10 温泉?!
学校初日もつつがなく終了し、特に特記することもなく俺はアリスさんと一緒に下校していた。
「今日はアオイさんの初登校でしたけど、学校はどうでしたか?」
「思ったよりクラスのみなさんに、話しかけられました!」
俺が答えた途端、アリスさんが可哀想な子を見るような目で俺を見てきた。
そんなに俺はダメだったか?!
「今までお友達はいなかったのですか?」
「私はダンピールですから、友達は一人だけでしたよ。……あ、いえ二人にしておきましょう」
友達と聞かれて真っ先にテンペさんが思い浮かんだが、一応レイアードさんも友達カテゴリに入れておいてやるか。
これも武士の情けだ。
「……二人ですか」
「で、でも今は三人ですよ!」
俺が答えた途端、またもやアリスさんに可哀想な子を見るような目で俺を見てきた。
そんな俺は、救いの女神を見るようにアリスさんを見つめ返す。
「え? 一人増えたのですか、どなたです?」
「ア、アリスさぁぁぁぁんっ!」
「ふふっ、私を含めて三人ですね」
ああ、この人Sだ。絶対Sだ。
「アリスさんは意地悪ですよね」
「そんなことないですよ?」
と俺とアリスさんが楽しい会話をしていると、後ろからついてきている二人の会話が耳に届いた。
「……あんなに仲がいいとは」
「アリスさま、よほどかれんなびしょうじょを気に入ってるにゅ」
「あいつ昨日きたばかりだろ? アリスがあれほど他人に話してる所なんて初めて見たぜ」
「アリスさまは、えるはんどですら相手しないにゅ」
「……一応、俺は幼馴染なんだけどな」
「おやが知り合いなだけの、あかのたにんにゅ」
「がーんがーんがーん……」
何やらエルハンドが、果てしなきショックを受けているようだ。
俺には関係ないからいいけどさ。
「ところでアオイさん」
「はい、どうしました?」
「実は温泉が近くにあるのですが、今夜にでもいきませんか?」
おん……せん……だと?!
魔大陸にいたときは、風呂なんて当然ないから川で適当に洗っていた。
おばあさんの家も、一般家庭に風呂はないので井戸水で流す程度だった。
シャワー派の俺だが、やはりたまには熱い湯に浸かりたいものだ。
「いくっ!! ぜひアリスと混浴し……」
「エルハンドさんには聞いていません」
突如復活したエルハンドがいきなり会話を割って入ってきたけど、アリスさんによって一刀両断にされた。
残念だったな!
こういう時、同性同士は強い!
「はい! 是非いきましょう! あ、でも……」
「何かありましたか?」
「温泉ということは、魔物も出るんですよね」
町の中に温泉はないと思うし、あるなら山のほうだよな。
町を離れれば、街道を除けば魔物はあちこちにいる。
そんなところへ子供だけで行くのは危険じゃないのか。
「大丈夫です。お風呂自体は結界の中にありますから。山のほうからお湯をこの町の近くまでひいてきたのです」
「それは大変だったでしょうね」
「はい、確か二十年くらいかけたそうですよ?」
「二十年……。それは長いですね」
かなりの大事業だな。
何十人、何百人もの冒険者が苦労して掘っていったのだろう。
とても大変だよな。でもよくそんなにお金あったな。
「計画自体はもっと昔からありまして、元々は水の確保のためだったそうですけど、地下水を掘る技術が発達したので、暫く眠っていたそうです」
「そうなんですか? じゃあ何でまた引いてきたんでしょう?」
「水の予備はいくらあっても良い、となったみたいです」
「でも温泉を飲み水にですか」
「効用に良いらしいですしね」
確かに温泉の水を飲むと、身体に良いとは聞く。
これは楽しみだ。
しかし……温泉かぁ……。
ふとアリスさんを見る。
温泉ということは、もちろん裸の付き合いだよな?
五年後くらいならば是非裸のお付き合いをしたいところだが、さすがに子供じゃ見てもつまらないよな。
…………。
「ノーラさんもいかがですか?」
ノーラさんは十五~十六歳。ぜひ堪能したい。
振り返って聞くものの、なぜかノーラさんが両腕で胸のところを隠した。
「かれんなびしょうじょから、よこしまな気をかんじたにゅ」
「と、とんでもないですっ! ノーラさんは私たちの護衛ですよね? ならば私たちが行くのであればノーラさんも温泉に行くべきです! いや是が非でも!!」
「しごとなのでいくしかないにゅ。でも身のふあんをかんじるにゅ……」
よっし!
温泉も入れるし目の保養もできる!
もういう事無いよな!
それに他にもお客さんがいるだろうし。
「なぁ、俺は?」
「一緒に来ていただいてもいいですけど、別々ですよ?」
ネコミミメイドのノーラさんと一緒に温泉というところが重要なのだ。
もはやエルハンドなどどうでもいい。
「一応混浴もあるんだぜ?!」
「お一人で堪能してください」
「がーん……」
ワンコよ。やはり新大陸来てよかった!
パラダイスじゃねぇか!
「では今夜お伺いしますね」
「はいっ! お待ちしております!」
……そしてその日の夜。
「やっぱこうなる気がしたんだよな」
俺は女湯に来ていた。
周りは当然、子供からお年寄りまで全員女性。
しかし……。
ここは水着必須だったのだ。
がっくり。
しかも全身を覆うような、まるで水泳競技用の水着である。
もちろん、元の世界のようにスピードを争うようなものではないので、水の抵抗を極限に減らしたような水着ではなく、普通のワンピースをそのまま水着にしたようなものだ。
ぜんっぜん目の保養にすらならねぇよ。
涙が血のように流れてくる。
「どうかしましたか、アオイさん。そんなに肩を落として」
「温泉だから裸だと思ったんですけど、水着着用だったんですね……」
「? はい、山から直接お湯を引いていますし、万が一水路に魔物の毒などが紛れても安全なように、毒抵抗の高い水着を着用するのは当たり前ですけど」
毒物?!
そんな罠があったのか!
くそっ、今から俺が行って水路近辺の魔物を全滅させてきてやろうか!
「それにしても、アオイさんは水着持ってなかったんですね」
「ダンピールですし、毒は殆ど無効化されますから」
「かれんなびしょうじょは、べんりなたいしつにゅ」
ノーラさんも全く透けそうにない、ごわごわした水着だ。
もっとぴったり張り付いてくれれば、多少なりとも目の保養になったのに。
「またかれんなびしょうじょから、よこしまな気がするにゅ」
「そ、そんなことないですよっ! ……はぁ」
俺は夜空に輝く月を見ながら、大きなため息をついた。
暫く仕事が忙しくなるため、更新遅れます・・・
活動報告をご参照くださいませ><




