第10話:惣一、「何もしない」を実行して怒られる
惣一は、土岐頼芸との約束を守るため、今日も「何もしない」スタイルを貫いていた。
畑の見回りも、水路の補修も、計算書の整理も――一切やらない。
ただひたすら、木陰で昼寝をしたり、庭の小石を指で転がしたりするだけだ。
「惣一殿! 報告書はどうなったのですか!」
慌てた家臣が駆け込む。
「えーと……今日は“何もしない日”なんです」
「なに……!? 殿が何もせぬと、城下の動きが止まるではないか!」
さらに、門番まで走ってきた。
「殿! 米の計算も、年貢の取りまとめも、未確認です! 村人から苦情が!」
惣一は小石を転がしながら笑う。
「うーん、でもまあ、今日は石ころ回しを優先するかな」
家臣たちは頭を抱えた。
「……これは、いよいよ手に負えぬぞ」
結局、業を煮やした地侍の一人が惣一のもとへやってきた。
「百姓、お願いだ……城のことを少しでいいから動かしてくれ……」
「いや、だって約束だし……」
「約束? 殿との? そんなもの、今はどうでもいい!」
惣一はため息をつく。
(……なんか、俺が全部の責任を背負わされてる気がする)
こうして惣一は、重い腰を上げ、再び鷺山城の座敷へ向かった。
殿――土岐頼芸の元に行き、話を聞くために。
「惣一、どうした」
頼芸は、相変わらず鷹を描いている。
筆の音だけが、静かに響く。
「殿、周囲が勝手に困っておりまして……」
「ほう。……それは困ったな」
頼芸は、あっさりそう言った。
(……あ、やっぱり理解してないな)
惣一は、深く息を吸った。
今日もまた、「何もしない努力」が、思わぬ騒動を呼ぶのだった。
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