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必くんと文鳥  作者: 夢羽
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洋とヒヨドリ

 秋が来た。

 ヒヨドリがひーよひーよと鳴いている。おはよう。僕は庭の木に止まる彼に朝の挨拶をした。ひーよ、と彼は返事をする。今日はとても良い天気なようだ。首を傾げてとんとんと跳ねる彼が可愛くて少し眺めていようかなと思った。

「おはよう、必くん」

 元気いっぱいの彼女の声がする。僕はくしゃっと笑うと彼女の頭を優しく撫でた。

 縁側に洋も座り、二人で飛行機が浮かぶ空を見上げてんーっと伸びをした。秋空は真っ青で雲ひとつない。いい天気だね。そう言うと、洋はそのまま後ろに寝転んだ。

「わたしここでお昼寝しよーかなー」

「もー、しょうがないなぁ」

 僕は自由気ままに振舞う洋に苦笑いしつつも隣に寝転んだ。空と家の屋根が半分半分に見える。縁側の床は堅くて痛いけど、洋と一緒ならだいじょうぶだなと思った。僕の家の近くにある秋桜畑はいつ満開になるのだろう。はやく咲かないかなと思った。一面がピンクと白に染まったら、洋はどんなふうに喜ぶだろう。


「ねぇ必くん。おばさんはー?」

「今病院にいるよ」

「そっか、大きくなってきたもんね、おなか」

 僕の母さんはおなかに赤ちゃんがいる。僕の弟か妹か、どちらかが産まれるんだと聞いた。よくわからないがみんなはよかったねと言う。特に両親と洋は終始笑顔で母のおなかをずっと撫でていた。僕はおなかを撫でて、この中に赤ちゃんがいるんだということはよくわからなかった。でも、あたたかくて丸くて、ゆりかごみたいだなとは思った。洋は母さんの妊娠がわかってからというもの毎日ここに顔を出した。母さんのおなかに耳を当てておなかを手で包んで、母さんに寄り添う洋を見ていたら、それはそれはとても幸せだった。

「元気な赤ちゃんがうまれるといいね!」

心からそう言う洋に、そうだね、と僕は返す。洋はいい子だ。純粋で優しくて、海のような女の子だと常々思う。なにも言わなくても、そばにいるだけで心が凪いでいく。洋みたいな妹がうまれてくれるなら、妹がほしいなと思った。

「男の子か女の子かわかったの?」

「わかるらしいけど、聞かないみたいだよ。名前もどっちでもだいじょうぶなようにつけたみたい」

「そうなのー? 名前考えたかったー。ね、君もそう思うよね?」

がばっと起き上がると、足をぶらぶら、口を尖がらせて洋は文句を言う。ふてくされる洋はよく見るけど、いつ見てもかわいいなと思った。急に話をふられたヒヨドリはひーよと他人事のように相槌を打った。洋は相槌を自分のうまいように受け取って満足すると、僕の服を引っ張った。

「必くんこの鳥は」

「ヒヨドリだよ。公園の木とかたくさん木が並んでいる所に多く生息してて、甘い汁が好きみたいで花が咲くとやってきて蜜を吸ったり、庭先に蜜柑、林檎みたいな果物の半切れを置いておくとすぐにやって来たりするんだ。可愛い鳥だよね」

 羽根は綺麗ではないが、僕はこういう鳥を気に入っている。

「へー、ヒヨドリって女の子みたいだね! お花とかくだものとか、綺麗なものが好きなんでしょう?」

「そうだね、女の子みたいかも」

キラキラした瞳で僕に笑いかけると、彼女はヒヨドリをじっと見つめてはその視線をはずさない。まっすぐに曇りのない一視線でヒヨドリに釘付けになっている。

女の子みたい、か。僕はヒヨドリの知識をもっていても、そういうふうに感じたことはない。彼女の感性をいつもうらやましく、素敵に思う。彼女の瞳になりたい。彼女はこの景色を何色で観ているのだろう。彼女の世界はどんなに鮮やかなんだろう。色とりどりの世界に染められた、洋の中の世界を彼女と歩きたい。そして彼女が描く絵をずっと眺めていたい。

「必くん?」

「うん?」

 洋は不思議そうな顔をして、僕の目の前で手をひらひらさせた。その小さな手をきゅっと握って、どうしたの? と首をかしげた。

「あのね、紙とペンあるかな? ヒヨドリを描きたいの」

「うん、わかった。ちょっと待っててね」

 らくがきちょうを受け取る彼女の手は、鉛筆で少し黒ずんでいて、僕はそんな彼女の手の上に自分の手を優しく重ねた。


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