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目覚めの刻、名を惣一という  作者: れんれん


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第3話 地侍、理解しようとしてやめる

「……ここか」

 村の入り口に、いかにも“侍です”という男が立っていた。

 小柄な馬、質素だが武家と分かる装束。腰の刀は抜き身こそ古びているが、手入れは行き届いている。

「地侍様だ……」

 村人たちが、ひそひそと声を落とす。

「誰が惣一だ」

 低く、しかし妙に素直な声だった。

「……ぼ、僕です」

 惣一は一歩前に出た瞬間、後悔した。

(前に出る必要、あったか?)

「お前か」

 地侍――名を長井左近という――は、惣一を上から下まで眺めた。

「聞いたぞ。田と水を操る神童がいるとな」

「操ってません」

「では、どうした」

「……たまたまです」

「ほう」

 左近は顎に手を当てる。

「“たまたま”で、三つの田が息を吹き返すか?」

「……理屈的には」

「理屈」

 左近の目が、すっと細くなる。

「学問か?」

「え?」

「寺で学んだか?」

「いえ、寺では……」

(学校です、って言っても通じない)

「では誰に教わった」

「……水、ですかね」

「水?」

「水の動きを見れば……」

 左近は一拍置いてから、ぽつりと言った。

「……妖か?」

「違います!」

 惣一は全力で否定した。

「妖じゃありません! ちゃんと人間です!」

「ちゃんと、とは何だ」

(しまった)

「いや、その……」

 村人たちがざわつく。

「妖って言われたぞ」

「でも昼も影あったし……」

「人だよな?」

「たぶん」

 惣一の胃が、きゅっと縮む。

「では聞こう」

 左近は、枝で地面に線を引いた。

「この溝を、なぜ掘り下げた」

「水は高い所から低い所へ流れますよね?」

「……当たり前だ」

「でも、ここは高低差が足りない。だから詰まるんです」

「……ふむ」

「で、こっちに逃げ道を作ると――」

「水が溜まらぬ、と」

「はい」

 左近は黙り込んだ。

 数秒後。

「……つまり」

 惣一、身構える。

「お前は、“水の気持ちが分かる”と?」

「分かりません!」

 即答だった。

「ただの物理です!」

「ぶつり?」

「……ええと」

(まずい、言葉がない)

「要するに、“そうなるからそうした”だけです」

「……なるほど」

 左近は、深く頷いた。

「分からん」

(ですよね)

「だが、結果は出ている」

 左近は村を見渡す。

「年貢が増えれば、城は喜ぶ」

(それが一番まずい)

「城……ですか」

「鷺山城だ」

 惣一は、反射的に言ってしまった。

「……低いですよね」

 空気が止まった。

「何がだ」

「いえ、その……城が」

 左近の目が、ゆっくり細くなる。

「――ほう」

(やった、地雷踏んだ)

「面白いことを言う小童だ」

 左近は、なぜか口元を歪めた。

「殿も、そう言われる」

「え」

「“鷺山は低い”“何かを成すには小さい”とな」

(あ、知ってたんだ)

「惣一」

 左近は、妙に優しい声で言った。

「一度、城へ来い」

「え、今ですか?」

「逃げるな」

「逃げません!」

 即答だった。

(でも、絶対面倒なやつだ)

 村人たちは、半分同情、半分期待の目で惣一を見る。

「出世だな」

「いや、厄介事だろ」

 惣一は、心の中で叫んだ。

(目立たない人生、どこ行った)

 その頃、鷺山城では――

「最近、妙な噂が多いな」

 鷹の絵を前に、土岐頼芸が、ぼんやりと呟いていた。

後書きという名のお願い 下の★マークのタップと感想とブックマーク のお願いです。 新たな小説の第3話 今後の勇気をもらえますか?

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