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新ダークでエルフな吸血鬼  作者: 夕凪真潮
第二章 学園編
15/24

5 アリスさん

アリスさん、ご登場です


「……どちらさまですか?」


 女の子が発した声で、我に返った。

 不思議そうに、それでいて少しだけ不安げな表情で、俺を見ている。


「あ、は、はじめましてっ! 今日からここの家にお世話になる、可憐な美少女のアオイと申します!」

「……新しいお手伝いさん?」


 可憐な美少女はスルーですかそうですかくすん。

 でも確かに俺のような中身が男のパチもの美少女じゃなく、この子は本物だ。

 整った顔立ち、纏う雰囲気は落ち着いた大人のようで、子供でありながら大人と対面しているような、不思議な感覚。

 金色に輝く髪が窓から差し込む夕日に照らされ、より一層アンバランスさを醸し出している。

 特に大きな蒼く深い底の見えない、それでいて吸い込まれそうな、しかし近寄ると即座に反発し弾かれるような、そんな魅惑的な目をしている。

 ……そして。

 俺のダンピールの証である真紅の右目が、疼き思わず魅了を使ってしまいそうになるくらい、ぞくぞくする目だ。


「あの?」


 今度は少し首を傾げてくる女の子。

 おっと。思わず凝視してしまった。


「あ、いえいえっ! おそらくたぶん、私もルーファストさんの養子になる予定です!」

「そうなの?」

「はいっ、それでアリスさんにご挨拶をと思いましてっ」

「それはご丁寧にありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそいきなり前触れもなく訪れてしまい、申し訳ありません!」


 彼女が椅子から立ち上がり、深くお辞儀してくる。

 反射的に俺もお辞儀を返してしまった。

 お、そうだ。赤いリボン買っておいたんだっけ。

 何故これを選んだのかと言うと、首に巻いて奥歯を噛むと加速装置が使える気分になるからだ。

 ……すまん、ちょっとネタ古かったな。


「あ、そうですっ。これほんのつまらないものですが」


 といって、お辞儀しながら懐に仕舞ってあるポーチに手を居れ、中を確認せず取り出して両手で差し出した。


「……は?」


 いきなりアリスさんの澄んだ声が、絶対零度の凍てつくようなトーンへと変化した。

 うわ、何だこの威圧感。

 視線を合わせてないにも関わらず、とてつもない威圧を感じる。

 古竜エルダードラゴンと対峙した時よりも、怖いぞこれ。


 というか、赤いリボンはお気に召さない?

 リボンってお土産っていうより、プレゼントだよな。

 初めて会う人にリボンはまずかったかなぁ。

 そう思い、自分の差し出した手を見ると。



 あの紫色の透けているパンツだった。



「って、ちょっ、ちがっ! ま、まちがえましたぁぁぁぁぁぁ! これ私のですっ!」


 慌てて懐に仕舞いこみ、今度はしっかり確認して、赤いリボンを差し出した。


 な、何やってるんだよ俺!

 初対面の女の子に、つまらないものですが、と言いながらパンツなんて差し出したら、真の変態じゃねーか!

 そりゃアリスさんも怒るよ!


「アオイさんって、見かけによらずそんな下着履いているのですね」

「ち、ちがっ、違いますっ! これは店員さんが勝手に選んだやつなんですっ! 決して私の趣味じゃありません!」


 そうとも、俺は純白が好きだ。小さいリボンが付いていれば尚良し。

 百歩譲っても、薄いベージュまでだ。

 って何考えてるんだよ。


 必死で訴える俺を見ていたアリスさんが、突然くすくす笑い出した。


「アオイさんって楽しい人ですね。しかも真っ赤になって」

「わーん、アリスさん意地悪ですっ!」

「くすくす、あ、リボンは有難く頂きますね」

「はい、どうぞっ!」


 アリスさんに赤いリボンを手渡すと、嬉しそうに笑ってくれた。

 その表情は、年相応の笑みだった。


「ついでに、巻いてもらえますか?」

「わかりました!」


 アリスさんの後ろに回って、金色の綺麗な髪を掬い上げる。

 髪の下に赤いリボンを回して、上へと持ち上げ、頭の天辺で大きなちょうちょ結びをした。

 最後に定着の魔術(これはノリのような効果がある)をかけて完成。

 定着しておかないと、激しい戦闘したときに外れてしまう可能性あるからな。


「できましたよ」

「ありがとうございます。これで、アオイさんのリボンとおそろですね」


 前に回って確認する。

 うわ、なんだこれめちゃくちゃ可愛いじゃん。

 金髪ロリっ子に赤い大きなリボンってめちゃくちゃ似合うな。


「うわ、とても可愛いですっ! お人形さんみたいですね!」

「そ、そうですか? ありがとうございます」

「その若干照れた表情も素晴らしいですっ! まさに人間国宝ですよ! 脳内に映像を焼き付ける必要ありますねこれはっ」


 もうこれは何年かかってもいいから、写真の魔術を開発せねばなるまい。

 いや目標は高くHDビデオクラスまでだっ!


 っと、些か壊れてしまった。

 反省。


「アオイさんって本当に楽しい人ですね。これからもよろしくお願いします」

「はいっ、こちらこそお願いしますね、アリスさん」


 そしてアリスさんと楽しく会話していると、ドアがノックされた。


「どうぞ」

「お嬢様方、夕食の準備が出来ましたので一階へお越しください」


 ドアを開けたのは、猫の執事バロンだった。

 やっぱこいつかっこいいな。


「わかりました。アオイさん、一緒に行きましょう」

「はいっ!」


 アリスさんが先頭を歩き、その後ろを俺とバロンが並んで廊下を歩いていた。

 螺旋階段を下りて、一階へと下る。

 これ面倒だよな。

 誰もいない時なら、ジャンプしたり飛び降りたりしよう。


 そんな事を考えていると、こっそりバロンが耳打ちしてきた。


「こんな短期間でアリスお嬢様と仲良くなられるとは、思いもよりませんでした」

「怪我の功名、というものですね」

「はて、そのような言葉は分かりかねますが。しかし、私めの期待以上でございますね。アオイお嬢様は」

「はい、これからも頑張らせていただきますよ?」

「また後日、ご説明に伺わせていただきます」


 そう言ったバロンは、楽しそうに口元をゆがめた。

 これは期待してよさそうだ。

 一体どんな事があるのか、楽しみだな。


「楽しみにお待ちしております」


 そして、アリスさんと目が合ったとき聞こえてきた、畑仲はたなか君? という声。

 あれは空耳ではない。

 誰かが俺の前世を知っている。

 この世界は全く不思議が多くて楽しい。

 やっぱりワンコの言うとおり、新大陸こっちに来てよかった。



 ……無意識的に頭に巻いている青いリボンをそっと触りながら。





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