1話
今から5年くらい前。中学生だった私は、いろいろあって引きこもりをやっていた。特に誰からかいじめられたとか、不良だったとかではなく、ただ単に自分よりも頭が悪い人たちと同じ空気を吸っているのが嫌になったのだ。私の家は裕福な部類に入り、適当に大学を卒業しても、父の会社に入れば将来は安泰だった。それに加えて、私自身も勉強は嫌いじゃなかったしできる方だったもんだから、なおさら他人が頭の悪い存在に思えてしまい、外に出るのが嫌……つまるところの引きこもりというやつになっていた。
そんな私の趣味は、グロ系の画像収集だった。最初はほんの軽い気持ちでホラー映画を見ていたのだけど、その映画の特殊メイクのすごさに惹かれ、次第に特殊メイクだけでは物足りなくなってきて、リアルのグロ画像の収集に凝っていった。そして私もそんなメイクにも興味が出てきて、最初はペンケースの中に入ってた赤と黒のペンで傷を描くのから始まり、それが次第に大きくなり、最終的には特殊メイクかと思われるような傷跡を身体に描いて、死体ごっこまでするようになっていた。
絶対と言っていいほど他人に言うと引かれるため、だれにも言わずに、一人で引きこもりの暇つぶし感覚で楽しんでいた。
ネットでグロ画像を見て、死体ごっこをして自己満足に励む。そんな毎日だったけど、それなりに楽しんでいた。私は特に欲がなかったから、親からしてみれば引きこもりであること以外は、手がかからなくて楽だと思われていることだろう。
そんな生活を続け、気がつけば高校もあと半年で卒業となるところだった。高校といっても普通の高校じゃなく、通信の高校に通っていた。月に何回かだけ登校すればいいだけの学校だ。勉強はできたけど出席日数が足りず、なんやかんやで通信制の高校を選んでしまっていた。相も変わらず趣味は飽きることなく、グロ画像の収集と死体ごっこ。愛用のパソコンのフォルダもグロ画像だらけで、見る人が見たら卒倒してしまうレベルにまで集まってしまった。図鑑でも作れるのではないだろうか。
今日も今日とて部屋でパソコンとにらめっこし、グロ画像やらメイクのサイトをカチカチと漁っていた。
「じゃあお母さん達行ってくるから。夜ご飯は台所にあるからね。ちゃんと食べるのよ」
「うん、わかった。いってらっしゃい」
今日は両親の共通の友達のお通夜と葬式ということで、夜は一人きりだった。一緒に来るかと聞かれていたが、特に私は知らない人なので簡単に断った。一人きりになってもすることは変わらないけど。
しかしだった。
コンコンコン。
家の中には誰もいないはずなのに、私の部屋がノックされた。今さっき出て行ったばかりの両親が帰ってきたなら、どちらもノックの後にドアを開けずに話し始める。
おかしい。もしかすると不審者かもしれない。でも律儀にノックをする不審者がいるだろうか? もし私を襲いに来た系の不審者だとしても、突然入ってきたほうがビックリするんじゃないか?
私が妙に冷静なのは、やっぱりホラー映画の見過ぎなのだろう。大抵のパターンは慣れてしまっていて、むしろこっちのパターンのほうが驚くのでは、とまで考え始めていた。
コンコンコン。
私が無駄にじっくりと考え込んでいたのか、またドアがノックされた。
私はやれやれと思いながら、椅子から立ち上がり、ドアへと向かった。心の準備とかそーゆーのはほとんどできてる。映画で慣れた。
大した気構えも無しに、ドアを開いた。
そしてそこにいたのは、ゾンビでも幽霊でも両親でもなく、知らない大人の女性だった。