第十八章 同盟軍の結成
訓練学校が軌道に乗った頃、予想外の動きがあった。
「隣国から、使者が来ています」
リリアナが、正義のもとに駆け込んできた。
「隣国?」
「ええ。グランディア公国の特使が——」
グランディア公国。カルダニアの北に位置する小国だ。帝国の圧力に苦しんでいるのは、カルダニアと同じだった。
使者との面会は、ドワーフの里で行われた。
「お初にお目にかかります。グランディア公国外務官、ハインリッヒ・フォン・シュタインと申します」
背の高い、厳格な顔つきの男だった。
「……桐生正義です」
「噂は聞いております。カルダニアで、帝国の魔導兵器を撃退した技術者と」
「偵察部隊を追い返しただけです。大したことではありません」
「ご謙遜を」
ハインリッヒは、真剣な目で正義を見た。
「我が国は、貴国と同盟を結びたいと考えています」
「同盟……」
「ええ。帝国に対抗するための、軍事同盟です」
正義は、リリアナを見た。彼女が頷く。
「お話は、リリアナ王女とお願いします。私は、ただの技術者ですから」
「そうはいきません」
ハインリッヒは、首を振った。
「この同盟の核心は、『技術』です。貴殿の持つ魔導兵器の製造技術を、我が国にも提供していただきたい」
「……」
正義は、沈黙した。
技術の提供。それは、カルダニアの優位性を失うことを意味する。
だが——
「条件があります」
正義は、言った。
「何でしょうか」
「グランディア公国も、製造に参加すること」
「当然です」
「そして——製造だけでなく、『人材育成』にも協力すること」
ハインリッヒの目が、わずかに見開かれた。
「人材育成、ですか」
「ええ。技術は、機械だけでは成り立たない。それを作り、動かし、維持する『人』が必要です」
正義は、真剣な目で言った。
「我々は、技術を独占するつもりはありません。むしろ、広めたい。帝国に対抗できる国が、一つでも多く増えれば——世界は変わる」
ハインリッヒは、しばらく正義を見つめていた。
そして——
「……素晴らしいお考えです」
頭を下げた。
「我が国は、喜んで参加いたします」
グランディア公国との同盟は、他の国々にも波紋を広げた。
「ヴェルディア王国からも、使者が来ました」
「フレイア連合王国も、参加を希望しています」
「東方のサマルカンド首長国までもが——」
次々と、反帝国の国々が手を挙げた。
「……こんなに集まるとは」
正義は、驚きを隠せなかった。
「みんな、帝国の圧政に苦しんでいたのです」
リリアナが、静かに言った。
「でも、対抗する手段がなかった。あなたの技術が——希望を与えたのです」
「俺の技術じゃない」
正義は、首を振った。
「俺は、前の世界から持ってきた知識を、この世界に適用しただけだ。本当にすごいのは——」
仲間たちを見回した。
「それを受け入れ、発展させてくれた、みんなだ」
エルザ、グレン、ガンドルフ、リリアナ。そして、訓練生たち。ドワーフの職人たち。
「俺一人では、何もできなかった」
「マサヨシさん……」
「だから——」
正義は、立ち上がった。
「この同盟も、俺一人のものじゃない。みんなで作り上げていこう」
「反帝国連合」が正式に発足した。
参加国は、最終的に八か国。それぞれが、人材と資源を持ち寄った。
正義は、「連合技術委員会」の委員長に就任した。
「まず、技術の標準化から始めます」
最初の会議で、正義は提案した。
「各国で製造する部品が、互いに互換性を持つようにする。そうすれば——」
「整備や修理が、どの国でもできるようになる」
ガンドルフが、補足した。
「戦場で部品が壊れても、同盟国から調達できれば、すぐに復帰できる」
「その通りです。『サプライチェーン』の構築です」
各国の技術者たちが、熱心にメモを取った。
「さらに——訓練カリキュラムも統一します。どの国の操縦者も、同じ基準で訓練を受ける」
「言語が違いますが……」
「マニュアルを翻訳します。図解を多用すれば、言葉の壁は低くなる」
正義は、情熱を込めて語った。
「俺たちが目指すのは、『帝国を倒すこと』だけじゃない。『帝国に依存しない世界』を作ることだ」
会議室に、静かな興奮が広がった。
「そのために——技術を共有し、人を育て、システムを作る。それが、本当の『革命』だ」




