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目覚めの刻、名を惣一という  作者: れんれん


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第4話 殿、鷹を描く。話は進まない

鷺山城は――低かった。

(ほんとに丘だな……)

 惣一は城門をくぐった瞬間、率直すぎる感想を飲み込んだ。

 城というより、少し立派な屋敷が高い所にある、それだけだ。

「連れて参りました」

 長井左近が声を張る。

「うむ、入れ」

 奥から返ってきた声は、思ったより軽かった。

 通された座敷は広くもなく、狭くもない。

 そして――

「……鷹?」

 床几の前に座る男は、真剣な顔で紙に向かい、ひたすら鷹を描いていた。

「殿、惣一にございます」

「うむ」

 返事はあるが、筆は止まらない。

「……殿?」

「少し待て」

 さらさら、さらさら。

(え、今?)

 十分ほど経って、ようやく男――土岐頼芸は顔を上げた。

「どうだ」

「……何がでしょう」

「この羽」

 惣一は反射的に答えた。

「左右で大きさ違いますね」

 左近が息を呑んだ。

(言った)

 頼芸は、じっと絵を見てから言った。

「やはりか」

(怒られない!?)

「どうも最近、鷹が歪む」

「体調とか……?」

「いや、気分だ」

(理由がふわふわだ)

「で」

 頼芸は筆を置いた。

「お前が、村の“水を言うこと聞かせた”惣一か」

「言うことは聞かせてません」

「では、どうした」

「……たまたまです」

「またそれか」

 頼芸は楽しそうに笑った。

「左近から聞いた。妖かもしれぬと」

「違います!」

「分かっておる」

(分かってたんだ)

「ただな」

 頼芸は、胡坐を組み直す。

「わしは難しい話が苦手だ」

(正直だ)

「ゆえに、簡単に言え」

「……はい」

「村は、どうなる」

 惣一は少し考えた。

「水の流れを整えれば、米は増えます」

「増えると」

「年貢が楽になります」

「城も?」

「……楽になります」

 頼芸は満足そうに頷いた。

「よい」

(え、納得した)

「で、殿」

 左近が口を挟む。

「この者、城に置くべきかと」

「城?」

 頼芸は惣一を見て、首を傾げた。

「ここ、退屈だぞ?」

「知ってます」

 惣一は即答した。

「知ってるのか」

「低いですし」

 左近が咳払いをした。

「殿」

「よいよい」

 頼芸は笑った。

「皆そう言う」

(言われ慣れてる)

「惣一」

 頼芸は急に真面目な顔になる。

「わしはな、立派な城も、大きな戦も、あまり興味がない」

「はあ」

「だが、米が足りぬのは困る」

(そこは現実的)

「だから」

 頼芸は、さらっと言った。

「お前、しばらく村を見て回れ」

「……はい?」

「城には来なくてよい」

「え?」

「面倒だろう?」

「……はい」

「わしもだ」

(殿と価値観が一致した)

「左近」

「はっ」

「惣一には、余計な役目を与えるな」

「しかし殿、それでは――」

「よい」

 頼芸は、また筆を取った。

「水が流れ、米が実り、村が静かなら」

 さらさら。

「それでよい」

 惣一は、深く頭を下げた。

(この人……ダメだけど、嫌いじゃない)

 退出する直前、頼芸がぽつりと言った。

「なあ惣一」

「はい」

「城が低いのはな」

 少し間があって。

「……わしのせいではない」

「知ってます」

 惣一は、そう答えた。

 鷺山城の空は、今日もやけに近かった

後書きという名のお願い 下の★マークのタップと感想とブックマーク のお願いです。 新たな小説の第4話 今後の勇気をもらえますか?

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