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第39話【支度の時間】

「華弦、さっき言ってた()()っていうのはもしかして…」


私が問いかけると、華弦はパッと表情を明るくして答えた。


「そ、ダリアちゃんの事だよ♪ ダリアちゃんはね、この屋敷の中でも僕が一番信頼している凄腕のメイドさんなんだ。羽闇ちゃんの美しさを最大限に引き出してくれるから、安心して全て任せるといいよ。」


その言葉にダリアは嬉しそうに目を輝かせると、胸の前で両手を合わせた。


「えへへっ、藤鷹様ったら! 実は今朝、藤鷹様がわざわざ私のお部屋までいらっしゃったのですよ。そしたら『今日は羽闇ちゃんとデートなんだ。彼女にとっても凄く特別な日にしたいから、誰よりも美しくしてあげてほしい。』って、それはもうすっごく張り切っておられたのですよ〜!」


ダリアはそう言いながら私の背中を両手で優しく、けれど少しばかり興奮した様子でトントンと押した。そして満面の笑みで私の手を引き、部屋のドレッサーの前へと促した。


「ささ、羽闇お嬢様。此方へどうぞ! 本日はダリア、腕によりをかけてお嬢様を磨き上げちゃいますね!」


私がドレッサーの椅子に腰掛けると、ダリアはすぐにテキパキと準備を始めた。その手つきは慣れていて無駄がない。


「あの…藤鷹様、壱月様。」


ダリアは作業に取り掛かる前に、少し遠慮がちに二人に声を掛けた。


「これからお嬢様のお支度に入らせて頂きますのでお二人には申し訳御座いませんが、少しの間お部屋の外でお待ち頂いても宜しいでしょうか? 最高に美しいお嬢様をお見せしたいので!」


華弦は少し残念そうな表情を浮かべたが、すぐに満面の笑顔に戻って頷いた。


「成る程ね! それは楽しみだ。萱君、一緒に外で待ってようか。」


壱月は無表情のまま小さく頷き、二人は特に言葉を交わすことなく静かに部屋を出て行った。

部屋に二人きりになると、ダリアは一層楽しそうな表情で私の髪に触れた。器用な指先が私の髪を丁寧に梳き、編み込んでいく。


時折、「うーん…この角度から見ると、お嬢様の瞳の色が際立ちますね!」などと、可愛らしい声で独り言のように呟いている。

編み込みが終わると、ダリアはいくつものピンク色の薔薇の髪飾りを私の髪の間に散りばめていった。

ヘアアレンジが終わり、いよいよお化粧だ。ダリアは様々な色のパレットを広げ、ブラシを何本も使い分けながら丁寧に私の顔に色を重ねていく。普段の私よりも少しだけ濃いめの色使いだが、決して派手ではなく、私の持つ透明感を引き立てる様な上品な仕上がりだった。

そして全ての仕上げが終わった時、ダリアは満足そうに両手を叩き、キラキラとした瞳で私を見つめた。


「はい!完成です、お嬢様!」


鏡に映る自分は、ダリアの手際の良いお化粧と華やかなヘアアレンジのおかげでまるで別人と思える程に美しくなっていた。ローズピンクのロングドレスと髪に飾られた薔薇、そして丁寧に施されたメイクが私を一層華やかに見せている。


「お嬢様…まあ、何てお綺麗なのでしょう! まるで、おとぎ話から抜け出てきたお姫様の様ですわっ…!」


ダリアは頬を紅潮させ、目を潤わせながら心からの賛辞を送ってくれた。


「ありがとう、ダリア。本当に…私じゃないみたい。」


私は少し照れながら微笑み返した。ダリアの言葉と鏡に映る美しい自分に少しだけ自信が湧いてくるのを感じた。


「では、早速お二人をお呼び致しましょう!」


ダリアはそう言うと、元気いっぱいの声で扉に向かって声を掛けた。


「藤鷹様、壱月様。お支度出来ましたよー!」


扉がゆっくりと開き、まず華弦が、そして少し遅れて壱月が部屋に入ってきた。華弦は私の姿を一目見ると、息を呑んだように目を丸くした。そして、うっとりとした瞳でゆっくりと近づいてきて私の両手を優しく包み込む。


「…嗚呼、羽闇ちゃん。更に美しくなったよ!僕が選んだドレスとダリアちゃんのメイクが、羽闇ちゃんの美しさを一層引き立てているね!」


彼はそう言いながら、私の顔の隅々を愛おしむように見つめる。満足そうに頷くと隣に立つ壱月の方を向き、にこやかに言った。


「ね、萱君もそう思うでしょ? 羽闇ちゃんの美しさは、僕の想像を遥かに超えているよ♪」


壱月は静かに私の方へ視線を向けた。その瞳には、ほんの僅かな驚きと何か諦めの様な複雑な光が宿っている気がした。


「…はい。羽闇様、大変お美しいです。」


彼の声はいつもの様に冷静だったけれど、その奥には微かに寂しげな響きが混じっている。


「というわけで、萱君。今日は君に僕達をレストランまで送り届けて貰う事になるんだけど、お願い出来るかな?」


華弦はそう言って、にっこりと微笑んだ。その笑顔には何処か人を操る様な計算された魅力があった。


「勿論で御座います、藤鷹様。既にご覧の通り、羽闇様は完璧なご様子。いつでも出発出来るよう、お車のご用意も万全で御座います。」


壱月が静かに告げた。


「流石だね♪さぁ…行こうか、愛しい羽闇ちゃん。最高の夜にしようね!」


華弦は私の手をしっかりと握り、楽しそうな笑顔でウインクした。私は彼の眩しい笑顔に少し緊張しながらも小さく微笑み返す。

私は華弦に手を優しく引かれながら部屋を出ようとしたその時、背後から元気な声が響いた。


「羽闇お嬢様、藤鷹様、行ってらっしゃいませ! どうぞ、素敵な夜をお過ごし下さい!」


後ろを振り返ると、ダリアが満面の笑顔で丁寧に頭を下げていた。その晴れやかな表情からは、心からの祝福が伝わってくる。


「本当にありがとう、ダリア。行ってくるね。」


私は小さく声を掛けた。ダリアの笑顔は最後まで明るく、私たちを見送ってくれた。その温かい気持ちが私の背中をそっと押してくれている。

先に壱月が運転席に乗り込むのを確認すると、華弦は私をエスコートしながら後部座席のドアを開ける。私が腰を下ろすのを見守り、続いて彼も私の隣に座った。

車のエンジン音が静かに響き、私達はゆっくりと走り出す。窓の外の景色が夕焼けの色にじんわりと染まっていき、華弦の温かい手に包まれた私の心はこれから始まる特別な時間への期待とほんの少しのドキドキでいっぱいだった。ローズピンクのドレスの裾が、車のシートの上でふわりと揺れている。

これから始まるデートは一体どんな時間になるのだろう。この時はまだ、私達が予期せぬ事態に巻き込まれるとは想像もしていなかった。

第39話をお読み頂きありがとう御座います!

今回は羽闇のおめかし回でした!ダリアの凄腕メイクで、羽闇が大変身!華弦の反応や壱月の複雑な視線も印象的でした。

華弦と羽闇のデート、そして最後に示唆された『予期せぬ事態』…この先一体何が起こるのか?

次回もお楽しみに!

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