第二十一章 モノづくりの本質
「異世界から……来た、だと」
正義は、総技師長を睨みつけた。
「そうだ。私は、お前より百年ほど前に、この世界に転生した」
総技師長——いや、「先輩転生者」は、静かに語り始めた。
「かつて私も、お前と同じことを考えた。『技術で世界を救おう』と」
「……」
「だが、人間は愚かだった。私が与えた技術を、彼らは戦争に使った」
総技師長の目に、深い悲しみが浮かんだ。
「何千人もの命が、私の技術で奪われた。私は絶望した」
「それで、帝国に——」
「そうだ。私は決めたのだ。『技術は、愚かな人間には渡さない』と」
総技師長は、魔力炉を見上げた。
「この魔力炉も、魔導兵器も、私が設計した。そして、その技術は帝国だけが持つ」
「技術を独占して、世界を支配しようとしているのか」
「支配ではない。『管理』だ」
総技師長の声が、冷たくなった。
「愚かな人間に、技術を与えてはならない。技術は、それを正しく使える者だけが持つべきだ」
「それは——」
正義は、拳を握った。
「傲慢だ」
「傲慢?」
「ああ。『人間は愚かだ』と決めつけて、自分だけが正しいと思い込んでいる」
正義は、総技師長を真っ直ぐに見た。
「俺も、人間の愚かさは知っている。前の世界で、嫌というほど見てきた」
「ならば——」
「でも、俺は信じている」
正義の目に、強い光が宿った。
「技術は、人を幸せにするためにある。戦争に使われることもある。でも——」
エルザを、グレンを、ガンドルフを、リリアナを思い浮かべた。
「それでも、技術を共有すれば、世界は良くなる」
「甘い。甘すぎる」
「甘くない。俺は、見てきたんだ」
正義は、一歩前に出た。
「俺が教えた技術で、人々が笑顔になるのを。俺が作った仕組みで、若者が成長するのを」
「それは——」
「技術は、道具だ。使う人間によって、良くも悪くもなる」
正義は、静かに言った。
「だから、俺は——『良く使える人間』を、育てたい」
総技師長は、しばらく無言だった。
そして——
「……お前は、私とは違うのか」
「わからない。俺も、間違えるかもしれない」
正義は、正直に答えた。
「でも、一つだけ確かなことがある」
「何だ」
「俺は、一人で全てを決めない。仲間と一緒に、考え続ける」
総技師長の目が、わずかに揺れた。
「……仲間、か」
「ああ。俺を信じてくれる人たちがいる。俺は、その信頼に応えたい」
長い沈黙があった。
そして——
「……私は、間違っていたのかもしれない」
総技師長が、呟いた。
「百年間、一人で抱え込んできた。『自分だけが正しい』と思い込んで」
「今からでも、遅くない」
正義は、手を差し出した。
「一緒に、やり直しませんか」
総技師長は、その手を見つめた。
そして——
「……いや、私には、もう時間がない」
「どういうことですか」
「私の命は、この魔力炉と繋がっている。これを止めれば、私も——」
「そんな——」
「いいのだ」
総技師長は、微笑んだ。
「私は、百年間、孤独だった。でも、今——」
正義を見た。
「お前に会えて、良かった」
総技師長は、操作盤に手を置いた。
「この魔力炉を、止める。そうすれば、帝国の魔導兵器は——」
「待ってくれ!」
「さらばだ、後輩よ。お前の道が、正しいことを——祈っている」
光が、溢れた。




