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アニメ・ゲーム哲学

ガンダム哲学 種アンチが評価を改めた話 歌姫偏

作者: 忠柚木烈
掲載日:2026/06/26

 種はガンダムシリーズの中でも、特にアンチが多い作品だ。

 他ならぬ筆者もそうだ。


 しかし近年公開された、劇場版の設定を見て。

 ある仮説を立てたので、一気見してみた。

 その結果、評価は大きく変わった。


 せっかくなので、設定考証した内容を、雑多に書き並べる。




●ラクス:プラント不利な立ち回り

 種と種死共通で、プラントの戦略兵器を破壊する。


 プラントの戦略兵器所持は、自衛からの要求で、相互確証破壊の要だ。

 その破壊は戦力的均衡という、天秤の崩壊に他ならない。


 せめてプラントの戦略兵器破壊後は。

 連合の核ミサイル生産拠点・保有施設を攻撃し。

 戦力的均衡を保たなければならなかった。


 或いは戦略兵器に依らない。

 制度的な安全保障の実現という、具体的な代案が必須だった。


 それらが欠如したままの、時間経過がもたらすのが。

 数年後となる各続編での、プラント滅亡の危機だ。

 平和と言いながら、実際はプラントの生存権のみを侵害している。




●ラクス:プラント最高評議会議長職の疑惑

 平和を実現したかったが、何の権限もないので実現できなかった。

 という言い訳が、劇場版で崩壊した。

 種死ラストでは、ラクスがプラント最高評議会議長に就任しているからだ。


 平和を実現する為、次々と実効的な政策を打ち出した。

 という事実は一切なく、僅か1年の任期で退任。

※一応一部資料では、議長職自体が任期1年の持ち回り、とも説明されている


 戦争の事後処理と、デュランダル派議員の排除以外に。

 任期中にやったと、確認できる事はただ1つ。

 ザフトへの軍階級導入ぐらいだ。


 もしも本当に平和を実現したかったが、その能力がなかったというのなら。

 政治参謀を傍に置けばよかっただけだ。

 そういった存在が一切いない以上、自ら外部の声は排斥した事になる。


 何より最高評議会議長とは、12の議員の中から互いの投票で選任される。

 そして議員とはコンピュータによる、厳しい事前審査を経た上で。

 候補者の中から市民投票を経て選任された、現役市長が務めるものだ。


 まさか歌の才能で、議員に選ばれた訳でない以上。

 制度的手続きを経ず、就任した事になる。

 一般的にその様な手法は、テロによる軍事クーデターと定義される。


 ちなみに公式では、混乱を修める為、強く請われて就任した、と説明される。

 そもそも誰のせいで混乱したんだ。




●ラクス:コンパスの不透明性

 コンパスは世界平和監視機構を名乗る、劇場版の組織で。

 ラクスはこの総裁に収まるが、色々と不透明な組織だ。


 その中核戦力が、種から続くラクスの私兵そのもので。

 特に一機動部隊隊長、という立場にも関わらず。

 キラが准将という高級将校の任に就く、異例の人事となっている。


 普通の将校は、前線で引き金を引く兵士ではなく。

 後方で戦略を練り上げる、より上位の存在だ。


 種死ラストで議長に就任して。

 これからは平和が実現する、みたいな雰囲気を醸し出しておいて。

 やってる事は種と種死の、非正規戦力時代と変わらない。

 その時と変わった事は、公的な立場を得た事ぐらいだ。


 因みにコンパスは劇中で、その活動を凍結される事となったが。

 それを無視して軍資産を持ち出して、非正規戦力化して武力行使している。

 本質的には本当に、何も変わってない。


 これを現実世界で例えると。

 問題行動を起こしたPKO部隊が、国連から凍結命令・謹慎処分を受けていたのに。

 基地から空母と戦闘機を盗み出して、他国に戦争を仕掛けた事になる。

 史上空前の大スキャンダル、と言っていい。


 そもそも現実のPKO部隊は、利害関係にない国同士で慎重に協議し。

 投入する相手国に了解を得た上で、交戦国と関係ない国で構成した上で。

 防衛に徹して自ら攻撃しない、と中立性を徹底的に担保する。


 しかしコンパスは形式こそ、連合・プラント・オーブの各トップからの要請で派兵するが。

 その三国の政治中枢が全て、親ラクス派で構成されていて、中核戦力はほぼオーブ出資。

 中立性の担保なんて皆無と言っていい。




●ラクス:政治責任の欠如

 武器を捨て、争いをやめましょう。

 ラクスが繰り返す主張だ。


 そうすれば平和が訪れる、と言わんばかりだが。

 もし全員の武装放棄が成立した場合、再武装した奴が1番得する。

 何せ他は武装放棄している以上、圧倒的有利となるのは自明。


 平和というのは、ただ何もしなければ実現する訳ではない。

 一時的なものではなく、持続可能な仕組みを作らなければならないが。

 そもそもやってる事が、平和主義とはかけ離れている。


 種も種死も個人の判断で、非正規戦力を率いる第三勢力として戦場に介入。

 連合・プラントに、多大な被害を与え、両勢力は停戦した。

 そして数年後となる各続編では、再びの戦争が勃発する。


 何せ生存権を懸けた戦争である為、止まる訳がない。

 休んでいただけで、力が蓄えられれば、また戦うに決まっている。

 根本的原因を取り除いてない、対症療法に過ぎない以上それは当然だ。


 何より劇場版で、超国家・超法規的組織の、コンパスを設立しておいて。

 場当たり的な戦場介入しかしていないのは、アコードより無責任という他ない。


 確かにアコードは強権的に、各国政府を解体しようとしたが。

 少なくとも政治主体となって、支配下の国を統治する気があった。


 それに比べてコンパスは、世界の貧困、飢餓、経済格差を解消する訳でもない。

 やる事は自らの判断で、悪と断じた存在を、暴力で圧倒するだけ。

 君臨すれど統治せずを、最悪の形で体現している存在だ。


 そもそも政治責任さえ果たすなら、究極的にはどの勢力でもよかったのだ。

 実際に統治して歪みがあれば、いつか表面化して結局は破綻する。

 そうして修正を繰り返し、やがて行き着くところに行きつく事で、自浄作用が働く。


 しかしコンパスが一極化を阻止する為、自浄作用も働かない。

 まるでマッドマックスの様に、暴力が支配する最悪の世界を作り上げただけだ。


「必要だから愛するのではない、愛しているから必要なのだ」


 ラクスがアコード幹部を諭した時の言葉だが。

 アコードが、全世界への超福祉を実現する覚悟がある、という裏返しなのに対し。

 ラクスのそれは権力の私物化に対する開き直り、という裏返しとなっている。


 またアコードがラクスの私心を優先する姿勢を、全く理解できていない事から。

 権力欲等の私心ではなく、本当に世界統治そのものが目的なのも浮き彫りとなる。

 ひいてはデュランダルのデスティニープランは、制度を隠れ蓑にした自身の権力掌握だ。

 という主旨で放映当時に批判されていたが、その疑念が打ち砕かれた事にもなる。




●ラクス:稀代の烈女の成り上がり

 頭お花畑の2人が、行き当たりばったりで、世界を滅茶苦茶にした様に見える。

 普通あらゆる人間は、結果を予想して行動するが、これらに悪意がなかったのなら。

 想像力が全く欠如しているか、完全に思考放棄しているか、でしかない。


 しかし劇場版まで見て、漸く理解できた。


 ラクスは最初から故意犯だった、と。


 独裁体制の設立・存続こそが目的、と考えれば。

 彼女の行動は途端に整合的になる。


 彼女に平和実現の具体案がないのは当然だ。

 平和の実現なんて、端からつもりがない。

 ただの大義名分として、掲げただけだったのだから。


 逆に平和になったりして、世界が安定しては困るのだ。

 自身による体制転覆も君臨も、必要なくなるのだから。

 平和を実現する為の、参謀等ももちろん不要。


 戦略兵器を破壊するのも同様だ。

 相互確証破壊で均衡を齎されては、介入する口実がなくなる。

 むしろ優れた戦力を接収する為にも、プラントには弱体化してもらわないと困る。

 軍階級を導入するのも、ザフト軍への命令系統を一本化する為、と見る事ができる。


 ちなみに、この解釈を補足できる点もいくつかある。


 1つは、国家という体制への不信。


 種で議会立ち上げメンバーだった、父を当時の議長に謀殺されている。

 この事が国家に対して、アレルギー的不信感を生じさせている、と思う事もできる。


 1つは、暗殺疑惑。


 本当に暗殺が議長主導のものだと確信していて、平和を望んでいたのなら。

 ただ世界中にそれを発信していれば、それだけで議長の戦略の殆どを破綻させられた。

 だが実際の糾弾内容は、偽ラクスへのカウンターと、プランへの反対に留まる。


 こんな強力なファクトを持っていて、使わなかった理由は何か。

 自分でも確信していなかったか、或いは確信していても。

 軍事クーデター達成の為、政治的失脚という決着を望んでいなかったのだろう。


 1つは、出生。


 コーディネイターという、論理的思考能力を高めた(はずの)存在である以上。

 一連のムーブが無自覚、というのは絶対ありえない。


 むしろコーディネイターの上位存在として、最初から調整されていたと判明する。

 支配の仕方が意図通りかは知らないが、その役目通りに動いた事になる。




 一見では、戦争という極限状態に翻弄され悩む、等身大の少年を中心とする群像劇。

 というガンダムシリーズの、文脈に沿っている様に見えて。

 実際は、セカイ系ハードSFピカレスクロマンという、非常に稀なジャンルといえる。


 劇場版のタイトルはFREEDOMだが。

 無法という意味を込めた皮肉かもしれない。


 ちなみに筆者は、頭お花畑のアーパークソ女と思っていたので、ラクスが相当嫌いだった。

 しかし劇場版公開後、世界平和監視機構コンパスという組織が、どこからどう見ても。

 超法規・超国家的独裁機構だったので、ラクス故意犯仮説を立てて一気見した次第だ。


 仮説の論拠はここまでの通りだが、副次的に。

 頭お花畑どころか、むしろエゴイスティックで人間的だと思い直して。

 大嫌いだったラクスの事が、かなり好きになれた。


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