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第88話【葉奏でる運命の調べ】

「ねぇ、一葉さん!どれから占ってみますか?私、全部気になっちゃいます!特に、恋占いとか……あ、でも夢占いも面白そう!」


そう尋ねると、一葉さんの視線があるページでぴたりと止まった。それは、『姓名判断』のページだった。


「…この『姓名判断』はどうですか?これで僕達二人の相性を占う事が出来るそうです。」


「二人の…相性、ですか?」


彼が指差す先を目で追うと、そこには『姓名判断:二人の相性』という私達にぴったりの見出しが記載されていた。


「せっかくのデートなのですから、僕達の相性を占ってみるというのも面白いと思いませんか?それに、この本の著者である祖母の占いがどれ程のものか、身を以って試す良い機会でもあります。もし本当に当たれば、今後にも役立つかもしれません。」


もしかして、私との関係がどうなるのか気にかけてくれているんだろうか?期待と少しの戸惑いが入り混じる。


「いいですね、私も気になります。じゃあ、占ってみましょう!」


私はすぐに同意した。姓名判断は名前の画数で占うらしく、本にはそれぞれの漢字の画数が丁寧に記載されていた。私は慌てて自分の名前の漢字を確認し、指で数え始める。


「えっと、『月光羽闇』だから…『月』が四画、『光』が六画……『羽』が六画、『闇』が十三画…かな?」


「僕は『一葉舞久蕗』ですから、『一』が一画で『葉』が十二画…『舞』が十五画、『久』が三画、『蕗』が十九画……これで合っている筈です。」


一葉さんもまた、静かに自分の名前の画数を確認している。お互いの名前の画数を教え合い、本に書かれている計算式に当て嵌めていく。

この占いの結果が、私達の相性をどう示すのか。私はごくりと唾を飲み込んだ。

ページの下部には、それぞれの画数を合計して算出された結果が簡潔な言葉で綴られていた。

私は指でなぞりながら、結果を読み上げる。


「えーっと…結果は……『吉』、ですね。」


続けて、その下に書かれた具体的な内容を一葉さんと二人で読み進めていく。


「『お互いを深く理解し合える関係。共に困難を乗り越え、幸せな未来を歩む事が出来ます。良い関係を維持する為には、常に感謝の気持ちを忘れずに。』…ですって。」


読み終えると、私は一葉さんの方を振り返った。


「ほう……『吉』とは、思っていたよりも良い相性みたいですねぇ。正直なところ、占いというものにそこまで強い信仰があるわけではないのですが…これは僕にとっても嬉しい結果です。」


彼は穏やかな表情で静かに頷いている。

私は結果にある『幸せな未来』という部分が、強く心に響いた。


「(この結果…私達が恋人になる未来を暗示しているものだったりするのかな。)』


一葉さんと幸せな未来を歩む…そんな想像がふわりと頭をよぎり、私の頬は更に熱くなるのを感じた。


「この『幸せな未来』って、一葉さんと私が恋人に…みたいな、そういう関係って意味なんですかね…?」


小さな声で尋ねると、一葉さんは私の視線に気づいたように、くすりと小さく笑った。その笑みは、知的な雰囲気に何処か親しみを加えていた。


「クスッ…どうでしょう。僕はてっきり君の心は今のところ華弦に向いていると思いましたが、もしかすると彼よりも深く理解し合える関係になれるかもしれませんね?何せ、『翠葉の詠み手』と謳われた祖母の占いは百発百中当たるといいますから。」


私は一葉さんの言葉を聞いて恥ずかしくなり、彼から視線を逸らしてしまった。


「でも、理解し合えるっていうのはそういう関係ばかりじゃないですよね…!?そりゃあ一葉さんの事はもっと知りたいって思ってますけど…!」


多分今、私の顔は真っ赤になっているに違いない。そんな私を見て、一葉さんは楽しそうに目を細めていた。


「…それにしても、『感謝の気持ちを忘れずに』ですか。これは肝に銘じておかなければなりませんね、君に感謝する機会はこれから沢山あるでしょうから。」


「そんな!私の方こそ、これからも一葉さんに感謝する事ばかりだと思います!」


「謙遜は美徳ですが、過ぎたるは猶及ばざるが如し…ですよ。僕もまた、君から学ぶ事が多々あります。特に、君の純粋な好奇心は僕にとっても良い刺激になっています。」


彼との会話は何処かユーモラスで、私の心を和ませてくれる。姓名判断の結果に満足したのか、一葉さんは再びページを捲った。


「さて、他にもやってみたい占いはありますか?せっかくですから、どんどん挑戦していきましょう。時間もまだありますしね。」


「じゃあ次は…夢占いがいいです!最近、面白い夢を見たんですよ!空を飛んでる夢とか、猫がいっぱい出てくる夢とか……」


私は身を乗り出すようにして答えると、一葉さんは私の言葉に耳を傾けながら丁寧に夢占いのページを探してくれた。夢に出てきたものや状況によって、その夢が何を意味するのかが詳細に書かれている。


「へぇー…こんな夢はこういう意味があるんですね!全然知らなかった!一葉さんは、最近どんな夢を見ましたか?」


夢占いの内容を読み込み、お互いに最近見た夢について語り合った。

一葉さんの夢の話は、彼の人柄が滲み出ていて聞いているだけでも楽しかった。


「今のところ、これといって悪い結果はありませんよね。どれもいい事兆しで嬉しいなっ♪」


私は少し夢見がちに呟くと、一葉さんは本のページから顔を上げて、まっすぐに私を見つめた。


「未来は書かれている通りに進むとは限りません。当たると評判といえど、あくまでこの本は可能性の道を示唆しているだけ。そしてその可能性を現実にするのは君自身の行動ですよ、羽闇嬢。」


一葉さんは占いの力を信じるだけでなく、私自身の力で未来を切り開く重要性を教えてくれている様だった。

その後も様々な占いに興じた。手相占いのページでは、お互いの手のひらを見せ合い、そこに刻まれた線が何を意味するのかを読み解いた。


「生命線が長いですね、羽闇嬢。健康で長生きする証でしょう、これは喜ばしい限りです。」


「いや…私、月姫の定めのせいで結婚して女の子を産まないと寿命が…。一葉さんは、感情線がとても豊かですね!『感受性が高く、優しい心の持ち主』って書いてありますよ!当たってるかもー!」


時間が経つにつれて、私達は占いの結果に一喜一憂し、時には笑い声を上げながら『葉奏でる運命の調べ』の世界に深く没頭していった。一葉さんとの距離は物理的にも心理的にも、本を読み進める毎に少しずつ縮まっている気がした。

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