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第37話【危険な香りの贈り物】

待ちに待った華弦とのデート当日。

昨夜はなかなか寝付けず、何度も寝返りを打ってしまった。それでも、壱月に起こされるよりも早く目が覚めてしまう。

今日は、華弦と隣街の高級レストラン『フルール・ド・リュンヌ』でデートをする日。今日の為に色々と準備してくれた華弦を思いながら、私は自室のベッドに腰掛けていた。どんなデートになるのだろう?そして、華弦が用意してくれたというドレスは一体どんなものなのだろう?華やかだろうか、それとも清楚な雰囲気だろうか。想像するだけで胸が高鳴ってしまう。すると、コンコンと控えめなノック音が部屋に響いた。


「羽闇ちゃん、入るよ~。」


扉の向こうから、少しだけ音量を抑えている華弦の声が聞こえた。


「どうぞ。」


扉が開くと同時に、華弦が眩しい笑顔で現れた。

淡いピンク色のジャケットに白いスラックスを合わせた彼の正装姿はまるで貴公子の様だった。いつもよりずっと大人っぽく、息を呑む程美しい。纏う空気は甘く蕩けるような色気に満ちており、私は彼の魅力から目を離せなかった。


「わぁ、華弦…!その格好、凄く似合ってるね…!素敵!」


「ふふん、そうでしょ?君に見惚れて貰えるように特別に選んだんだ♪」


華弦はそう言いながら、満足げに微笑んだ。その表情は自身の完璧さに絶対的な自信を持つ者のごとく、揺るぎない確信に満ちていた。そして、手に持っていた大きな箱と小さな箱を私に差し出した。


「はい、これが羽闇ちゃんに着て欲しいドレスだよ。そしてね、これに合う素敵な靴も用意したんだけど…気に入ってくれると嬉しいな♪」


「わあ…!ありがとう、華弦!」


私は華弦から美しい装飾が施された二つの箱を受け取った。その精巧な作りに目を留め、中に入っているものがどんなに素晴らしいのか期待が高まる。


「じゃあ、羽闇ちゃんの着替えが終わるまで僕は外で待ってるから。終わったら声を掛けてね♪」


「うん、分かった。」


華弦はそう言うと、名残惜しそうに部屋を出て行った。華弦が出て行った後、一人になった部屋で私はまずは大きな箱を開け、ドレスを取り出した。


「…え?」


ドレスを広げた瞬間、私は言葉を失った。それは、想像を遥かに超える、大胆なデザインのロングドレスだった。

光沢のあるローズピンクの生地は、繊細なレースとスパンコールで飾られ、上品な輝きを放っていた。しかし、胸元は深いVネックにカットされており、胸の谷間が露わになる。背中も大きく開いており、背中のラインが見える。そして、スカート部分は裾に向かってふわりと広がるAライン。その裾には深いスリットが入っており、歩く度に太ももが覗くはずだ。

次に、小さな箱を開けてみる。中には、繊細な輝きを放つローズゴールドのハイヒールが大切に仕舞われていた。滑らかなメタリック素材はドレスのローズピンクの色味をより一層引き立てている。華奢なストラップには光を受ける度に煌めく小さなビジューがあしらわれ、足元に上品な華やかさを添えている。ヒールの高さは普段履き慣れない私には少し高く感じるが、その洗練されたシルエットはきっと私の足元を美しく飾ってくれるだろう。


「こ、これを私が着るの…!?無理だよ…!」


顔がみるみるうちに赤くなっていくのが分かった。こんなに露出の多いドレスを着て、華弦と二人きりで出掛けるなんて…!想像するだけで心臓が激しく脈打ち始めた。


「(でも、せっかく華弦が選んでくれたドレスなんだから…!)」


このドレスを着て、華弦の前に出るのは少し勇気がいるかもしれない。けれど、彼の喜ぶ顔を見たい。彼の真摯な気持ちに応えたい。私は覚悟を決め、ドレスを身に着けた。


「(…うー、やっぱりドキドキしちゃう…!)」


ようやく着替えが終わった。露出が多いのは分かっていたけれど、実際に着てみるとやっぱり恥ずかしい。でも、早く華弦を呼ばないと。一度深呼吸をして、手のひらで頬を軽く叩き、私は意を決して扉の向こうにいるであろう彼の名を呼んだ。


「華弦ー?着替え終わったよ。」


暫くするとゆっくりと扉が開かれ、華弦が顔を覗かせる。彼の瞳が私を捉えた途端、時が止まったかの様に動きがピタリと止まるのが分かった。そして華弦は目を丸くしたまま私の全身を凝視している。次の瞬間、彼の表情は一変し、ニヤリと隠しきれない喜びが滲み出た笑顔が彼の顔を彩った。


「…ふふっ♪流石は選ばれし月のお姫様!最高に美しいよ、羽闇ちゃん!まるで、人々の心の奥底に眠る夢幻や憧憬を静かに呼び覚ます満月の女神様みたいだ…!」


彼の口からは、そんな甘美な言葉が飛び出した。華弦はスキップでもしそうな勢いで部屋に入ってきて、ゆっくりと私に近づく。その視線は、私のドレスの細部をじっくりと舐め回す様に見つめている。


「いやぁ、まさかここまでとはねぇ。僕のチョイスはやっぱり間違いなかったみたいだね!」


華弦はそう言いながら、私の周りをくるりと一周して満足げに頷いた。見つめられるうちに私の頬はじわりと赤くなっていく。


「あ、ありがとう…。でも、あの…ちょっと、露出が多くないかなって…。」


私は恥ずかしさを紛らわせながらドレスの裾をぎゅっと握りしめる。すると、華弦は悪戯めいた笑みを浮かべ、私の肩を掴んで強引に引き寄せた。


「んー?そう?全然そんな事ないと思うけどなぁ♪むしろ、君の隠された魅力がこれでもかって位に引き出されているじゃないか。」


軽薄そうに聞こえるけれど、華弦の言葉のその奥には熱い喜びが感じられた。彼の屈託のない笑顔を見ていると、私の不安もだんだんと薄れていく。

するとその時、廊下から静かな足音が近づいてくるのが聞こえた。ノック音が部屋に響き、扉が開くとそこに現れたのは壱月だった。


「失礼致します、羽闇様。ご準備の方は宜しい、でしょう…か…。」


壱月はいつもと変わらない無表情だったが、私のドレス姿を一瞥した瞬間、明らかに動きが固まったと同時に言葉を失ったのが分かった。


「羽闇様…その、お召し物は…。」


壱月の声がいつもより僅かに低くなった。彼の視線は、私の開いた胸元や露わになっている背中に明らかに留まっている。


「えっと…華弦が用意してくれたんだ。」


私がそう答えると、壱月は一瞬だけ視線を逸らした。そして、すぐに私の方へ戻したが、その表情は何処か硬い。


「少々お待ち下さい、何か羽織るものをご用意致します。」


壱月はそう言うと私に背を向け、部屋を出ようとした。表面上はいつもの冷静さを保っていたけれどその動きには普段の完璧さとは異なる、何処かぎこちなさがあった。

その時、華弦の声が穏やかなトーンでありながらも有無を言わせぬ威圧感を込めて響いた。


「萱君。くれぐれも余計な真似はしないでって…言わなかったっけ?」

第37話お読み頂きありがとう御座います!

遂にデート当日!華弦が用意したドレスは羽闇もびっくりな大胆デザインでした。華弦はセクシー担当のキャラクターなので、ある意味予想通りの攻めなのかも?(笑)そこに壱月登場で、波乱の予感です。

次回もお楽しみに!

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