……ですがもはや神と崇められる存在にまでなってしまった私たちでは一方的な押し付けになりかねません。そこで手段の1つとして異星にいるであろう知的生命体を探し出し、願わくばイリアースの他の知性種と交流可能な知性体をイリアースに招致できないであろうか……それがイリアース外知的生命体探査計画の全貌になります」


 無駄に壮大である。そう考えてしまうのはイリアースの住民ではないからであろう。ヤスはここまでの話を聞き、この光栄な招致に快く応じようと決意した。丁寧に説明を重ねてくれるセティに好感を持ったこともあるが、なにより先ほどから平静を装っているなかたびたび耳に入るドラゴンという響きが、ヤスには甘美な誘惑になっていた。


「それじゃあご招待に与ろうかな。でもどうやってイリアースへいくんだ?結構どころじゃない距離だよな?」


「私たちは肉体がありません。出発後に意識を深層に落とし込み、地球でいう通常の質量物質が移動することのできる限界値、光速を超えた速度でイリアースへと向かいます」


「もうなんでもありだな」


「私たちの技術はありものと力ずくでの実現が主なのですよ。実体を伴う細かな作業は出来ませんので」


「じゃあ出発方法は?」


「出発はこの龍神殿の本殿にある魔方陣からになります。まぁここにご招待した時点でどこからでも出発は可能なのですが、気持ちの問題です」


「そしてこっちの俺の身体はそのまま死んでしまうのか……」


「なにか未練がございますか?」


「未練ってことじゃないが、どうなるのかとおもってね」


「一応、私無き後もイリアース戦記は運用を続きます。後処理として、プレイ中に脳波取得ができなくなったが微弱な信号がでているプレーヤーがいると救急センターに通報がおこなわれます。誰かにお別れを言いたい場合には別途手を打ちますがどなたかいらっしゃいますか?」


 ゲームプレイ中の死亡。廃人には良い終わり方かもしれないとヤスは思う。

 そしてお別れをいう相手を考えるが思いつかない……というかゲーム中以外の会話相手に知人がいない。はぁ~5年間とは恐ろしいものであったとヤスはしみじみ思った。


「別れを言う相手はいないな。強いて言えばこのゲームのプレーヤーキャラクターには未練があるかもしれん」


「でしたら銀龍の守護者として銀龍と共闘するNPCに御仕立てしましょう。記念になりますし、ついでに銀龍をセティとネームドしてしまいますね」


 ニコニコとセティは名案を閃いたとうきうきになっている。

 ヤスはソファから立ち上がり、追従してセティも立ち上がる。応接室をでてセティの案内の元に本殿へと移動する。


 本殿はゲームで転移魔方陣がある神殿をより大きくしたものであった。見事な銀龍の彫像が魔方陣を見下ろしている。ヤスはセティに魔方陣の中へと誘われた。


「ここから新しい人生が始まるのか」


「はい!それでは出発しますね」


 セティが手を差し出しヤスは握り返す。

 目を瞑ったセティが静かに厳かに呟き始める。


「イリアース龍神の銀龍。その分体がひとり、セティ。いま新たなる同胞、ヤスを誘い帰還する」


 足元の魔方陣が途端に神々しく光だし、二人を包み込む。

 セティに呼ばれた時に感じた浮遊感がやってきた後、ヤスの意識はプッツリと途絶えた。

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