2 冒険者の町ラルツ
書き溜めていたのがなくなりました。
一日一回更新できればいいなぁ
「お世話になりました」
城塞都市ベールの東側、冒険者の町ラルツへと繋がる街道。
そのベールの出口で俺は、おじいさんの兵士に見送られていた。
「またこいよ」
「はい、次来たときは絶対お酒は飲みません」
「はははは、お嬢ちゃんの武勇伝は長くこのベールに語り継がれるだろうな」
「や、やめてください! 人はそれを黒歴史というのです! ではお元気で!」
俺が手を振ると、城壁の上にいた見張りの兵士たちからも、たくさんの声が届いた。
「お嬢ちゃん、またこいよ!」「また酒を飲み比べしようぜ!」「次来たときも司令官殴ってくれよな!」「冒険者になったら一緒に戦おうぜ!」
「はい、みなさんもお元気で!」
そしてラルツへと向けて走り出した。
陽光が煌めき、そよ風に草木が靡く街道。
幾人もの旅人や商人、また冒険者にみえる一団とすれ違い、また追い越した。
そんな中、徐々に気分が高揚していく。
それにしてもベールの兵士たち、ものすごく気さくな人ばかりだったな。
酒を飲んだのは失敗だったけど、却ってそれが良かったかもしれない。
……ポジティブ思考か。
またいつかベールにこよう。
マラソン気分で駆けていくと、既にお昼に差し掛かっていた。
おじいさんに貰った、ベールの名物である豪快な串肉をポーチから取り出し、歩きながら食べる。
まるで昔、幼稚園に通っていたとき、遠足で歩きながらお菓子を先生に見つからないようこっそり食べた時のようだ。
同じ食事でも、外で食べるとなぜかおいしく感じられる。
特に自然の中で食べる飯は、極上のスパイスをかけたようだ。
あ、でもさすがにワインは飲まないぞ?
さて、ベールからラルツまでは徒歩でおおよそ三日。
この世界の人は、一日平気で三十キロ~五十キロは歩く。
つまり、一日平均四十キロとして百二十キロはある計算だ。
しかし、俺が夜中に全力で走れば百二十キロの距離なんて二時間かからない。
こうして昼間は適当にならしながら走って、今夜全力で走れば夜のうちに着くだろう。
ラルツは冒険者の町だけあって、二十四時間常に開いているから、夜についたとしても町に入れないことはない。
今夜は宿に泊まって、明日おばあさんのひ孫、ギルドマスターに会いに行けばいいだろう。
「おい、そこのガキ。いくらこの街道が比較的安全だとはいえ、魔物も少なからずでるぞ。そんな装備で大丈夫か?」
途中すれ違った、男二人、女一人構成の冒険者に声をかけられた。
確かに端から見れば、ローブを着ただけの子供が一人、のんびりと串肉を食べながら遠足気分で歩いているようにしか見えない。
「大丈夫だ、問題ない」
つい反射的に返してしまった。
が、そう言った途端爆笑された。
「な、なんですか! 急に笑うなんて失礼ですよ!」
「いや、すまん。まさかそんな返しが来るとは思わなかったんでな。普通はたいてい装備自慢や、武器などのエモノを見せてくるからな。嬢ちゃん、名は?」
自己紹介か。
ここで普通に名を名乗っても印象的ではない。
明るく、楽しく、ポジティブに、そして覚えやすくウケるように。
誰でもこれを聞けば、俺だとわかるようなものを。
よし、これだ!!
「可憐な美少女のアオイと申します!」
「か、可憐……? そりゃ、あと十年くらい経ってから使うようなセリフだな」
「それについて、異論反論は受け付けません。あしからずご了承ください」
「ぎゃははは、いいなこの子! ウケるぜ」
「でもこの子、ダークエルフのダンピールよ? きっと将来本当に可憐な美少女になるわよ」
「当然です! そこのおねーさんは分かっていらっしゃいますね!」
「しかし、あなた本当にダンピール? 全然そんな風に見えないわね。ラルツにいるのも、みんな言葉少ない人ばかりなのに」
「おや、お疑いですか? ではホンの少し、ちょっぴりで良いので血を吸わさせてください。きっとおねーさんの血はおいしいと思います」
「えええっ?! いえ、さすがにそれは断るわ」
「そうですか、それは非常に残念です。しょんぼり」
そう言うと同時に、人より長い耳をくてっと垂らす。
我ながらあざといな。
「え、えっと。そうね、気が向いたら今度吸わせてあげるわ」
「本当ですか! 約束しましたからね!」
「氷結の魔女も、子供には形無しだな」
「やめなさい、その名を言うのは」
おや、二つ名か。
となると、この冒険者たちはそれなりに強いのだろう。
でもそれほど強そうに見えないんだけどな。
「アオイちゃんだったっけ、ラルツまでまだ遠いけど、本当に大丈夫?」
「はい、こう見えてもワイバーンくらいなら一人で撲殺できます!」
「ははははは、ワイバーンときたか。しかも撲殺とはそいつぁーすげぇな!」
嘘は言っていない。
実際、昔はワイバーンなど三時のおやつ代わりの血に飲んでいたしな。
でも彼らは冗談だと思ったのだろう。
やっぱり強そうに見えないんだな、この外見じゃ。
ラルツって冒険者の町というくらいだから、冒険者向けの装備が色々売っているだろうし、少し見繕ってみよう。
「まあダンピールだし普通のガキじゃないだろうけど、一応気をつけることだな。油断大敵だぜ?」
「はい、ご忠告ありがとうございます。あなたたちも気をつけてくださいね」
「お、おう。まあこれでも冒険者歴は長いから大丈夫さ」
「ではまた、縁があればお会いしましょう!」
「じゃーな」「またね、アオイちゃん」「楽しかったぜ!」
そう言って冒険者たちと別れた。
再び串肉を食べながら歩き始める。
吸血鬼、ダンピールのイメージを一新させること。
あんな対応で良かったか?
でも、彼らの反応をみる限り、かなり良かったと思う。
あの氷結の魔女とかいうおねーさんも、ダンピールとは思えない、と言っていたし。
ならこの調子で行ってみよう。
そしてその日の晩、俺は闇に紛れて街道を走りぬけ、魔物と勘違いされそうになるものの、無事ラルツへとついた。
ラルツは門は完全に開かれ、誰でも入れるようになっていた。
一応見張りはいるものの、それは人を見ているのではなく、魔物を警戒しているのだろう。
ここがラルツ、冒険者の町。
そしておばあさんが昔滞在していた場所。
夜中だというのに、町の明かりは常に灯っており、そしてかなり人通りも多い。
さすがに日本の新宿のような規模ではないが、こんな地方の、人口二十万人程度の町にしては多い。
その町へと一歩足を踏み入れた。
その瞬間、何か違和感が全身を駆け巡った。
……これは?
非常に薄っすらとした魔力を感じたけど、今のは、何らかの結界か?
俺以外に何人も町から出入りしているが、特に気にしている人はいない。
うーん、魔大陸で生まれ育ったせいか、無意識的に気配に敏感になっていたからかな。
あそこでは一瞬の油断で、足や腕、下手すりゃ身体ごと食われるからな。
一度だけ下半身全部食われた事があったけど、再生するのに一週間かかった。
人間だったらとっくの昔に死んでいたな。
結界っぽいけど、入り口に張ってあるということは、魔物が入ってきたときに感知するようなものだろう。
気にするものではないか。
そして町の人に宿の場所を尋ねて、今日は休むことにした。




