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新ダークでエルフな吸血鬼  作者: 夕凪真潮
第二章 学園編
22/24

12 名づけ


「それでその男が暗殺者ギルドの手の者だと言うのか?」

「はい旦那様、王都にある平穏と安寧の奴らです」

「あそこか。となると、バックには相当大物が控えているな」


 暗殺者一名を魅了したあと俺はそいつから色々と情報を入手し、そしてその男を連れて、ルーファストさんに報告をしにきたのだ。

 ただ、残念ながらこいつはギルドを通じて、俺の持っている剣を奪ってこい、とだけしか命令されていなかったようで、肝心の依頼主の名は知らなかった。

 しかし暗殺者ギルドの名前が「平穏と安寧」って、ブラックジョークだよな。


「問題は次が上位、もしかすると御三家が来るかも知れない点でございます」


 この暗殺者の男はギルド内では真ん中、中堅クラスだったらしい。

 まあ俺はダンピールとはいえ、まだ九歳の子供だ。

 中堅クラスを二人も派遣すれば十分だろう、と判断されたんだろう。

 それにしても、やっぱり魅了って便利だよな。

 普通なら絶対しゃべってくれない事も、簡単に聞きだせる。


「まあな、いくら中堅とはいえ失敗したんだ。次は必ず成功させるために、それくらいの奴らが来るのはあり得るな。そして、狙いは剣か」

「さようでございます」


 ……伝説の剣ね。

 そんなもの貰ってないんだけどなぁ。


「アオイ、本当にラトゥールのばあさんから何も継いでないのか?」

「はい、剣なんてこの仕込み杖しか貰っていません」

「となると、どこかに隠したか、あるいは既に誰かへ継いだのか」

「しかし隠居されてからは、殆ど誰とも接触はされておりません。同じ町に住む子供たちに、剣を教えていた程度です」


 バロンは俺を一度見て、会話を続ける。


「教えていた、と言ってもせいぜい護身術レベルだろ? まさかそんな子供に剣など継がせる事はないだろうし。で、アオイの腕はどうだったんだ?」

「まさに剣については護身術レベルでした。幾ばくか太刀筋はラトゥール様に似たところもございましたが、概ね自己流かと」

「……そんなところを見ていたのですか」


 まさかわざと俺の剣の腕を見るために?

 やっぱこいつ食えない野郎だな。


「正直なところを申し上げますと、アオイお嬢様は剣を使うよりも素手で戦う方が遥かに強いかと。実際その暗殺者の一人を瞬殺したのも、アオイお嬢様です」

「あれは、後ろから奇襲をかけただけですよ」

「いえいえ、この私ですらアオイお嬢様の気配を知覚できませんでした。私が気づいた時には、既に暗殺者を突き殺す直前でした」

「だが剣の腕は護身術レベル。ならば剣を継がせた線は薄いか。やはり氷冬ひょうとうに持たせて、魔大陸のどこかに隠した可能性が一番高いな」

「あの、その剣って一体なんですか? それがおばあさんと何の関係があるのですか? いい加減教えてください」


 前々から気になっていたのだ。そもそも伝説の剣って何だ? それがおばあさんと何の関係があるんだ?

 少しばかり悩んだルーファストさんだけど「アオイも当事者だしな」とだけ呟いた後、俺に向かって説明し始めた。


「英雄ラトゥール。疾風迅雷の妖精。氷魔狼フェンリルと契約した剣を継ぐもの、守り姫。これくらいは聞いたことがあるだろ?」

「はい、でもその伝説の剣でおばあさんは何をしたのですか? 全く分からないんです。」

「精霊王を倒した、と言えば分かるか?」

「え? 精霊王??」


 精霊王ってあの、ゲームの召喚術でよく登場する精霊たちの王様だろ?

 そんなものいるのか?

 聞いたことないんだけど。


「正確には狂った精霊王だがな。精霊ってのは何かを司る存在で、例えば火の上位精霊イフリートには当たり前だが火は全く効果がない。ラトゥールの契約獣だったフェンリルも上位精霊の一種で、氷を司っている。こいつも冷気の攻撃は全く効き目がない」


 ワンコって確かに氷の魔術を多用してたよな。

 それにしても、あいつが上位精霊?

 精霊のイメージが崩れるな。


「で、だ。七十年程前ファント聖国に現れたんだよ、精霊王が。ま、精霊王といっても、精霊王の分身の一つだがな。それでも並みの上位精霊より遥かに強い上に、王と名乗るだけあって、全ての属性が全く効き目なかったんだ。そいつを英雄ラトゥールは倒したんだ」

「どうやって倒したのですか?」

「ここまで言えば分かるだろ? その精霊王を倒した時に使った剣、それがドワーフたちが封印していた伝説の剣、アゾット剣だ」

「……アゾット剣?」

「アゾット剣は切り付けたものを、意のままに黄金へと変化させる事ができる。普通の魔術は全く効果のない精霊王だが、身体を金に変化させてやることによってダメージを与えられるようになるんだ。そうやって精霊王の身体を変化させていって、最終的に倒したんだよ」


 うわー、アゾット剣って錬金術師パラケルススが作ったとか言われている奴だろ?

 この世界にパラケルススがいるのかは知らんが。

 そりゃ、切ったものを全部黄金に変えられるような剣なら、欲しがるよなぁ。


「だがアゾット剣は、持ち主を選ぶという。例え剣を手に入れたとしても、使えるかどうかはその本人の資質による。ただし例外があって、元の持ち主が継承の儀式を行えば誰かに譲ることが出来る。俺はその誰か、というのがアオイの事だと思ったんだが」

「生憎と仕込み杖しか、剣は・・頂いてないです」

「だよなぁ。それらしいものも持っていないし。やはりどこかに隠したのか」

「でもそこまで重要なのですか、その剣? 確かに黄金を生み出すのはすごい事だと思いますけど」

「ああ、アゾット剣は黄金を生み出す以外に、もう一つ機能があってな。ホムンクルスって知っているか?」


 人工生命体だっけ。

 イメージでは、でかいフラスコの中で作られた人間と殆ど同じ生命体って感じなんだけど。

 そんなものを剣が作るって、全くイメージ付かない。


「それを使えば、無限の戦力になると思わないか? いくらでも兵隊を生み出す兵器としてな」

「つまり、各国のバランスが崩れる、と言う事ですか」

「ああ、そんな剣を手に入れたら戦争が起こるだろう。だから俺は見つけ次第、どこかへ封印させたい。でも氷冬ひょうとうが魔大陸へと持っていったのなら、封印されたのと同じ事だから、それはそれで問題ないのだが」

「アオイお嬢様は魔大陸生まれかと。あちらはどのようなところなのでしょうか」

「毎日が戦いですね。ここで言うAランクが魔大陸では最下層の魔物です」

「おっかねぇところだな」


 そこで会話が途切れる。

 これで一応この件の話は終わったという事か?


「それにしても、そいつをどうするつもりだ?」


 また終わってなかったらしい。

 俺の後ろで踊っている・・・・・暗殺者を見るルーファストさん。

 若干顔が引きつっているのを、俺は見逃さなかった。


「僕はもうアオイちゃんの虜だよ! こんなに心から洗われた気持ちになったのは初めてだよ。嬉しすぎてつい踊ってしまうくらいにね!」

「……という事です。魅了が少し効きすぎたようで」

「お、おう。アオイ、責任持って飼えよな」

「ペットですかっ!」

「僕がペット? それは嬉しすぎて興奮しちゃうなぁ」

「黙れや変態!!」

「でもどうするんだ? いくらなんでも家では飼えないぞ?」


 だからペットじゃないって。

 まあ殺してしまうのが一番手っ取り早いんだけど、さすがにそれはなぁ。

 でもこのまま野に放ったとしても、いつか魅了が解けたときにこいつは自殺するか、あるいは復讐しにくるか。

 どちらにせよ面倒な事には変わりない。

 なんかいい手ないかな。

 と、考えたとき、ふと今だバロンの手に収まっている注射器が目に入った。


「あ、そうでした。ホライズさん、私から採血したもの、少し分けていただけませんか?」

「それは構いませぬが、もし証明書を作る量が足りなくなれば、またアオイお嬢様から頂きますぞ?」

「……っ?! ちょ、ちょっぴり、一滴でいいのです!」


 尻痛かった……。あんな目はもうこりごりだ。

 いやそうじゃなくて。

 この暗殺者を吸血鬼にしてしまおう。

 そうすりゃ俺の言う事は聞くようになるし、普段は冒険者として稼いでもらってればいい。


「……ということで、この男を私の眷属にしたいと思いますけど、良いですか?」

「いいのか? 吸血鬼が認めた人間しか眷属にしない、と良く聞くが」

「はい、プライドよりも実益ですよ」

「アオイが良いというのなら、俺に止める権利はないが。元暗殺者だったし、冒険者としても十分やっていけるだろうから、うちの戦力にもなるし」

「では問題ないということで」


 俺は暗殺者の血を吸いながら、俺の血を一滴そいつに飲ませ、俺の眷属第一号にさせたのだった。

 吸血鬼化させるには、相手の血を吸いながら自分の血を分け与えるのだ。

 ワンコから教えてもらってはいたが、実践は初めてだったから少し怖かったけど、何とか成功した。




「よし、これからあなたの名前はクロとします。以後忠誠を誓うように」

「はっ! 僕の名前はクロ! アオイ様から頂いた名に恥じぬような働きをしてみせましょう!」



 ……俺に名前をつけるセンスが無いのは何となく分かった。




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