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最強彼氏。

作者: 柚希 幸希

「あ、ご・・・ごめん!」


 今私のすぐ目の前にいる彼は、まるで林檎あめのように真っ赤な顔になっている。


 整った、端正な目鼻立ち。

 さらりとした、つややかな黒髪。

 ちょっとつり上がった、涼しげな美しい目元。

 お肌は艶やかスベッスベな赤ちゃんたまご肌って、どこの少女漫画の王子様ですか?


 街を歩けば10人中9人の女どもが、顔を真っ赤にして目の形をハートマークしながら振り返るであろう。

 すれちがった同性であろう男どもは、涙を流しながらギリギリと歯ぎしりしてしまうほどに、うらやむような容姿を持った人物。


 彼が人目を引くのは、それだけではない。

 なんせ中学生時代には、バスケットで全国大会3連覇に、おおいなる貢献をなさった人物だ。

 高校に入学してからも、バスケット雑誌の表紙を飾るほどに、均整のとれたとってもお素敵な体格もしていらっしゃる。

 おまけにモデルにスカウトされるほどに、背も高いしね?


 そんでもって、同じ高校に通っているから知っているんだけど、お勉強もかなりお出来になるようで・・・。

 “非の打ち所のない人物”とは、こういう人物の事を言うのでは、ないのだろうか?

 

 そんな夢見る乙女が憧れる、二次元にしか存在しないような人物は今、互いの吐息がわかるほどに、私と顔を突き合わせているのである。


 え? 

 なんでかって?

 

 まさか皆さん、私のことを絶世の美少女か何かと、勘違いなさっているのではないのでしょうね?


 ということで、ここでクラスの皆さんが、私のことをどういっているのか、少しですがお知らせしましょう。


 『ああ。あの入学当時からの、保健室の常連さん? な人のことでしょう?』


 『見るからに、“根暗”ってかんじよね? あれじゃない? オタクか腐女子なんじゃない?』


 『三つ編みメガネの無口女。なんか怖い・・・』


 『え? アレでしょう? 2次元に彼氏かいるとか、ああいうタイプでしょう?』


 『挙動不審な人のことだよね? 落ち着きがないっていうか・・・』


 と、いうことで・・・。

 クラスメイトにでさえ、名前ですら覚えてもらえない地味で目立たない女子高生、それが私なんですよ。


 だからこそ、ビックリなんですよ。

 なんでこんなにも目立たないこの私めが、キラキラと眩しい世界の住人である彼に、声をかけられたのか?

 しかも今現在のシュチュエーション、天地がひっくり返ってもあえりえないこの光景。


 ・・・の横でも、さらなる意外な出来事が、起こっているわけで。

 そっちは、目の前のほんのりピンク色なできごととは違って、思わずドン引きしてしまうような・・・。


 なので実のところ、どんな顔をしていいのか、全くわからない状況なわけなのですが。

 ひとまず、彼には言わなくてはならないことがある。


 この状況・・・彼が謝ってきたのには、立派な理由がある。

 といっても、決して彼が悪いわけではない。


 そう。

 これはいわゆる、不測の事態といいますか、不慮の事故? ってやつですかね。

 よって、私が彼にかける最良の言葉は・・・。


「いえ・・・。こちらこそ、ありがとう!」


 引き攣りまくる顔の表情筋を必死に動かし、懸命に笑顔を作って彼に礼を述べた。

 ただただ、感謝の意味を込めて!

 なのに・・・。


「え? じゃあ、OKってこと(・・・・・・)?」


 目の前の彼は、とても嬉しそうな顔で、私に向かってニッコリと、満面の笑みを向けた。


「!!!」


 その彼の表情に対し、私は反射的に自分の目の上に手を置いてしまった。

 

 だって!

 目がチカチカとしてしまうほどに、まるで太陽を直視したかのような、眩しすぎる笑顔だったんだもん!


 これは、ヤバイ!

 はっきり言って、反則だわ!


 こんな爽やかな笑顔を向けられたら、あなたの要求を拒否する(・・・・・・・)女性なんて、世界中どこにもいるわけないじゃない?

 って、そう思えるくらい、眩しくもうっとりと見とれてしまうほどの、素敵な笑顔。


 思わず、


「もちろんです!」


 って言いそうになってしまったのだけれど・・・。


 ん??

 待て待て!

 いや待って、私!

 落ち着こうよ、私!


 だって、違うでしょう?

 私はあくまでも、助けてもらったこと(・・・・・・・・・)に対して、お礼を言っただけでしょう?


「じゃあ早速、今から一緒に帰ろうよ」


 彼は相変わらず、直視できないほどの眩しい笑顔を向けている。


 ・・・のだが?


 今、それどころじゃないでしょう?

 あなたは見えない(・・・・)から、全然問題がないかもしれませんが・・・。

 私には、見える(・・・)んです!


 小さい頃から、私には見えないものが見えた。

 そのおかげで嘘つき呼ばわりをされ、周りには奇異の目で見られるようになり、今の性格に至ってしまったわけですが。


 だから、わかるんです!

 私、自分の大ピーンチ! から、もしかして救ってもらったの? と。

 まあ、彼本人は全くわかっていないようですけど・・・。


 第一、あなたが今、不本意ながらも私に対してこういう態勢を取ってしまっているのも、ソレが原因(・・・・・)だからでしょう?

 見えないせいだからか、あなたはソレに躓いた拍子に、思いっきり蹴り飛ばしていましたが・・・。


 それはずっと、彼の後ろをついていた。

 地面から顔の2/3を突き出し、ズルズルとまるで蛇のように這いずりながら、彼のあとを付いていたのである。

 

 自分の周り一面を、真っ黒いモヤのようなもので覆い尽くしながらも、私を認識した瞬間、まるで暗殺者のような目を私へと向けた。


 それから。

 彼が私に放った一言を聞くなり、今にも飛びかかってきそうな勢いで、顔を突き上げたのだ。

 それはもう、“鬼女”と言っても過言ではないくらいに、恐ろしい表情をしながら・・・。


 その結果・・・・・・。


 蹴っ飛ばされたソレは、顔面抑えて悶絶しながらも、その場で転げまくっておりますよ。


 ・・・おかげさまで木の陰に隠れていたはずの本体(・・)は、激痛に我慢できず、思いっきり姿を現して、その場で地面を転げまわっておりますが。


 うん。

 やっぱり、当たりだ!

 あまりにも怖い形相だったので、最初は自信がなかったんだけど・・・。


 隣のクラスの、柳原さんだ。

 入学早々、可愛いと男子生徒の間で人気があるという、あのちょっと化粧が濃くない? って思っていた人だ。


 その“新入学生人気№2”の彼女は、全身泥まみれで砂埃を立てまくりながらも、地面を転げまわっております。


 そして、私の顔のすぐそばには・・・。

 その柳原さん? に躓いた拍子に、彼は私の背後の壁に、手をついてしまったわけなのだが・・・。


 普通ならこのシュチュエーション。

 学校で人気のイケメンに、壁ドンされたら普通は、思いっきり喜んじゃう美味しい展開なはず! なんですけどね?

 でも私、今この状況に喜べないっていうか、顔が引きつってしまっているからね?

 

 思わず壁に手をついてしまった彼によって、思いっきり壁に顔をのめり込まされてしまった、女の子。

 さっきまでドスの効いた低い声で、まるでお教を読むかのごとく、私の悪口を思いつくままに綴った女の子。

 私の耳元で、生暖かい息を吐きながら、悪態の限りを突きまくっていた、女の子。


 確か、同じクラスの・・・。


 って思っていたら、こちらも変なうめき声をあげながら、少し遠くの草陰から、姿を現しましたよ?

 しかも柳原さんと同じように、顔面両手で押さえながら、地面を転がりまわって全身を泥まみれにしながらも、悶絶していらっしゃる。


 彼女も、最初は柳原さん同様、モノすっごく恐ろしい形相だったから、今ひとつ自信がなかったのだけれど・・・。


 今回の新入生人気№1の美少女、市原さんではありませんか!

 男子生徒の前と、女子生徒の前では明らかに声のトーンが違う、あの女の子だ!


 ・・・そっか・・・。

 二人共、彼狙いだったのね?


 なのに、彼が私に告白なんてしたりするから、


『あなたの笑顔に、一目ぼれしました。これからもずっと、僕のそばで笑っていてください』


 なんて、爽やかな笑顔を携えて、そんなことを言ったりするから・・・。

 ・・・・・・だから、こんなこと(・・・・・)になっちゃったのね?


 それにしても・・・。

 生霊になってストーキングするくらいに、二人とも彼のことが好きだったのか・・・。


 まあ、他にもいるんですけどね?

 たぶんきっと、私にしか見えていないはず・・・なんですけどね?


 なんて考えていたら・・・。


「ほら。いつまでもそこにいたら、制服が汚れるよ?」


 彼は私の手を取り、壁から引き離すようにそっと優しく、自分の方へと引き寄せた。

 と同時に、


『グフッツ!!!』


 これまた女性のうめき声・・・。

 

 今度は、後ろに頭を引いた彼の頭が、これまたひとりの女の子に、ヒットした。

 低い蠢くような声で、ブツブツと何かをつぶやいていた、その女の子の顔面に・・・。


 しかし、彼はそんなことに、全く気が付く様子もなく、ただ嬉しそうに私へニコニコ笑顔を向けている。


 と同時に、首だけ少女は姿を消し・・・・。


 渡り廊下の陰に隠れていたであろう、ひとりの女の子が、これまた顔面を両手で抑え、地面を転がりまわりながらも悶絶している。

 そんなに暴れたら・・・。

 パンツ、見えまくりですよ? 先輩!

 

 ということで。

 今度は1つ年上の美人だと有名な、栗沢先輩だった。


 そう。

 この学校、“女性の生霊”が多すぎる!

 入学式の時から、気になっていた。

 まあ、思い入れの強い女性ばかりが、何故かこの学校に集まってしまったのだろう。


 っていうか。

 どんだけ彼のこと、好きなんですか?

 そんな、意識だけすっとばしちゃうくらいに・・・。


 いろんな見覚えのある女性たちの顔が、半透明となってあちらこちらに出現しているのだ。

 多分皆、自分がそんなものを無意識に飛ばしているということにも、気づいていない様子なのだが。


「じゃあ、行こうか?」


「え?」


 彼は私の左手首を掴んだまま、嬉しそうに第一歩を踏み出した。

 

 ・・・と同時に、


「ギャ!!」


 私にだけ聞こえる、女性の叫び声。

 まるでもぐらたたきのように、地面から突き出ていた女の子の頭を、彼は思いっきり踏みつけたのだ。


 と思ったら・・・。


「縮む! 縮む~!」


 と叫びながら、これまた違う草むらの影から姿を現した、地面をのたうち回るツインテールの女の子。

 頭を思いっきり抑えながら悶絶している彼女は、間違いなく今、彼に踏みつけられた女の子である。


「え? あの・・・」


「ん? どうかしたの?」


 と、彼が不思議そうに私の顔を覗き込みながら、首を左に傾けた。

 と同時に、


「グハッ!!」


 彼に襲いかかろうとした、ゴリラ顔のごっつい男性に向かって、顔面ヒット!

 と、同時に。


「ウホッ~~!!」


 と、まるで本当のゴリラのような雄叫びが、校舎の中から響いてきた。

 え?

 この人はなんで、生霊になったの?


「大丈夫? もしかして、気分が悪い?」


 そう言うと彼は、コツン・・・と私の額に、自分のそれをくっつけてきた。


「え? いえ・・・。だ、大丈夫です!」


 私はとっさに、自分の額を彼のそれから離す。


「あ、ごめん! 馴れ馴れしかったかな?」


「え? いえ、その・・・。心配してくれて、ありがとうございます!」


 私はぺこりと頭をおろし、膝にくっつくくらいに腰を曲げた。


「熱はなさそうだけど・・・。歩ける? それとも、保健室に運ぼうか?」


「いっ、いえ! どうぞおかまいなく!」


 今の私、気分が悪いどころか、体がとっても軽くて気分爽快なんです!

 そう。

 彼が私に触れた、あの瞬間から・・・。


 偏頭痛がすっかり消え、まるで石が乗っているかのように重かった肩も、すっかり軽くなったのだ。

 まるで・・・。


「まるで、あのお守りの効果みたい!」


 私には最近、心強いアイテムができた。

 学校の近くにある、神社の境内で売られている、お守りのことだ。


 小さい頃から、見えないものが見え、おまけに視線があった途端に、追っかけ回される日々を送っていた私。

 入学早々、やっぱり追っかけられたわけで・・・。

 とっさに、近くの神社へと全力疾走をした。


 今までの経験上、神社やお寺の境内に入ると、そこからは追いかけてこなくなるからだ。

 まあ、ムダなところもあるのだけれど・・・。

 しかし、この神社は効果があるらしい。


 その結果に気分をよくした私は、境内で売っていた“お守り”を購入。

 これがまた、ご利益絶大で・・・。


 今まで学校に通うのもままならなかった私が、普通に通えるほどに、霊障なるものは起こらなくなったのだ。

 そのお守りと同じように・・・。

  

 見えていないはずの彼は、無意識なる物理攻撃? なるものによって、次々と生霊たちに大打撃を与えていた。

 通常生霊にダメージなんて、ましてや触れることさえもできるはずがないはずなのに・・・。

 彼が行動を起こすたびに、次々と消えていく霊障。


 そして・・・。

 今までに味わったことのない、心が解放されたかのようにとても軽く、そしてすがすがしい気持ちになっていく私。


 彼といるから?

 彼がいるから?

 

 もしかして、彼といれば私・・・。

 そう思い立ったとき、私の心は決まった。


「? どうしたの?」


 これまた心配そうに、キラキラと輝くブラックダイヤのように、澄んだ黒い瞳を向ける彼。

 その彼の視線をなんとか気力でもって、がんばって見つめ返すことに成功した私は、その場で膝を折った。

 そして三つ指をつき、地面に額を擦り付けるがごとく、深々と頭を下げると、


「ふつつかものですが、よろしくお願いいたします!」


 ありったけの思いを込めて、そう願い出たのである。

 これから起こるであろう、楽しい学校生活を夢見ながら・・・。

~帰り道にて。


「そういえば、どこで私の笑顔を見たことがあるんですか?」


 そう。

 私は度重なる霊障のせいで、笑顔なんてここ何年も作った覚えがない。

 なのに、なぜ?


「え? だってうちの神社でお守り買ったとき、とっても幸せそうなふんわりとした、こっちの心まで癒されるような、優しい笑顔をしてたじゃない? オレ、あんな素敵な笑顔のできる女性、君が初めてなんだ」


「え? うちの神社?」


「そう。あの神社の神主の息子です」


「え?」


「ちなみに境内販売しているお守りには全て、効能があるように心を込めて奉納しています」


「・・・と、いうことは!」


 私のとる行動はただ一つ!


「末永く、よろしくお願いします。私、がんばりますね!」


「え? 今のままで十分だよ。オレのほうこそ、末永くよろしくね!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 女の子って、心の底から笑うとみんな可愛いですよね(*゜▽゜)ノ [一言] どんどん綺麗になってください(*゜▽゜)ノ
[良い点] 超イケメンの神主(予定)、凄くイイ…。 無意識に霊をぶっ倒せる男性ってなんだか格好いいですねw 見えると自覚してる系男子だと別に格好良いとも思わないのにな…。なんでだろう。 [気になる点]…
[良い点] 無意識の蹂躙 [一言] この学校には「美人はストーカーを行い、かつ、地面でのたうち回らなければならない」という校則でもあるのですかw
2016/09/24 00:57 弟は姉のサンドバッグ
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