【J庭60ペーパー】幼馴染SS
「寒い日には、あったかいものだよなあ」
ほかほかの肉まんにかぶりつく。白い湯気ごと口におさめると、隣で見ていた浩志が笑った。
「でかい口」
「うるさい」
「ほんと、初樹は昔からよく食べるな」
寒さを理由にほぼ毎日学校帰りに温かいものを買い食いする初樹を、浩志は毎回笑う。寒い日に温かいものがほしくなるのは当然のことだ。今日なんて、びゅうびゅう風が吹いて、冷たい風が制服の襟や袖から入ってくる。浩志は気温変化に強いが、初樹は寒さも暑さも苦手。これも昔からだ。
肉まんを食べているあいだも強風がずっと吹きつけている。帰宅してから食べようかとは思ったが、この寒さで持ち歩いたら肉まんが冷めてしまう。というわけでコンビニを出てすぐの柱の影で、さっそくかぶりついたのだ。
「まだ寒いか?」
答えた頷きとともにびゅっと風音が鳴って、木の葉が舞った。強風で髪がぐちゃぐちゃでも肉まんは食べる。
「ちょっと待ってろ」
なぜか浩志がコンビニへ入っていく。なんだろうと空になった包み紙をたたんでいると、浩志が戻ってきた。手には、深めのカップ容器が入ったレジ袋を持っている。これは――。
「おでん?」
「そう」
割り箸を割る姿を見ながら、初樹は首をかしげる。初樹の買い食いはいつもだが、浩志は間食自体をしないから、かなり珍しい光景だ。
「ほら」
「え?」
大きい大根を口もとに差し出された。ふわんとだしの優しいにおいがして、湯気がくゆる。
「なに?」
意味がわからず聞くと、浩志は微笑んでさらに大根を口もとに寄せる。
「あーん」
「えっ」
「こっちのほうがあったまる、絶対」
「……」
大根を見て、浩志を見る。数秒混乱したが、勇気を出して大根にかぶりついた。柔らかい大根から、じゅわっとだし汁が染み出す。口いっぱいに温かさと甘みが広がり、飲み込んだらぽっと頬が熱くなった。
「さっきよりほかほかする」
「よかった。ほら、もっと食べろ」
「いいよ、俺もうお腹いっぱい」
首を横に振ると、浩志は残念そうにしながら自身の口に大根を持っていく。
「じゃ、俺が食べよ」
大きく口を開いて、初樹が食べた部分に丸ごとかぶりつく。見ただけで思考が停止し、頬の熱がじわじわと増すのを感じた。風の冷たさが急にわからなくなる。
「どうした?」
穏やかな眼差しを向けられ、また首を左右に振る。
(俺が浩志に片想いしてるって知らないから、そんなことできるんだ)
このとき吹きつけた強風を、きっと一生忘れられない。




