13 ギルド見学
「なー、アオイ」
「どうしました、エルハンドさん?」
襲撃があった翌朝、俺とアリスさん、ノーラさんの三人で登校していたら、途中なぜかエルハンドが一緒に混じってきたのだ。
ちなみに、俺が住んでいるギルドマスターの家と、エルハンドの住んでいるサブマスターの家は反対方面である。
どちらもギルドの重要人物であり、なるべく家同士は離れていたほうが良いから、という理由らしい。
「さっきから尻押さえてるけど、どうしたんだ?」
「キカナイデクダサイ」
いくらぶっとい注射器で尻を刺されたといっても、俺はダンピールだ。
それくらいの怪我などすぐに治癒される……はずなのだが、なぜか未だ妙に違和感があるのは何故だろう。
「まあそれはいいとして、学校が終わったらちょっと一緒に寄ってほしいところがあるんだ」
「デートのお誘いですか? アリスさんに構ってもらえないからといって、私にまで手を出すなんて、変態」
一度このセリフ言ってみたかった!
「ち、ちがうわっ! 俺はアリス一筋だよ! じゃなくって、冒険者ギルドに行ってみないか?」
「冒険者ギルドに?」
「まだアオイは一度だけしか行った事ねーだろ? ちょっと冒険者たちの見学しに行こうぜ」
「それは構いませんけど……。突然どうしたのですか?」
「このラルツはな、殆どの人が冒険者ギルドと関わっている事は知ってるか?」
「はい」
そりゃ冒険者の町、と言われる程だしな。
「子供の頃からみんなギルドに見学しにいって、自分に合った仕事を探すんだ。転入したばっかのアオイは、まだギルド見学してないだろ?」
社会見学みたいなものか。
俺の将来は冒険者になること、これ以外決めていない。
でも確かに一度他の冒険者たちがどのように仕事をしているのかは、知っておいたほうが良いだろう。
「ちなみにエルハンドさんは、何になるのか決まっているのですか?」
「ああ、俺は冒険者になるんだ。親父もそうだったしな」
「アリスさんは?」
「私ですか? 私は身体を使う事は苦手ですから、ギルドの受付か、職員ですね」
ちゃんと二人とも将来を考えているんだ。
まだこいつら十歳くらいなのに、すげぇな。
「アオイはどうなんだ?」
「私は冒険者になります。そして世界にアオイの名が響き渡るくらい有名になりますよ!」
「夢は大きく持つのはいいことだよな」
「信じていませんね? 今ならサインを描いてあげてもよくってよ?」
「……いらねー」
「アオイさんならきっと出来ますよ」
「さすがアリスさん! 分かっていらっしゃいますね! アリスさんはサイン要りますか?」
「遠慮します」
「……くすん」
いつかサインを貰わなかったことを後悔させてやるさ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「やはり活気がありますね」
「混雑時間帯だしな」
「たくさん冒険者さんがいらっしゃいますね」
時間は夕方。
学校が終わった後、アリスさんとエルハンドと一緒に冒険者ギルドへ見学にきたのだ。
先日ルーファストさんを尋ねてきた時もそうだったが、今日も受付窓口は行列の嵐である。
これはおそらく朝に依頼を受けた冒険者たちが、ちょうど報告に戻ってくる時間帯なのだろう。
それにしても人が多い。
喧騒ですぐ側にいるアリスさんの声すら聞きとり難いくらいだ。
またこのギルド内にいる人も多種多様で、パーティを組んでいるっぽい人たちが椅子に座っていたり、ぼーっと依頼の紙を眺めている人、魔術書っぽい本を読んでいるローブ姿の人、自慢げに武器を見せびらかしている人、と枚挙に暇がない。
俺もそのうちこいつらに混じって依頼を受けたりするようになるんだな。
何となくわくわくしてくる。
魔大陸にいた時は、食事のため、自衛のための戦いだったが、ここでは町を魔物から守るための戦い、というものもある。
しかし……彼らを見渡すものの、正直バロンほどチリチリとした雰囲気を持っている者は見当たらない。
この連中が、所謂一般的な冒険者なのだろう。
これは少々残念ではある。
「で、アオイ。どうよ?」
「え? 何がですか?」
「これだけたくさんの冒険者が、この町を守るため、そして繁栄させるために戦っているんだ。何か感じないか?」
エルハンドもやっぱ男か。
こういったもの見ると血が騒ぐらしい。
「私にとって戦いは、つい昨日の出来事ですが……」
「昨日……何かあったのか?」
「君たちにとっては多分、明日の出来事です」
「は? わけわかんねーよ」
おっと、これじゃ指ぱっちんするどこかの大天使だ。
「あ、つい口が滑りました。えっと戦いは私にとって日常茶飯事でした。それはもう身近にあるくらいで、一歩間違えれば腕の一本や二本、三本は簡単に失うくらいに」
「まて! 三本も腕あるのかよ?!」
「もののたとえですよ。エルハンドさんは、細かいこと気にしすぎです」
「細かくねーよ!」
「ですけど、ここは違いますね。誰もが町のために頑張っています。そんな彼らのように私も戦いたいですね。もちろんお金はたくさん欲しいですけど」
「正当な報酬は当たり前の事ですよ、アオイさん」
さすがはアリスさん、クールだ。
でもそんな彼女も何かしら浮ついている様子。
浮かれているというか、何となく楽しそうな感じだ。
「アリスさん、何か楽しそうですね」
「楽しいというよりも、冒険者さんたちにはいつも感謝していて、そんな彼らをサポートしている窓口の方の仕事ぶりを見ると、私も頑張らなきゃって思ってしまうのです」
「そうだろう、そうだろう。俺も冒険者になって是非アリスのサポートを受けたいものだな」
そう言うエルハンドの発言を完全にスルーして、窓口を眺めているアリスさん。
非常に寂しそうだ。
そしてふと思い出したかのように、俺のほうを向いた。
「で、だ。アオイ、ちょっと今度の休みに一度冒険者の仕事を見てみないか?」
「……え? だって彼らの仕事の邪魔になるんじゃないですか?」
「いや、俺ら子供向けの講習会をギルドが実施しているんだよ。それに参加してみないか? ランクの高い冒険者が先生役になってくれるし、町の近辺にしか行かないから危険性は低い」
ふむ、こいつは俺を誘うように誰かに言われた、と言う事か。
多分サブマスターのリリックって奴だろうけど。
昨日バロンとちょっとだけ戦ったし、その内容はとっくに知られているだろう。
で、俺の実力を現役の冒険者に測ってもらうってところか。
でも興味はある。
「いいですよ。アリスさんも一緒に行きますか?」
「ちょっと興味はありますけど、やはり外は怖いですし……」
「大丈夫ですよ、私が守りますから。それにノーラさんもどうせ一緒に来るでしょうし」
「お、俺もアリスを守るぜ!」
「エルハンドさんには期待していませんけど……ノーラさんがいるなら大丈夫でしょうか」
うわ、アリスさん何気に酷い。
「じゃあエルハンドさんは置いて、私とアリスさん、ノーラさんで参加しましょう」
「はい、わかりました」
「え……? あの……、俺は?」
「じゃあ今日はお開きですね、アリスさん」
「はい、一緒に帰りましょう。アオイさん」
そして俺とアリスさんは一緒に手を繋いでギルドを後にした。
エルハンドを置いて。
「……あのー、発案者俺なんだけど」




