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新ダークでエルフな吸血鬼  作者: 夕凪真潮
第二章 学園編
11/24

1 初めてのワイン

長くなってしまいました


また、この第二章かなり長くなるかと思います。

途中区切って別章に分けるかもしれません。



「アオイ、本当に行くんだな」

「アオイちゃん、きっとまた会えるよね」


 おばあさんの亡くなった翌朝、俺は墓を立てたあと、遺言通りラルツへと行く事にした。

 その前に、レイアードさんとテンペさんにお別れの挨拶をしにきたのだ。


「もちろんです。私は一足先に冒険者の町ラルツで一旗あげますから、テンペさんもいつか冒険者になったら来てください。先輩面してあげますから」

「うん、絶対行くからまっててね」


 もちろんおばあさんの遺言どおり、夕べテンペさんに土下座して謝った。

 彼女は泣きながら、そして笑いながら許してくれた。


「……俺は?」

「あれ、レイアードさんも冒険者志望でしたか?」

「うーん、今のところ迷ってる」

「ではレイアードさんは、ここでさようならですね」

「うっわ、寂しい事言うなよ!」

「それにしても、その青いリボン、すっごく似合っているよ」


 俺の頭には、おばあさんから託された青いリボンが巻かれていた。

 俺じゃ巻けないので、今朝テンペさんに巻き方を教えてもらったのだ。


「ほら、お兄ちゃんもちゃんと言いなさい」

「あ、ああ。確かに、アオイにとても似合っている。すっげぇ可愛い」


 ……まあ好意を持たれるのは良い事だろうけど、何だか微妙だな。

 嬉しいのか気持ち悪いのか複雑な心境である。


「え? レイアードさんがそんな事を言うなんて、午後はドラゴンが降ってきますね」

「なんだよ、ドラゴンなんて降るわきゃねーだろ!! それじゃ天変地異の前触れだよ!」

「ふふふ、ではお二人とも、また会いましょう」

「うん、また会おうね!」

「ああ、模擬戦でお前から一本取れるくらい強くなるから、それまで待っててくれ」

「それは永久に待つことになりますね」

「くっ、今に見ていろ!」


 そして俺は一年間住んでいたファイトスの町を離れていった。




 町を出て半日が経過した。

 途中何事もなく無事にここまで来ている。

 さて、冒険者の町ラルツは山間にある町だ。

 周りの山、そして町の周辺にある森には魔物たちがひしめき合っているらしい。

 そんな中に町を作ったんだから馬鹿じゃないのか、とも思ったけど、遥か昔は単なる冒険者たちの拠点だったらしい。

 山間の入り口から徒歩で三日程度の距離、山間の出口近辺で更に先には広大な森が広がる場所であり、拠点にするにはちょうど良かったらしい。

 それが徐々に発展していき、周囲に結界なんかも張られ、そしていつの間にか冒険者が集う町へと変化していったそうだ。


 この大陸には冒険者たちが集まる町は二つある。

 一つはリッチロードが作り住んでいると言われる大迷宮の側にある町、迷宮都市アーク。

 そしてもう一つが、この冒険者の町ラルツだ。

 ラルツには冒険者ギルドがあり、冒険者たちを色々とサポートしている。

 おばあさんのひ孫も、この冒険者ギルドに属しているので、まずはそこを尋ねる予定である。


 ラルツへ行くには、まず城塞都市ベールを通る必要がある。

 ラルツと反対側の山間の入り口にある町だ。

 城塞都市の名の通り、とても大きな城壁で作られた町で、オーギル王国の駐屯地になっている。

 魔物たちが住まう山や森の近くにあることから、他国と戦うよりも魔物と戦う事のほうが多いそうだが。

 そして、基本的に外部の人間を町の中に入れることはしない。

 まあ一応駐屯地だしな。

 でもオーギル王国が発行している手形、或いはラルツの冒険者ギルドに属している人ならば、入ることを許される。

 ラルツの冒険者ギルドとは、対魔物戦で協力関係になっているからだそうだ。


 そして、俺が持っている魔法のポーチの中には、俺の身分証明書となるおばあさんが書いてくれた手紙が入っている。

 これを見せれば、城塞都市ベールにも入れるみたい。

 さすが元高ランク冒険者のおばあさんの一筆だね。


 別に寄っていく必要はないけど、見聞を広めるために一晩泊まるのもいいだろう。




 そしてファイトスの町を出て五日後、ようやく城塞都市ベールが見えてきた。


「うわ、おっきい……」


 それはまさに圧巻だった。

 二十メートルはある頑丈な城壁が山間に聳え立っていた。

 しかも城壁の天辺には、何十人もの見張りが立っている。

 これなら空を飛ぶ魔物以外なら、楽に持ちこたえそうだ。


 そして俺はベールに入場する列に並んだ。


「はい、次。おや? ダークエルフのダンピールかい、珍しい。お嬢ちゃん、手形かギルド証は持っているかい?」


 好々爺と呼べそうなご老体の門番が、声をかけてきた。

 しかし重そうな鎖帷子を着ていて、老人とは思えない腕が見えている。

 さすが最前線の兵だな。老人とはいえ、それなり・・・・に強そうだ。


 しかし、この人俺がダンピールと知っていても普通に接してくれるな。

 さすがラルツの近くにある町だ。

 ラルツは吸血鬼やダンピールでも区別なく、町の防衛に手を貸してくれるのなら住むことを許可されている。

 もちろん冒険者に登録した吸血鬼でも問題ない。

 ベールもそれに準じているのだろう。



「宜しくお願いします」


 ポーチからおばあさんに書いてもらった身分証明書代わりの手紙をおじいさんに渡す。


「ん、紹介状?? 中を見させてもらうよ」

「どうぞ、ご拝見ください」

「ははは、お嬢ちゃん、難しい言葉知っているんだねぇ。どれどれ……」


 手紙を広げたおじいさんの顔つきが、見る見ると驚きの表情へと変化していった。


「え、英雄ラトゥールの紹介状……?! あの疾風迅雷の妖精か。この印はギルドの正式な印でサインも間違いない、本物だ。お嬢ちゃんは、あのラトゥールの親戚か何かか?」

「おばあさんは英雄って呼ばれてたのですか。私は親戚ではなく、おばあさんについ最近まで面倒を見てもらっていました」

「となると、ラトゥールの拾われ子? もしかすると弟子か?」

「はい、おばあさんに戦い方を少々習っていたこともあります」

「おい、お前ら来てくれ! あの英雄ラトゥールの弟子がきたぞ!!」


 大声を出したおじいさんに、城壁の控え室にいた兵士たちが集まってくる。


「どうしたじいさん」「足腰やられたか?」「休憩がいるなら変わってやってもいいぞ」


 そんな言葉を発する若い兵士たちに、おじいさんは一喝。


「バカモン! この紹介状を読んでみろ!! あの英雄ラトゥール、疾風迅雷の妖精の弟子がきた!!」

「え? 英雄ラトゥールって?」

「ばか、七十~八十年くらい昔にいたものすごく強い冒険者だった人だよ。習っただろ?」

「古竜を一人で倒したばけもんみたいな冒険者だ」

「古竜を一人?! まじで?!」

「いいからお前ら、このお嬢さんを丁重にもてなせ!」


 そして俺は兵士たちに連れられて、丁重に詰め所へと案内された。

 ……あれ? 単に町に入りたかっただけなのに、どうしてこうなった?


「いいかお前ら、英雄ラトゥールってのはだな、わしが若い頃あこがれてた存在だ。疾風迅雷の妖精、まさしく目にも留まらぬ速さで駆け抜け、ミスリルの剣を振る度に魔物が切り裂かれ、唱える魔術は強大なドラゴンですら一撃で仕留めたほどの冒険者だ。この百年間で唯一Sランクを超えることが出来た英雄なのだよ!」

「お、おう。そんな冒険者がいたんだな」

「そして彼女の名が全大陸に広まったのが八十年前、わしが生まれる前の事だよ。このベールに古竜エルダードラゴンが襲ってきたのだ。ラルツの冒険者たちに至急応援を頼むと同時に全兵力を持って退治しようとしたが、結果は無残にも城壁は破壊され、数多くの人が亡くなった」

「ああ、その話しなら聞いたことがあるな」

「半分以上の兵士が死に、全滅ももはや是非もなし、とそういう状態だったとき、当時S+ランクの冒険者ラトゥールが単身古竜に挑み、半日以上戦い続け、そして勝利したのだ」

「へぇ、すげぇな。半日も戦い続けるなんて人間じゃねぇよ」

「当時のオーギル国王は彼女に対して様々な勲章と地位を用意したものの、ラトゥールは多数の死者を出したのにそんな物は貰う資格がない、と言って全て断りラルツへと戻ったそうだ。それから彼女は英雄と呼ばれるようになった」

「じいさん詳しいな」

「そりゃ、わしの親父から幾度となく聞かされたからな。何せ親父は昔ここで兵士やっていて、古竜に襲われた時、彼女に実際に助けられたからな。もう熱狂的なラトゥールファンだったぞ」


 おばあさんの昔話をこんなところで聞くことになるとは思わなかった。

 しかし、やっぱりおばあさんは強かったんだな。


「で、英雄ラトゥールはご健在か?」

「いえ、先日お亡くなりになりました。私はおばあさんのひ孫さんを尋ねにラルツへ行く途中なのです」

「なっ?! ラトゥールが亡くなった……。そうか、ここ二十年ほど名を聞かなくなってたが、とうとうお亡くなりになったか」


 二十年? つまりおばあさんは八十歳くらいまで、現役で戦ってたのか?

 なんというか、もはや人じゃないよな。


「ラトゥールのひ孫といえば、ラルツでギルドマスターをやってるルーファストだな」

「えっ?! ギルドマスター??」


 ちょっとまて、ギルドマスターって冒険者ギルドの一番お偉いさん?

 そんな人を訪ねに行くところだったのかよ。

 いきなり面会しに行かなくてよかった。いくら紹介状を持っているとはいえ、現代で言えば子供がいきなり大企業の社長に直接会いに行くようなものだ。


「なんだ、お嬢ちゃん知らなかったのか。中々豪快で面倒見の良い方だよ。そういやお嬢ちゃん、腹減ってないか?」

「あ、少々空きました」

「じゃあ、ベール名物のアレ食わせてやろう」


 そしておじいさんが出してきたのは、二本の串にとても大きな肉がささったものだった。

 っつかでけぇ。

 四百グラムステーキをそのまま串にぶっさした豪快な代物だな。

 それと飲み物。コップに赤い液体が並々と入っている。


「これは?」

「ベール名物の豪快肉セットってやつだ。まあまずは食ってみろ」

「はい、頂きます」


 恐る恐る一口かじりつく。

 あ、思ったより柔らかい。そして意外とジューシー。

 脂身が程よく乗って、焼き加減も絶妙だ。

 味付けは塩か? 塩なんて高価なものを使っているのか。


 でも……これはうまい。

 なんというか、久々においしい肉を食べた感じだ。


「おいしい……です」

「だろ? さあたくさん食ってくれ」

「はいっ!」


 夢中で食べ、コップに入っている飲み物を飲んだ。

 そして……それからの記憶がなくなった。




「う、うーん……あれ、寝てた?」


 俺は椅子に座って机にうつぶせたまま、寝ていたらしい。

 そして俺と同じように兵士たちが何人も倒れている。

 あ、あれ? なんだこの状況は?


「お嬢ちゃん、やっと起きたかい」


 そんな中、一人で静かに何かの飲み物を飲んでいたおじいさん兵士が立ち上がった。


「おじいさん、これって? ……っ! いたたたたた」


 ものすごく頭痛がする。

 なんだこれ?

 何か悪いものでも食ったのか?

 俺が痛みに頭を抑えていると、おじいさんが声を上げて笑った。


「はっはっは、二日酔いか。それにしてもお嬢ちゃんは酒癖が悪いな」

「え? お酒?」

「ああ、コップに入ったワインを一口飲んだ途端、いきなりぐびぐび飲みだしてな。そして若い兵士に酒を注げと命令したり、お代わりを樽ごと持って来いといったり、無理やり兵士たちに酒を飲ませたり、あげくやんわり拒否したら魅了なんてしてきたな」

「ちょっ?! 本当ですかっ?!」

「ははははは、久々に楽しい夜だったよ」

「ご、ごごごごめんなさいごめんなさい!」


 そういや俺って、甘酒やウィスキーボンボンですら楽に記憶を無くすくらい弱かったけど、今でもそうだったのか。


「そしてトドメは、騒ぎにかけつけたうちの司令官に対し、私だってソロで古竜倒したことありますよ! とか叫んで、ワンパンでノシた」

「のぉぉぉぉぉぉ?!」


 うちの司令官って、もしかしなくても、この城塞都市ベールに駐屯する軍のトップだよな。

 将官クラスのお偉いさん?

 それをノシた……だと?


「うちの司令官も元A+ランク冒険者だったのに、意表をついたとはいえ、よく勝てたもんだ。さすが英雄の弟子の事だけはあるな」

「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

「という事でお嬢ちゃん、悪いが司令官の機嫌が直るまで暫くここに滞在して貰うからな」

「はい、あうぅぅぅぅぅ~」




 それから一週間、俺は司令官の小間使いとして働かされた。

 ……くすん。


 教訓、酒は飲んでも呑まれるな。


将官クラスを殴ったら、普通は逮捕、最悪死刑もありえますが

さすがに八歳の女の子に殴られ気絶した、というのはメンツ的に問題があり、

このため、暫くタダ働きという罰を与えた、という流れです



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