過除修正
『その瞬間感じたのだ。世界が私を』
「……あー違う!」
青年は叫んでペンを置くと、書き進めていた原稿を一枚、二枚、三枚と丸めて捨ててしまった。それはもう一杯のごみ箱には入り切らず、風呂上がりに彼が食べた棒アイスの袋に跳ねて畳へ落ちる。扇風機の風もあって、それらはころころと窓の方まで転がっていってしまった。しかし青年は目もくれない。
「こうじゃないんだよ。俺が書きたいのはもっと……」
想像だけなら簡単だが言語化は出来ず、青年は先を言わないまま再びペンを握る。
次こそ――
その思いだけは立派だったが、何度書いても原稿の内容はさして変わらなかった。
チクタクと時計が針を進める音、扇風機の音、外の虫の鳴き声が狭い和室に響いている。窓から入る僅かな涼風と扇風機のお陰で、かろうじて青年の頭からは煙が出ないで済んでいた。しかしタンクトップにパンツ一枚の姿になる程度には彼は今あつい。
「あぁ、駄目だ。どうしたらいいんだ。どうやったらこの本の魅力を最大限伝えることが出来るんだ俺は!」
青年は頭を抱えると、机に置いた自分で選んだ図書を見つめる。そして何百回目か、それに手を伸ばすのだった。
夏休み、数ある課題の中で彼は読書感想文だけがその最終日まで残ることになったそうな。
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