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新ダークでエルフな吸血鬼  作者: 夕凪真潮
第一章 おばあちゃん編
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3 初めての吸血

今回少々グロです



「ほらほら、どうしたのかい? こんな老婆のか弱い防御すら抜けないなんて、アオイもまだまだだねぇ」

「くっ、なんで、このっ?!」


 俺の魔力の乗った拳をおばあさんの杖が受けると、まるで氷の上を滑ったかのように力が後方へと流れていった。

 その隙に、おばあさんの開いている拳が俺の腹へ当てた瞬間、とんでもないインパクトと共に俺は吹き飛ばされた。


「ぐっ?!」

「その程度かい? 最近の若いもんは、ひ弱だねぇ」

「ま、まだまだ! ライトニングセイバー!!」


 右手に魔力を貯め、一気にそれを引き出した。

 黄金色に光る魔力で生み出した剣、ライトニングセイバーだ。

 その魔力剣を老婆の頭へと振り下ろす!


「よっと」


 が、老婆の持つ杖の先端がライトニングセイバーの刃を軽く弾くと、なぜか魔力で生み出したはずの刃が霧散して消え去った。


「へっ?」

「ほらほら」


 あっけに取られた俺の隙を突いて、老婆の杖の先端がまたもや俺の腹に当たると、そのまま再び吹き飛ばされた。



 何故俺がおばあさんと模擬戦をしているのかと言うと。


 拾われた初日、おばあさんが若い頃使っていたお古のローブを譲ってくれた。

 着ていたものは魔物の毛皮を適当に切って巻きつけただけの格好だったしな。

 ローブの裾を結ってくれて、今の俺にぴったりなサイズにしてもらった。


 そして二日目はおばあさんが採ってきた薬草を煎じているのを眺めていた。

 薬草同士を混ぜるときに繊細な魔力を送ってやると、全く別の効能を持つものに変化するのだ。

 魔薬草学と呼ばれるものらしいのだが、奥が深そうだ。

 そして暇なら読んでろ、と魔薬草学の本を渡された。

 さらっとは読んでみたものの、意外と簡単に出来そうだったな。


 そして三日目、あまりにのんびりな生活だったため今日は裏庭で軽く運動をしていたら、おばあさんにちょっとかかってこいやと言われたのだ。



 最初、おばあさんの枯れ枝のような身体に万が一俺の拳が当たれば粉々になる、手加減しなきゃな、と思っていたのだが、出鼻でいきなり鋭い魔法を喰らって十メートル以上も吹き飛ばされたのだ。

 そこから本気を出して攻撃したのだが、全て軽く受け流された。

 さすがに身体の動き自体は緩慢なものの、完璧な魔法制御、判断力、魔法展開速度、魔法の威力、どれをとっても俺では足元にすら及ばなかった。

 目一杯魔力を載せた一撃を軽く受け流され、カウンターで杖の一撃を貰う。

 これを幾度となく繰り返された。

 しかもカウンターを喰らう場所は全て腹なのだ。

 狙おうと思えば、頭だろうが足だろうが狙えるはずなのに、一番ダメージの通りにくい腹に全て当てられている。

 つまり、ものすごく手加減されているという事。


 なんだこのおばあさんは?

 ワンコの最初の主も、ソロで古竜を倒したと言っているし、新大陸に住む人々は全員強いのか?!

 こんなおばあさんですら、俺如きでは勝てぬと。

 新大陸とは修羅の国か、恐るべし!!


「ま、まいりました!」


 三十回ほど受け流され吹き飛ばされたあと、俺は降参することにした。

 受けたダメージ自体はすぐ回復するものの、全く勝てる要素が見つからなかったのだ。


「ふぅ、これじゃ何年かかってもあたしに指一本触れることすらできやしないね。それにしても久々に運動したけど、やはり年には勝てないねぇ」


 おばあさんは、よいしょと、構えていた杖を降ろした。

 こうしてみると単なる気のよさそうな老婆なのだが、あの強さで年には勝てない、と言っているのかよ。

 若い頃は一体どれほど強かったのだろうか、想像すらつかない。


 俺は最初、新大陸に渡ったあと冒険者になって稼ごうと思っていた。

 何せ魔大陸でワイバーンやドラゴンなどを狩っていたのだ。

 こっちの大陸でもそれなりにやっていけるだろうと思っていたのだが、それは甘い見通しだったと思わざるを得ない。

 こんな老婆ですらこの強さなのだ。

 精鋭の冒険者たちならば、一体どれほど強いのか想像すらつかない。

 指先一つで、古竜などダウンさせるに違いあるまい。


 もっと強くなる必要がある。


「ぜひ私の師匠になってください!」

「だが断る」

「な、なぜですかっ?! 私如きでは、弟子にすら出来ないとおっしゃっておりますか!」

「そうさな、まずはあたしがやっている魔薬草学を覚えてからかね」

「分かりました! 是非ご教授ください!」

「しかしアオイは本当に七歳なのかね。どこでそんな難しい言葉を覚えたものか不思議だねぇ。まあいいや、まずホルトミン草とエパイダラ草、それぞれ一キロほど採って来て貰おうか」

「分かりました! ところでどこに生えているのでしょうか?」

「左手にある山ん中だよ。特徴は昨日渡した本を見れば分かる」

「了解しました、行ってまいります!」


 俺は麻袋を背負って、ダッシュで山を目指した。


「んー、これかな?」


 手に持っている本と生えている草とを見比べる。

 何となく特徴が分かりにくいんだよな、薬草って。

 でも葉の部分がギザギザだし、多分これがホルトミン草って奴だよな。

 同じような草を集めて麻袋に放り込む。

 しかしこれを一キロずつって意外と重労働だな。

 重さはともかく、集めるのに時間がかかりそうだ。


 これは根をつめてやらないとだめだな。



 そして四時間後、ようやく一キロずつ集め終わった。

 もう日も暮れて、そろそろ月が出てくる時間だ。

 帰りは全力で走って帰れば、すぐつくだろう。


 と、伸びをしたその瞬間殺気を感じ取った。

 咄嗟に身体を捻るものの、飛んできた何かに腕を射抜かれる。


 くっ、これは矢か?!


 矢の飛んできた方角を見ると、いかにもといった風体の盗賊が三人、下種な笑みを浮かべて近寄ってきた。


「へぇ、今のを避けるなんてなかなか見所のあるガキだな」

「おいおい、殺しちまったら売れなくなるだろ。攫って来いと親分から言われてるだろ」

「なぁに、ガキならいくらでもいるだろ。ここで一人殺しても問題はないさ」

「でもこのガキ、ハーフエルフっぽいぜ、しかも女だ。貴族のお偉いさんに高く売れるんじゃねーのか?」

「がははは、ガキに欲情かよ。俺にゃ信じられねぇが、そんなやつ世の中ゴマンと居るか」


 なるほど、これが人攫いという奴か。

 俺はわざと赤色の右目を塞いで、緑色の左目だけを開けていた。

 つまりダンピールとばれないように。

 そして先ほど射抜かれた腕は、盗賊たちが会話している間に回復していた。


 奇襲をかけるなら持って来いだが、何しろここは修羅の国なのだ。

 おばあさんですら、俺の一撃を軽く受け流すのだ。

 こいつらだって、強いと思っていいだろう。


 となれば、一撃くれたあと一気に逃げる。幸いな事に月が出始めている。スピードならそう負けはしないはずだ。

 よし、全力で殴った後即効逃げる!


「さあお嬢ちゃん、俺たちと一緒に来てくれないかな?」

「大人しくしてりゃ、殺さないぜ? でも、もしかすると死ぬより辛い日々を送るかもしれねーけどな」

「ぎゃっはっはっは、そいつぁーかわいそうだな」


 先頭を歩いていた男が、武器を下ろして俺の腕を掴もうとした。

 今だ!

 バックステップで掴もうとした腕をかわし、全力で盗賊の頭を殴った。


 ぱぁん!


「あ、あれ?」


 俺の一撃で男の頭が破裂し、そのままどさりと大地に崩れ落ちた。


「なっ?! 何が起こった?!」

「おい! どうしたんだ!」


 残った盗賊二人が混乱している。

 そして俺も混乱していた。


 俺の脳内では、頭を狙った一撃を避けられたあと、そのままの勢いで盗賊の背後に回り、地面を蹴って土ぼこりを舞わせて目くらましした後、逃げる、というシミュレーションだったのだが。

 盗賊はガードすらしないまま、俺の拳が盗賊の頭に当たって、そして破裂した。


 こいつら、もしかして弱い??

 修羅の国とはいえ、全員が全員強い訳じゃないのか。


 ……ならば。


 俺は閉じていた右目を開く。


「な、こ、こいつオッドアイ! ダンピールだ!」

「や、やべぇ! 逃げるぞ!」

魅了チャーム


 俺の真紅の右目を見た盗賊たちが慌てて逃げようとするが、もう遅い。

 吸血鬼が使える魔眼の一つ、魅了チャーム

 相手の思考を奪い取り、俺の意のままに操る技だ。

 まあ相手が強い奴だとかからないし、かかったとしても意のままに操るなんてことはできないけどな。

 ワンコが俺のことを主と呼んでいたのは、おそらく俺が無意識的にワンコを魅了していたからだろう。

 でもワンコの力が強く、完全に魅了できなかったと思っている。


 妖しく光る真紅の目が盗賊たちの目を捉え、そして意識を刈り取った。




「さて、楽しい楽しいお食事の時間ですー」


 俺はウキウキ気分で、ぼーっとしたまま突っ立っている盗賊の男二人を座らせた。

 だって俺の身長じゃ、盗賊の首元にすら届かないんだよ!


 この大陸に渡る前にワンコに、人間を襲って血を吸う行為はご法度ですぞ? と言われた。

 そりゃ襲って吸ったら犯罪者なのは分かる。

 が、今回のように襲われて返り討ちした場合は?

 それは正当防衛だろう。

 だから問題なし!

 それに、死ぬまで吸わなければいいのだ。


 初めての人間の血。

 さあどれほどおいしいのか。


 期待にぺったんな胸を膨らませ、男の首筋へと二本の白い牙を突きたてた。

 真っ赤な血が溢れ出し、それを一気に飲み始める。

 ……が。


 ……なにこれ、びみょー。


 いや普通の魔物に比べればおいしい。

 しかし期待していたほどではない。

 もう一人の男にも牙をたてるものの、こちらも似たような味だった。

 これならわざわざ人間の血を吸う必要もない。

 女性型の魔物であるスキュラやアラウネ、ハーピィのほうがおいしいと思う。


 まあ人間の血の味が分かっただけでもよしとするか。



 俺は盗賊たちを放置して、そのままおばあさんの待つ家まで走って帰っていった。




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