9 お昼休みにて
ここ数話、ちょっと文章量が少ないですね。
他に短編とか書いていた影響です>w<;
「アリスさんっ! お聞きしたいことがあります!」
「はい? 旗は放課後まで背負わないほうがいいかと思います」
「そっちじゃなくて!」
午前中の授業も終わり今はお昼休みだ。
アリスさんと屋上に行って、先に待っていたノーラさんと合流して三人で持ってきたお弁当を広げていた。
天気も良く、風が気持ちいいので、屋上でお昼を食べることになったのだ。
ノーラさんが持ってきてくれたお弁当を、フォークで刺してゆっくり噛み砕くように食べる。
冷えていてもおいしい。
むしろ、冷えることを前提にして作られた料理である。
すごいなぁ。
そして口に入れたものを飲み込んだあと、唐突にアリスさんへと尋ねた。
授業中にふと疑問に思ったことがあるのだ。
授業内容は算数っぽい内容で、基本的に四則計算のみでとても退屈だったのも理由だが。
しかし俺は八歳、中学年という割り当てになっているが、高学年向けには何と三角関数っぽいものや、面積を求める問題もあったのだ。
小学生には難しいんじゃないだろうか、とは思ったものの、これって多分建築とかで使うから習っているのだろう。
何でも魔術で解決とは行かないんだな。
っと、話が逸れた。
そして俺が思いついたのは、こういった異世界もので学校なんか行くと、めちゃ強く大人すら張り倒せる子供とか、生徒会長が天才児とか、異能の力を持った子とかがいるのが定番である。
そのような子供がいたなら、ぜひとも見ておきたい。
「この学校にとても強い人、魔物を簡単に倒せる子とかいますか?」
「魔物を倒せるような子って聞いたことありませんよ」
「ひげんじつてきにゅ」
ですよねー。
そんな子供なんて普通はいないか。
「冒険者育成学校には、そんな子供がいるのでしょうか」
「あちらは、魔物を倒すための勉強をするところですから。もう魔物が倒せるような人は、学校に行く意味はないと思いますよ」
倒せるような人は学校で机上の空論をするより、実戦で習ったほうがいいのは当たり前か。
やっぱり強い人は、冒険者の上位グループなんだろう。
そういえばこの町に来て三日目、前回血を吸ったのは一週間前。
そろそろ外に出て血を吸っておかなきゃいけない時期だけど、勝手に外へ出てもいいのかな。
いや、ダメと言われても町を囲っている壁をジャンプして乗り越えればいいだけなんだが。
「でも子供は冒険者になれませんし、勝手に魔物を倒してもいいのでしょうか」
「特に問題はありませんけど。私は少し違うとは思いますが、一般的には自分で勝手に倒しに行って死んだら自己責任になりますね」
おおう、さすが冒険者の町。
子供にすら自己責任か。
「そういえばノーラさんは冒険者育成学校は行った事ありますか?」
「あたしは、とうさまにおしえてもらったにゅ」
「バロ……ホライズさん強そうですしね」
「とうさまは元S+ランクだったにゅ」
最高ランク?!
なるほど、Sランクってのは修羅勢クラスということか。
いつか戦ってみたいな。
と、そこへドアの開く音が響いた。
「アリス! 昼飯食おうぜ!」
振り向くと、そこには十二歳くらいの金髪の少年が息を切らせていた。
誰だこいつ?
「エルハンドさん、そんなに急がなくても」
「一秒でもアリスと一緒に居たいからなっ!」
何このイケメン発言は。
そいつは勝手にこっちにきて、アリスさんの隣に座った。
「おう、お前が親父から聞いていたアオイか。俺はエルハンド=ハウゼンだ。よろしくなっ!」
「彼はサブギルドマスター、リリックさんのむすこにゅ」
おお、あの細身の男の子供か。
にしても、何故こいつはアリスさんの肩へ腕を回そうとしているんだ?
しかしアリスさんは、手に持ったフォークで彼の手を突き刺した。
「いってぇ?!」
「エルハンドさん、怒りますよ? 次やったらナイフで刺しますからね」
さすがはアリスさん、防御堅いな。素敵すぎる。
「アリスは俺の嫁になる予定なんだから、別にいいじゃないか」
「……誰が、誰の嫁なんでしょうか?」
アリスさんの声のトーンが下がる。
彼女を中心とした威圧が一気に周囲を凍りつかせた。
昨日も思ったけど、なんだこの威圧。
さすが、あのおばあさんの血を引く娘だ。
イケメン君も完全に固まっているし。
「……いやあの、アリスが俺の……」
何とか口を開くものの、アリスさんの一睨みで轟沈した。
「そ、それにしても、アオイはダンピールなんだな。しかもダークエルフって珍しい」
慌てて俺のほうに話を振ってきやがった。
それに答える義務はないが、ここは場を和ませてやるか。
「珍種として扱ってください! ふふん」
「……自分で言うかよ。確かに親父が言ってた通り、ぶっとんだ性格の奴だな。聞いたぜ? 朝は旗を背負って登校したそうだな」
「我が親友の旗は、悪魔的な先生の手によって、闇へと葬りさられました」
「は? 旗が親友だったのかよ」
「良いツッコミですね。あとはもっと短くテンションを上げて言いましょう。六十三点」「なんだよその微妙な点数は?!」
さて、と。
そう言った彼は立ち上がる瞬間、何と言う事であろう、俺の持っている弁当からおかずを一品手に取ろうとしたのだ。
あくまで自然に、そして違和感の無い動作。
一瞬虚を突かれ奪われる間際、俺は逆におかずをフォークで突き刺し……。
そいつの口の中へ目にも留まらぬ速さで突っ込んでやった。
「ぐほぉ?!」
「そんなに食べたいのなら、一言言って頂ければ、口に突っ込んであげますよ」
「ごほっ、げほっ、むぐっ」
「ほらほら、もっと食べますかー?」
瞬く間に弁当が空っぽになっていき、それとともに彼の口の中がぱんぱんに膨れ上がる。
必死で手でガードするが、そんな動きでは俺は止められない!
「たべものをそまつにするのはよくないにゅ」
「そうですね。ちゃんとしっかり噛んで食べてください。もし吐き出したら、その瞬間吐いたものを口へ突っ込みますからね」
「むぐー?!」
「アオイさんって結構容赦ないですね」
「私のお弁当を掻っ攫おうなんて、百年速いです」
涙目で訴えながら、必死で飲み込む彼。
「ちゃんと噛んで食べないと消化に悪いですよ?」
「むぐー!!」
こうしてアリスさんを狙う不貞な輩は、俺の手によって退治された。




