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2話

ドアの前にいた女性は、どことなく誰かに似ているようで似ていないようで、膝くらいまである白衣を着ていた。

 映画で鍛えたはずのドッキリ耐性をはるかに斜め上だった衝撃に、私は思わずポカンと口を開けてしまっていた。

 せめて生きてない人間か、幽霊だったらどれだけよかったことか……。

「アハハ。わかるよその気持ち。私もそういう感じだったもん」

 目の前の白衣の女性はそう言った。

「覚えてないかなぁ。結構前に会ったんだけど、あの時はまだ小っちゃかったからなぁ」

 そう言うと、彼女は私の部屋の中へとズカズカと入ってきて、開きっぱなしになっていたパソコンの画面を見た。

「うへぇ……なんともまぁ物好きな……」

 その声で我に返った私は、慌てて彼女とパソコンの間に身体を滑り込ませ、パソコンを背にして彼女と向き合った。

「ど、どちら様ですかっ?」

 少し声が上ずってしまったような気もするが、彼女は気にしてない様子でケラケラと返した。

「私? 私はひーちゃんのいとこよ。覚えてない?」

「……いとこ?」

 ひーちゃんというのは私のことだ。『日香里(ひかり)』という名前で、小さいころは自分のことを『ひーちゃん』と呼んでいた。その呼び方を知っているということは、本当にいとこ?

 疑わしげな視線をニコッと笑みを作る彼女に向けながら、記憶の引き出しを片っ端から開けていった。しかしながら私はいとこという存在がいたためしがなかった。という以前に、両親に兄弟がいたということ自体初耳だった。だからいとこなんて……。

「まぁ無理もないか」

 思い出してもらうことを諦めたのか、彼女は頭をポリポリとかいて背を向けた。

 少しだけその背中を睨みつけるように私は凝視していたが、振り返る様子の無い背中に少しだけ隙ができたと察し、今しかないと思い、パソコンをスリープ状態にした。

「ひーちゃんはさ、やっぱり葬式に行かなかったの?」

「えっ?」

 背を向けたまま話す彼女。私は質問の意図がわからず、間抜けな声を出していた。

「いや、それだけグロイのが好きなんなら、死体を見るチャンスじゃん。死体でも焼かれるところを見るのは滅多にない機会だよ?」

 ……確かに。そんなこと考えもしなかった。ただお坊さんの眠たくなるお経を聞いて眠気と戦うだけの儀式だと思ってた。それにその両親の友達だって人に会ったこともないし。知らない人たちに囲まれるのも……得意じゃないし。

 第一、私はグロ画像とかには慣れてるけど、実物を見たことはないし、それに何より『好き』というのとはまたちょっと違う感じがする。

「まぁいいけどね。私も葬式とか面倒だと思ってるし。骨とか海に撒いてもらいたい派。ひーちゃんもそっち派?」

 どっち派、なんだろうか? 死んだ後のことなんてどうしようもないじゃないか。結局は残された人の都合の良いように奉られるんだ。それか何かのウイルスに感染してゾンビになる。しいて言うなら私はそれ派だけど、この人に言っても通じないだろう。

「人は死んだらどうなるんだろうね。やっぱり幽霊になるのかな? それとも成仏して天国なり地獄なりに行くのかな? あっ、ひーちゃん的にはこっち系のほうがいっか」

 本棚にあったゾンビ関連の本を指さすと、ケラケラと笑った。

 なんだこの人。私は今更になって、この人がここにいるのかに疑問を持ち始めた。

「あの」

「ん?」

「えっと、いとこのあなたは、なんで……何しに来たんですか?」

 その質問に彼女は目を丸くして驚いたようだった。そしてすぐにフッと笑みを作った。

「いい質問だ。私はひーちゃんに会いに来たんだ」

「でしょうね」

「その返しはあまり良くないね。まぁいいや。いとことして、ひーちゃんの人生の一大事だと聞いて駆け付けたわけだ」

「一大事?」

「今日のお葬式に行かないと、一生損することになるよ?」

「はぁ……」

 私は深くため息をついた。一体何事かと思ったら、私を葬式に連れ出しに来たのか。いとこだかなんだか知らないけど、正直知らない人の葬式なんて苦行でしかないだろう。

「さっ。行こうか」

「えっ、ちょっと、私行きませんって」

 私の手を掴んで部屋を出て行こうとするいとこ。しかし私は足に力を入れて踏ん張ると、それ以上は進まなかった。互いに力を入れあっていたため、手首と肩が痛かった。

「いたっ……」

「ほら。痛いなら力抜いて立ち上がって」

「そうじゃないでしょ! あなたが手を離してくれれば済むことでしょ!」

 声を荒げながら抵抗するも、なかなか手を離してくれそうになく、挙句の果てには両手で引っ張ってきた。

「ほーらー、いーくーよー!」

「いーきーまーせーんー!」

 少しの間、連れて行こうとするいとこと、踏ん張る私の小さな戦いが繰り広げられた。

 こんなわけのわからない状況で負けてたまるかと思い、後ろに力いっぱい引いていた。しかし、

「きゃっ!」

 急にいとこが私の手を離したので、私はしりもちをついて机の脚に背中をぶつけた。痛かった。

「ちょっと! 急に離さないでくださいよ!」

「んー、強情だなぁ」

「人の話聞いてます?」

「じゃあさ、引っ張っていくのは諦めるから、おとなしくついてきてくれない?」

「そういう問題じゃないです! って、ホントに全然私の話聞いてなくないですか?」

 私の言葉は遥か彼方へ飛んで行ってしまったようで、いとこは顎に手を当ててうーむと唸った。

 だめだこりゃ。こうなると満足のいく結果になるまで動かない。頑固なんだから。

「……ん?」

 あれ? 頑固? なんで私そんなこと思ったんだろう?


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