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追憶


回想編です。





・・・・・寂しい。

僕はいらない存在なのかな?



そこには、まだ小学校に入ったばかりぐらいの男の子がいた。

男の子はいつも本ばかり読んでいた。


本は、

[誰でもわかる化学]

[物理入門]

など、その年頃の子が読むには難しすぎるものばかりだった。


両親にその本を″宿題″として渡されていたのだ。両親に課されたその″宿題″を男の子は毎日こなしていた。



「僕が頑張れば、おかーさんとおとーさんはほめてくれる」



そう思って、男の子は毎日毎日頑張って″宿題″を終わらせた。

しかし、″宿題″が一つ終わっても、新しい″宿題″が届くだけで、いっこうに両親は帰ってこない。





そんなある日、召し使い達が話しているのを聞いてしまった。


ーー坊っちゃん、可哀相に・・・。もう何日もご両親が帰ってこないなんて。


ーーそれが、仕事に入れこみ過ぎて、坊っちゃんがいるってこと忘れてるらしいのよ。


ーーえっ、自分の子なのに。あ、じゃああの″宿題″は?


ーーあぁ、あの″宿題″はご両親ではなくて、坊っちゃんの叔父様方が今の状況を哀れんでお送りになったものなのよ。


ーー・・・・ご両親からのものじゃなかったのね。




男の子は駆け出した。頭をハンマーか何かで殴られたかの様な衝撃だった。


『坊っちゃんがいるってこと忘れてるらしいのよ』


『″宿題″はご両親ではなくて、坊っちゃんの叔父様方が今の状況を哀れんでお送りになったものなのよ』


先程の召し使いたちの話が、頭のなかで思い出される。



あの″宿題″は、おとーさんとおかーさんからのモノじゃなかったんだ!

おとーさんとおかーさんは僕のことなんて忘れてるんだ。


どうしようもない悲しみが、男の子を支配した。この悲しみに飲み込まれるのではないかと、男の子はそう感じた。





翌日。

男の子の気持ちに関係なく、学校は相変わらずあるもので、子供たちの笑い声が響いていた。


男の子はいつもの様に、教室の一番角にある自分の席に座る。


悲しみは継続中だが、なにかすることもないので、いつもの様に″宿題″を読みはじめた。




読みはじめてしばらくした頃である。



「なに読んでるの?」


目の前に女の子の顔があった。髪は肩ほどまで伸ばしており、あどけない笑顔でこちらを向いている。



「えっと、

[生物のしくみ]について・・・・・」



声が小さくなっていく。僕はどきどきしていた。いつも教室の隅で本を読んでいて、話しかけられることなんてめったになかったし、本も難しいからかクラスの子たちは微妙な顔をしていた。


家でも学校でも、

いらない存在なのかな・・・・。

僕はそう感じていた。





しかし、女の子の反応は他の子とは違っていた。



「すっごーい!!難しい本読んでるんだっ。なんか格好いい」



女の子は目を輝かせて、僕に言った。


「・・・すごい?格好いい?」


初めて言われた言葉だった。先程までの悲しみが嘘の様に、僕は嬉しくなった。



それからは、なにかとその女の子といる時間が長くなった。割と家が近くであったことも関係するかもしれない。

しかし、一番はその女の子といると、悲しみも寂しさも忘れて、楽しい気持ちになれるからだった。









僕はこの子の傍にずっといたい。

そう思った。




何年か過ぎて、小学校四年生になった。


そんなある日、女の子は真剣な顔をして、僕に言った。



「私に出来ることがあるなら、なんでも言って。私はいつでも傍にいるから」



僕の家のことでも聞いたのだろう。


自分のことではないのに、女の子は泣きそうな声だった。

その言葉がどれ程僕の救いになったのか、彼女は知らない。


絶対に、彼女を手放したくない。

その思いは強くなった。




「じゃあ、ずっと僕の傍にいて」



そう言う僕に、彼女は無邪気な笑顔で、


「わかった。ずっと傍にいる。悠」


そう約束した。その約束を忘れはしない。



僕は嬉しかった。これで寂しくなくなる。

彼女が手に入る。


そう思った。けれどその反面怖くもあった。


もし、彼女がいなくなったら自分はどうなるのだろう。



そんな未来はきっと、生きていけない。



だから、絶対に手放さない。

君は僕のものだから。

その笑顔も涙も綺麗な髪も、柔らかな肌も呼吸すらも。

全部全部全部全部、僕のもの。


それが、他に向くなんて絶対に許さない。

もし、そうなったら、僕は何するかわからないよ?




だから、ね。ずっと僕だけを見て、りさーー。




なぜ、主人公に執着するのか。


そこが大切だと思っていたので、それがやっと書けてよかったです。

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