第12話:惣一、否定しようとして逆に評価が上がる
惣一は決意していた。
(今日は言う。ちゃんと言う)
(俺は何も考えてないし、何もしてないって)
そう思いながら、鷺山城の奥へと呼び出される。
そこには――
土岐頼芸。
そして、家老一同。
全員、なぜか期待に満ちた顔をしている。
「惣一」
「は、はい」
「最近の件だがな」
頼芸はゆっくりと頷いた。
「城内の動き、実に静かで良い」
「……」
惣一、ここで踏み込む。
「殿、あのですね」
「うむ?」
「自分、ほんとに“何もしてない”んです」
空気が止まる。
家老たちが、互いに視線を交わす。
「……ほう」
「“していない”と申されましたな」
嫌な予感がした。
「いや、文字通りです。考えてもないし、采配も振ってませんし」
「ふむ……」
家老の一人が、深く頷いた。
「つまり」
「?」
「意図すら表に出さぬ、完全なる無為」
「……は?」
「思考を悟らせぬため、あえて何も考えぬ境地」
「そんな境地ある!?」
思わず声が出た。
しかし誰も気にしていない。
「殿、これは恐ろしいお方ですぞ」
「敵から見れば、最も読みづらい」
「何を考えているか分からぬ者ほど、怖いものはない」
惣一、必死に首を振る。
「いやいやいや!違います!単に分からないだけで!」
「分からぬことを自覚しておる……」
頼芸がぽつりと呟く。
「それは、己の限界を知っているということ」
「……」
「儂など、分かったふりばかりしておるというのに」
惣一、言葉を失う。
(殿まで落ち込まないで!?)
家老が続ける。
「惣一殿は、自身の無知を認め、軽々しく動かぬ」
「結果、周囲が勝手に考え、動く」
「これはもう、“場を整える者”ですな」
惣一は頭を抱えたくなった。
「自分、ほんとにサボってただけで……」
「サボりと無為は違います」
「逃げと静観も違います」
きっぱり断言される。
頼芸は満足そうに笑った。
「よい」
「今後も、その調子で“何もするな”」
「はい!?」
「そなたは“動かぬ柱”だ」
「城の真ん中で、どっしりしておれ」
(役職が増えた!?)
その夜。
惣一は縁側で、夜風に当たりながら呟いた。
「……否定って、どうすれば伝わるんだろうな」
遠くから、地侍の声が聞こえる。
「惣一殿は、己を誇らぬお方だ」
「だからこそ信用できる!」
惣一は、静かに目を閉じた。
(もう……黙ってた方が楽かもしれない)
こうして惣一は、
「何もしていないのに、何もしていないことすら評価される男」
として、完全に城内に定着してしまったのだった。




