第11話:地侍や家老、惣一の能力を誤解して面白がる
鷺山城では、奇妙な噂が静かに、しかし確実に広がっていた。
「惣一殿は……あえて何もしておらぬらしい」
「ほう、“あえて”か」
家老の一人が顎を撫でる。
「手を出さぬことで、周囲の力量を測っているのだとか」
「なるほど……深い」
その頃、惣一本人は縁側で湯飲みを傾けていた。
「今日も平和だなあ……」
――その平和は、本人だけのものだった。
城下では、地侍たちが勝手に会議を始めていた。
「惣一殿が口出しせぬ……つまり、我らに任せているのだ」
「試されている……!」
「ここで無様な働きをすれば、次はないぞ」
全員、勝手に背筋を伸ばす。
一方その噂は、家老衆の耳にも入る。
「惣一殿、最近ほとんど動いておらぬそうですな」
「ふむ……それは“全体を俯瞰する者”の動きよ」
「動かぬことで、人を動かす……」
「まるで高僧の境地」
惣一、いつの間にか僧扱いである。
その日の夕刻。
惣一は呼び出され、家老たちの前に座らされていた。
「惣一殿」
「はい?」
「最近の“静”の采配、見事でございました」
「……え?」
「皆、自ら考え、動くようになった」
「城下の空気が、引き締まっております」
惣一は内心で叫んだ。
(なにもしてないだけなんだけど!?)
しかし、誰もその可能性を疑わない。
「やはり殿のお目は確かでしたな」
「“何もしない”とは、最も難しい策……」
惣一は、曖昧に笑うしかなかった。
「は、はは……そうですね……」
その夜。
惣一は布団の中で天井を見つめる。
(……これ、否定した方がいいやつだよな)
(でも、今さら言ったらもっと面倒になる気がする)
城の外では、地侍たちが妙にやる気に満ちていた。
「惣一殿に恥じぬ働きを!」
「試練は始まっている!」
惣一だけが知らないまま、
「何もしない策」は“高度な統治術”として独り歩きしていくのだった。




