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0.神

 (端末・新田恵介)


 原子や分子、あるいはもっと小さな電子や陽子や中性子といった素粒子の世界、スモール・ワールド。そんな世界を扱う物理に、量子力学という分野がある。

 その中で提案されたものに、不確定性原理という原理が存在する。これは、位置を決定すれば運動量が分からなくなり、運動量を決定すれば位置が分からなくなるという実験結果から、そもそも観測をしなければ物事は決定されないのではないか?という、結論に至り、それを“不確定性原理”と名付けたものだ。

 因みに、時間とエネルギーにおいても、この関係性は存在している。

 もっとも、今は既にもっと基本的な原理からこの不確定性は導かれていて、正確には不確定性“定理”と呼ぶらしい。

 この不確定性定理を前提とし、演繹させると奇妙な現象が導かれる。

 さて。想像力を働かせてみよう。これは現実に存在していながら、それでも日常生活では感じ取れない(もし、感じ取れるという人がいたら、謝るけど)、とてもワンダーな世界の話だ。把握する為には、想像力と自由な発想力が必要だよ。

 電子が複数個ある空間を想像してみよう。その電子の存在はもちろん不確定だ。言うまでもなく、不確定性定理に従っているからだ。位置も運動量も決定されていない。ところが、この世界に変化が起こり始める。高かった温度が下がっていったと思ってくれ。そして、温度が下がると、質量をもったものの運動量は下がってしまう(と言うよりも、そもそも熱自体が運動エネルギーなのだけど)。

 ここからが重要だよ。思い浮かべるのは、先の不確定性定理の話。特に運動量が決定をされると、位置が分からなくなる、という部分だ。これはつまり、位置の不確定性が上昇するという事。

 繰り返すけど、温度が下がると、質量を持ったのものの運動量は下がる。電子にも質量は存在するから、電子の運動量は下がる。つまり、運動量が(完全ではないにしろ)決定に近づく、という事だ。そして、運動量が決定をされると、位置がその分、不確定になる。電子の位置の不確定性が増す訳だ。

 ぼんやりとした雲のようなものをイメージしてくれるとありがたい。球体の雲がいいかな? その雲は、電子が存在しているかもしれないゾーンを表現している。運動量が低下すると、その雲が拡がるんだ。ここで忘れてはいけないのが、電子は一つではないという点。複数個存在している。つまり、そんな雲がいっぱいあるのだね。もちろん、それらが近くにあれば、その雲と雲は接し重なる事になる。

 さて。すると、どうなるのだろう? これは言うなれば、電子群の存在可能域が重なってしまっている訳だ。電子と電子が区別できるのなら、またちょっと話が変ってくるのだけど、電子と電子は区別できないとされている。なら、重なってくっついた電子群は存在が区別できない大きな一つの電子の雲となりはしないだろうか?

 つまり、電子達は、存在を共有し始めてしまうんだ。そこにあるのは、存在を共有して一つとなった巨大な電子の塊。

 こんな電子の塊ならば、少々の電気抵抗なんか無視して直進できそうな気がしないか? と言うよりも、実際無視して直進してしまうのだけど。この状態になった電子は、電気抵抗0か、または測定できていないほどの小さな値で流れ続け、エネルギーを失わない。

 もう、分かる人は分かるかもしれないけど、これが“超電導”と呼ばれる現象、のまぁ、イメージだと思ってくれるとありがたい。正確にこの理解で良いのかどうかは、実は僕自身にもそんなに自信はないのだけど。

 それと、実は説明を端折った点もある。電子という素粒子は、マイナスとマイナスで互いに反発をし合うから、くっつけるにはまだ条件が足らない。が、申し訳ないけど、ここではその話題には触れない事にしておく。本題とはそんなに関係のある話ではないから。

 この超電導を応用したものとして、リニアモーターカーや、または超伝導直流送電という送電ロスなく電気を目的地に送り届ける技術がある。

 この現象は素粒子の世界のコーラスだと表現しても構わないと思う。複数の存在が、一つになる現象。


 さて。

 ここでもう一つ、君の想像力に頼らせてくれ。今までの話を踏まえた上で、人間の群集行動を考えて欲しいんだ。

 人間は時に、ここで説明した電子達のように同調し合い、一つに結びつき、そして同じ行動を執る。例えば、暴動。個を集団内に埋没させて、一人の時には考えられないほどに暴れてしまう。もちろん、少々の抵抗なんかじゃ止まらない。

 集団で行動する際、人はまるで個人の人格が消えてしまったかのうようになる場合があるんだ。一人の時は優しい人が、集団にまざった途端に、仲の良かったあの子を急にいじめ始めるとか、ね。“個人の存在”が不確定になって、“集団”に接する事で溶け混ざってなくなってしまったみたい。

 これは多かれ少なかれ、人間社会のいたる所で起きている現象だ。人間社会が人間社会として成立しているのは、この“同調”の性質があるからだとも言えると思う。その代表的なものに“宗教”があるだろう。

 これは何も“同じ行動を執る”というような単純なものだけじゃない。抽象概念を共有し、それに従って複数の人間達が行動をしているケースも多々ある。法律や道徳、お金の巡り、その他にも例えば“霊”だとか、そういった概念を共有して。

 そういえば、関係があるのかどうかは分からないけど、こんな話もある。実は今の人類の祖先に直接は結びつかない原始人も、過去には存在していたらしいのだけど、この原始人達は滅びてしまった。そして、この原始人達には“霊に祈る”という能力が存在しなかったと言われている。

 もしかしたら、“霊という存在を想定する能力”は、人間が社会を構築する上で非常に重要な役割を果たしているのかもしれない。そしてだからこそ、宗教というものと人間社会は分かち難いのかもしれない。

 まぁ、分からないけど。

 でも、こんな想像は可能じゃないかと思う。人間達は心の中に、同じ概念を共有する事で、まるで大きな一つの存在のように行動する事ができている。それで、まるで超電導時の電子達のように、存在を共有させている。

 この人間の集団行動と超伝導との間にあるアナロジー… 類似性には何かしら偶然以上のものがあるのかもしれない。

 こんな事を書くと、「おいおい、人間心理と純粋に物理的な現象とを、同類と考えるなんて乱暴過ぎないか?」と言う人がいるかもしれないけど、僕はそう結論出してしまうのは早計じゃないかとも思う。少なくとも、数学的には、抽象概念としては、一致する何かがあるのかもしれない。

 ――いや。

 これは、全くの想像で、理論だとかそんな事が言えるような代物じゃないのだけど、この“同調”には、もっと深遠な謎が隠されている。そんな可能性を、僕は思わないでもないんだ。

 同調すれば、世界を共有する。共有したそれは大きな個で、その個の中にはルールが存在し、その中で世界は作られる。個が存在しなければ、世界は作られず、世界がなければ個は存在しない。

 こんな風にも考えてみよう。

 もしかしたら、この僕という存在は、無数の存在が何かを共有する事で発生した一つの世界なのかもしれない。

 僕がバラバラになれば、僕という世界は崩壊をし、僕はいなくなってしまう。その代わり、一つを共有し維持している限りにおいては、僕は僕自身に自由に内的なルールを課する事ができる。つまり僕はルールを創造している。まるで自然法則のように僕の中にルールを。

 その考えを僕の外にも当て嵌めてみよう。僕を支配している社会ルール。それも、実はそんなものなのかもしれない。社会が一つを共有し維持している限りにおいて設定できる、世界の法則。もちろん、それは社会の外の自然法則にだって当て嵌められるかもしれない。

 宇宙が一つを共有し維持している事により、発生するルール。それが自然法則。

 なんだか、哲学っぽいような宗教っぽいような話になってきたけど、あまり構えないでくれ。これは飽くまで“想像”の範疇の話さ。ただの想像。想像を膨らましているだけ。

 さて。

 では、もっと、想像をしてみよう。

 仮に世界の全部と僕が結びつき、僕の存在がなくなって、“大いなる一つの何か”の一部でしかなくなってしまったら。そしてそれでも、同時に僕の意識があり、そんな存在を感じられたなら、或いは僕はその存在を“神”とそう呼ぶかもしれない。

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