第7話 惣一、呼び出されて全部自分のせいだと気づく
惣一は、城に呼ばれていた。
(やだなあ……城)
百姓の身で城に呼ばれる時、ろくな理由はない。
怒られるか、面倒事か、最悪首が飛ぶ。
「惣一殿、こちらへ」
「“殿”って言うのやめてもらえません?」
案内役は無言だった。
(やっぱり怒られる)
座敷には、土岐頼芸がいた。
縁側で、鷹を描いている。
(噂の元凶)
「惣一か」
「は、はい!」
惣一は正座した。
無駄に姿勢がいい。
「最近、忙しいようだな」
「え、いえ、その……」
頼芸は、惣一を見ずに言った。
「村が静かだ」
「はあ」
「米が取れている」
「はあ」
「水が溢れぬ」
「……あ」
惣一の背中に、冷たいものが走った。
「それは、お前の仕業か」
「……」
(仕業って言い方)
「えっと……ちょっと、溝を直したり」
「ちょっと?」
「畦を固めたり」
「ちょっと?」
「年貢を計算し直したり」
「……」
頼芸の筆が止まった。
「左近」
「はっ」
「惣一は、“ちょっと”で国を動かせるらしい」
「殿、それを皆が怖がっています」
「え?」
惣一は声を裏返した。
「え、怖がられてるんですか?」
「うむ」
頼芸は穏やかに言う。
「皆、“わしが裏で操っている”と思っておる」
「……え」
「ついでに」
左近が補足する。
「惣一殿は、“謎の童”です」
「いや普通の百姓です!」
「水を操る、と」
「操ってません!」
「計算で米を増やす、と」
「増やしてません! 減らしてないだけです!」
惣一は、頭を抱えた。
(やばい……)
(全部、僕のせいだ……)
「殿……」
惣一は恐る恐る顔を上げた。
「怒ってます?」
「なぜ怒る」
「いや、その……勝手に……」
「勝手に村が良くなっただけだ」
頼芸は、あっさり言った。
「それは良いことだろう」
(殿、価値観が現代)
「だが」
珍しく、頼芸が惣一を見た。
「困っている」
「……何にです?」
「皆が勝手に騒ぐ」
「ですよね……」
惣一は、深く息を吸った。
「殿」
「うむ」
「しばらく、何もしない方がいいです」
「それは、今もだ」
「いえ、僕もです」
「……ほう」
「水も、畦も、目立たない程度に」
「なぜ」
「戦国だからです」
惣一は真顔だった。
「“良くなりすぎる”と、殿が疑われます」
「不思議だな」
「本当にそうですね」
しばらく、沈黙。
「惣一」
「はい」
「では、どうする」
惣一は、少し考えて言った。
「悪くしない、くらいで行きましょう」
「……控えめだな」
「百姓なので」
頼芸は、満足そうに頷いた。
「分かった」
そして、こう付け加えた。
「では今後も、“ほどほどに頼む”」
(それが一番難しい)
城を出た惣一は、空を見上げた。
(戦国って……怖い)
だが。
村の水路を見て、ため息をつく。
(直したくなるんだよなあ……)
鷺山城は、今日も何もしていない。
だが――
“何もしない”ための努力だけは、確実に増えていた。
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