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月の婚約者〜私の運命の相手は誰?〜  作者: 紫桜みなと
5章

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105/106

第105話【冷たさの裏】

「このお屋敷…結構複雑よね…。何処をどう進めばいいのか全然分からないんだけど、鳳鞠君は大丈夫…?」


「……えーと。実はさ、俺も迷いかけてて…!舞久蕗の家なんて初めて来たから。この廊下も二回程通った気がするし……。」


「ええっ、鳳鞠君も迷ってたの!?嘘でしょ…!?どうしよう…私達、一葉さんのところまで辿り着けるのかな?」


「多分大丈夫!こうなったら勘でいこうぜ、勘で!俺の勘は意外に当たるんだよ!?諦めずに進めば、絶対に舞久蕗がいる場所まで行ける……と思う!」


「そ…そうね!うん、鳳鞠君を信じてみる!そうと決まれば早く裏口を探そう!」


「おーっ!じゃああの道はさっき通ったから、今度はこっちに進んでみよう!」


私達は部屋を出て、再び廊下の奥へと走り出した。


「いやー…それにしてもさ、夜空もだけどやっぱり華弦は優しいよな。羽闇。」


「へ?」


こんな緊迫した状況で、何故そういう話になるんだろう…?


「俺もあんなカッコいい男になりたいなー。いつもヘラヘラしてて何考えてるか分からない奴だけど、いざって時にああやって守ってくれるんだから凄いよな!俺にはああいうのは無理だもん。」


「…突然どうしたのよ?」


「…え?まさか羽闇、気付いてないの?マジで?」


「何に?」


「……ハァー。羽闇さ、よく鈍感って言われない?俺が言わなきゃ一生気付かないんじゃないの?華弦が可哀想。」


その言葉に思わずムッとなった。

私の記憶が正しければ鈍感だなんて言われた事はないし、言われる筋合いもない。


「失礼ね!だから何なのよ!勿体ぶらないではっきり言いなさいよね!?」


「シーッ!声が大きい!使用人の人に聞かれちゃったらどうするんだよ…!?ほら、向こうから足音が聞こえる!」


「ヤバ…!」


「羽闇!あそこに隠れるよ!」


引かれる手に導かれるまま、柱の影に身を潜める。

バタバタとした足音が遠ざかるのを、じっと息を潜めて待つ。気配が消え、誰もいないのを確かめると鳳鞠君は「ふー…」と短く息を吐いた。


「……よし、いなくなったみたいだな。」


「ご、ごめんなさい…大声出して。」


「いいよ。それより話を戻すけど、華弦が持っていた細剣…全然香りがしなかっただろ?アレ、おかしいと思わなかった?」


「え?あっ…」


言われてみれば確かにそうだ。外に出ようと必死で、そこまで気が回らなかった。

あの細剣は以前、艶と戦った時にも使われていたものであり、細剣が姿を現した瞬間から甘く神秘的な香りが辺りに漂っていたのを覚えている。

あれは《《細剣の本来の香り》》だと、華弦自身が教えてくれた。


「俺も何回か見せて貰った事があるんだけどさ…。本当なら石から細剣に姿を変えた瞬間から、細剣のいい香りが漂ってくるんだよ。細剣の周囲に自然に舞っている筈の花弁の刃も見られなかったし。」


「そうだよね…香りどころか、花弁の刃までも一枚も舞っていなかった……。どうしてなんだろう?もしかしてまだ身体が本調子じゃなかったのかな…?」


「いやいや…!あれから随分経ってるんだからそれはないだろ。…俺が思うに、華弦が香りや花弁を抑え込んでいたんだよ。」


「抑え込んでいた…?」


「俺達、羽闇をずっと心配してたって言わなかったっけ?口ではああ言ってても、やっぱり羽闇を傷つける事を躊躇してたんだよ…華弦は。だから力を抑え込んでいたんだと思う。アイツが本気で香りの攻撃を放ってたら、今の羽闇だとあっという間に香りの虜にされて戦う事すらままならないよ。花弁の刃も、触れただけで切り裂く程の鋭さがあるんだぞ?そんな危険なものを羽闇に向けるなんて、華弦がするわけないよ!」


だとしたら辻褄が合う。

華弦が本気なら、あの状況で私を止める事など造作もなかった筈だ。傷付けるのを躊躇っていたからこそ、私は月姫に変身する隙を与えられた。

彼の冷たい態度の裏にどれ程の優しさが隠されていたのかと思うと、瞳から熱いものが込み上げてくる。


「そっか…私、とんだ勘違いしてた。心配してくれていたとはいえ、てっきり華弦は一葉さんの気持ちを優先してると思ってたから…。」


「んーと…それも間違いではないよ?華弦と舞久蕗は、実の兄弟みたいに育ったらしいし強い絆で結ばれているからね…。最悪の場合は、あまり力を使わずに羽闇を止めるつもりだっただろうし。だからさ…華弦の事、嫌わないであげて?勿論夜空もね。夜空なんて羽闇が部屋を飛び出した時、泣きそうな顔してたんだぞー!」


「…嫌うわけないじゃない。華弦も夜空君も鳳鞠君も…一葉さんも……皆優しくて、大好きなんだから…!」


するとほんの少しだけれど、鳳鞠君が耳まで赤くなっていくのが見えた。


「…ハッ!のんびりしてる場合じゃなかった!誰もいないうちに――あれ?…此処、ちょっと見覚えがあるかも。確かこの道を真っ直ぐ進めば裏口が見えてくる筈だ!」


「え、本当に!?」


「よし!ここからは突っ走っていくから、俺について来てね!遅れないように!」


「分かった!」


屋敷の外へと続く道にはどんな困難が待ち受けているのだろう。だけど今は鳳鞠君と共に一葉さんの無事を信じて、前へ進むだけだった。

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