7 伝説の剣?!
すみません、あまりギャグ要素ありません。。。
深夜二時。
俺はベッドに横になりながら、窓の外に輝く月を見ていた。
吸血鬼って月と関係あるみたいなんだけど、何でだろうね。
特に今夜のような月が綺麗に輝く夜は、身体能力が大幅にアップする。
おかしいよな。
月の光って結局太陽の光が反射したものじゃん。
いや、この世界の月は知らないけどさ。
太陽の光に弱い吸血鬼が、反射した太陽の光りで強くなるって矛盾だよな。
それとも太陽の光を鏡で反射させれば、パワーアップするのかな。
もしくは月そのものに何かあるのかな。
と、その時部屋のドアからうっすらと気配を感じ取った。
「とても綺麗な月夜ですね」
「気づかれてしまいましたか」
「ええまあ。何分昔は危険地帯にいたもので、気配には敏感になっているのです」
といっても、精々二十メートル程度。
それ以上離れると、途端に分からなくなってしまう。
魔大陸では身体の大きな奴が多かったから、気配云々というより足音で分かるんだけどさ。
それでも二十メートルもあれば、普通の小さな家の一軒程度は丸ごと囲えるくらい広い。
しかしドアまで僅か四メートル。
ここまで接近されないと読めなかったバロンの腕は相当良い。
「では色々とお聞きしたいことがありますが、お時間は大丈夫ですか?」
「はい、一晩程度の徹夜は慣れておりますので。アオイお嬢様は大丈夫でいらっしゃいますか? 明日は学校ですので、朝は早いですぞ?」
「私はダンピールですから。一晩どころか一週間は平気ですよ」
「それでは延々と話しをしていても時間の無駄ですので、簡潔にいきたいと愚考致します」
さて、じゃあ何から聞こうかな。
「では一つ目。ルーファストさんの奥さん、アリスさんのお母さんはどこにいるのですか?」
「おや、ご存知なかったようで。既に奥様は身罷られております」
それはアリスさんも寂しかっただろう。
お父さんはギルドマスターだし、中々家に帰れないだろう。
「私の娘、シーラとノーラがおります故、なるべくアリスお嬢様に不自由はさせてはおりません」
「えっ?! あのメイドさん、ホライズさんの娘さんでしたかっ?!」
なんと!
そういえば、同じ猫の獣人だしな。
きっと今夜一番の情報だ。
「はい、二人ともまだまだ青二才ですが。ですがやはり年齢差は大きく、アリスお嬢様から見ればお友達、という感覚ではありません。アオイお嬢様が来てくださって良かったと思っております」
「これからは私が居ますので、お任せください」
シーラさんとノーラさんの双子メイドもいるしな!
「では次に、私がこちらにご厄介になると、何か危険な事でも起こるのでしょうか?」
ノーラさんが明日からいきなり学校へ護衛にくる。
ということは、何らかの危険性があるということだ。
「アオイお嬢様が、ラトゥール様から受け継いだものが関係しております」
「それはギルドマスターやサブマスターにも伝えましたけど、私がおばあさんから譲り受けたのは、仕込み杖と魔法のポーチだけですよ?」
「それだけではないはずです。ラトゥール様の二つ名である剣を継ぐ者。これはとある伝説の剣に由来しております」
うわっ、なにその勇者設定。
伝説の剣ってエクスカリバーとか、グングニル、ロンギヌスの槍とかいう奴だろ?
魔王でもいるのかよ、この世界。
「その伝説の剣を私が受け継いだと?」
「はい、そのように愚考いたします」
「でも私はおばあさんの所でお世話になった期間は一年ですが、そんな短い期間しか一緒に居なかったのに、そんな伝説の剣なんて譲ってもらえるのか疑問なのですが。それに一緒の家に住んでいましたけど、そのような伝説の剣なんていうのは家の中にはありませんでしたし、おばあさん自身も使っていたのは仕込み杖だけでしたが」
「ラトゥールの杖、ですね。確かにあれは逸品ではありますが、素材的にはそこまで珍しくはありません。使い手が優秀だからこそ、あの杖に名が付けられたものです」
そして、とバロンが続ける。
「事実はどうであれ、アオイお嬢様がその杖を受け継いだ、というところが問題でございます」
ははぁ、つまりあの愛用していた杖を受け継いだのだから、もしかすると伝説の剣とやらも俺が貰っているかもしれない、と思われているのか。
でも実際、俺が貰ったのって杖とポーチと青いリボンだけなんだけどさ。
「ということは、私が襲われる可能性が高いためにノーラさんを護衛につけた、ということですか?」
「旦那様はそのように配慮したものと愚考いたします」
「でも私には護衛なんて不要と思いますが?」
「はい、おそらく不要かと愚考いたします。しかしながら油断は禁物でございます。暗殺に長けた者は、ある意味魔物より恐ろしいものでございます」
でも俺、寝首切られたとしても復活するけど。
身体中の血を抜かれて太陽の光に当てられて、尚且つ燃やして灰にしてトドメに川にでも流せば、さすがに復活は無理だろうけど。
それでも灰さえ残っていれば、儀式をすることで復活する。
こう考えると吸血鬼ってしぶといな。
ゴキブリ以上の生命力じゃないか。
「世の中、吸血鬼を専門に暗殺する者もおりますので」
そんな俺の考えを読んだのか、バロンが続けて言ってきた。
専門かぁ。それはやっかいそうだな。
「それにノーラはああ見えて、A+ランクの冒険者でもあります」
「A+ランク? そういえば、ルーファストさんもAランク以上の冒険者の推薦があれば、十二歳からでも冒険者になれる、と言っていましたけど。Aランクってかなり高いランクなのですか?」
「はい、最低はF-ランクから、F、F+となり、S+ランクが最高ランクとなっております。S+ランクを超えた人物は、ここ百年でラトゥール様のみとなっております」
「S+ランクを超える条件って何かあるのでしょうか?」
「ラトゥール様の場合は、古竜を倒して町を救った、という実績があったからです。いわば万人から認められた英雄、これがS+ランクオーバーの条件となっております」
単純に古竜を倒しただけじゃなれないのか。
別にそこまで目指したいわけじゃないからどうでもいいけど。
ネコミミメイドを囲えられるくらいたくさん稼げればそれでいい。
うん、夢は小さくだ。
「ところでアオイお嬢様、私めからも一つよろしいでしょうか?」
「はい、何でしょうか?」
「ラトゥール様にご面倒を見られるまで、どちらにいらっしゃったのでしょうか?」
バロンが問いかけた事に対し、一瞬迷う。
窓の外に輝く月を暫し見て、そして決めた。
別に秘密にしている訳ではないし、言ってもいいか。
「私は魔大陸生まれの魔大陸っ子なんですよ」
「……は? 確かに吸血鬼は魔大陸に住んでおりますが、魔大陸で生まれてすぐ捨てたられた、という事でございましょうか?」
「はい、その通りです」
「よく生き延びられました」
「幸い魔物に拾われまして、こうして無事生き延びております」
「なるほど、魔大陸で吸血鬼以外の魔物に育てられたと。それはお強いはずです」
「ええ、一応古竜をソロで倒したこともありますので。それなりには強いと自負していました」
「古竜をソロで……」
「でもその自負は、おばあさんに出会って打ち砕かれましたが。何でしょうかね、あの人。とても人間とは思えない人でしたよ」
「ラトゥール様は英雄であらせられましたから。それに失礼ながらアオイお嬢様はまだ八歳です。しかしラトゥール様は冒険者になってから九十年近く戦い続けておられました。ラトゥール様に比べると、かなり経験不足かと愚考いたします」
経験不足か。
では、俺を襲ってくるであろう奴らを倒せば、それも経験になるだろう。
「ではそろそろ失礼致します」
「ありがとうございました」
バロンが深く一礼すると、まるで煙のように消え去った。
ドア、開いてないのにどうやって出入りしたのだろう。
不思議な奴だ。
ベッドに寝転がりながら、頭に巻いている青いリボンを弄ぶ。
おばあさんが持っていた伝説の剣、ねぇ。
このリボンがそれなのだろうか。
でもどう見ても剣には見えないけど。
そしてそのまま朝日が昇るまで、俺はベッドで考え込んでいた。




