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月の婚約者〜私の運命の相手は誰?〜  作者: 紫桜みなと
5章

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第104話【揺れる炎、進む決意】

「……ほまりん、やってくれたね…!まさか炎の石を用いてまで…裏切るとはさ……!これは僕達に対する宣戦布告と、受け取っていいんだよね…?」


華弦は目の前でうつむく鳳鞠君を鋭い眼差しで見据えた。彼の表情にははっきりと怒りが浮かび上がっている。


「火燈君……どうして…。」


夜空君が掠れた声で問い掛けたが、その声は殆ど聞き取れない程だった。

鳳鞠君は小さく身を震わせ、床に目を落としたままだ。


「ごめん……本当にごめんね、華弦。夜空も…。俺、やっぱりどうしても羽闇を傷つけるのだけは嫌なんだ。」


普段の彼の快活さからは想像もつかない位弱々しい。その手には禍々しい輝きを放つ炎の形の石が乗っている。華苦しげな呼吸を繰り返しながら二人はどうにか立ち上がろうと試みるが、力が入らないのかすぐに倒れ込んでしまう。


「身体が動かせないように、少しだけ炎の力の熱を流し込んだんだ。二人には悪いけど……これで暫くは動けない筈だよ。」


「ハハッ…!成る程ね…君のそばにいると…妙に空気が熱かった理由は、それか…!…んで、このまま僕達を…殺しでもするのかな……?ほまりん…。」


「まさか。心配しなくて大丈夫、流し込んだ熱は大した量じゃないんだ。軽い熱中症程度の症状しか出ないし、三十分も経てばちゃんと治るよ…。」


鳳鞠君がこんな大胆な手段に出るなんて思わなかった。目の前で起きている事が、現実でなく夢なのではないかと感じてしまう。


「羽闇…。」


ゆっくりと顔を上げた鳳鞠君は真っ直ぐに私を見つめると、躊躇う事なく手を取った。


「……じゃあ、行こうか。」


「え…えっ?行くって……何処に?」


「舞久蕗を助けたいんだろ?羽闇と俺で助けに行くんだ。このまま見てるなんて無理って言ったのは羽闇じゃんか。」


「でも、華弦と夜空君が…!」


倒れている二人に視線を向けると、華弦が苦しげに顔を歪ませながら小さく呟いた。


「行くな…羽闇ちゃん……」


「羽闇ちゃん……危険だから、やめて……!」


夜空君もまた、倒れたままで小さく首を振った。

私を思っての忠告だというのは重々承知している。けれど、この場でじっとしているなんてしたくないし後戻りもしたくなかった。


「コイツ等を連れて行くのは無理だよ。熱から解放されたら、また無理矢理にでも羽闇を止めるつもりだろうし。」


「……そうよね。」


「今、羽闇が頼れるのは俺しかいないんじゃないの?行くよ。」


鳳鞠君が味方になってくれた事に温かい喜びを覚えた私は、彼の手を強くしっかりと握り返した。


「ありがとう、鳳鞠君…!本当にありがとう!」


「べ、別にいいよ…!」


照れているのか、鳳鞠君はぱっと視線を逸らした。

襖の引き手に手を掛け、静かに開く。

外からは未だに激しい音が響いており、一葉さんが今も敵と戦闘を続けているという確信が足を前に押し出した。


「待て……!」


背後から、か細く華弦の声が聞こえた。

一瞬だけ後ろを振り返りそうになったが、ぐっと堪えて鳳鞠君と共に部屋を出た。

廊下の向こうから複数の足音や声が聞こえてくる。私達は度々身を隠しながら、一葉さんの屋敷の入り組んだ廊下を走った。


「羽闇、あまり足音を立てないように気を付けてね。居場所がバレちゃうから。」


「分かった。…ねぇ、鳳鞠君。どうして私の味方をしてくれたのか聞いてもいいかな?」


華弦と夜空君は、私を部屋に留めようと必死だった。鳳鞠君も最初は二人と同意見だったのに、突然華弦に立ちはだかった事が驚きでいっぱいだ。

丁度近くにあった大きな部屋に入り込み、息を潜めた。すぐそばを焦った様子の使用人が数人、早足で通り過ぎていく。


「どうしてって…羽闇を外に出したくない気持ちは華弦達と同じだよ?絶対に止めるつもりだったし。」


「じゃあ何で…?」


「羽闇を傷付けてまで外に出さないっていう華弦のやり方にはどうしても賛成出来なかった。単純な理由だよ。」


「…やっぱり鳳鞠君は優しいね。私の気持ちにちゃんと寄り添ってくれるんだもん……。」


「優しくないよ…気が変わっただけ。俺は納得出来ない事はやりたくないし、羽闇が傷付くのが見たくなかったの。自分の為なんだ。」


「だとしても充分優しいよ。そういうしっかり自分を持ってるところ、素敵だと思うな。」


「……ありがと。でも、華弦に怒っておいて結局俺も同じ事しちゃったんだよなぁ〜…。敵じゃない奴に能力で無理矢理、戦闘不能にしちゃってさ…。戦いが終わったら二人にちゃんと謝らないと…!滅茶苦茶怒られるだろうし、許して貰えるかも分かんないけどね…。」


廊下の突き当たりからまたもや複数の足音が近づいてくる。足音が遠ざかり、気配が完全に消えたのを確認すると、私達は再び走り出した。


「…それに、俺が舞久蕗を手助けしながら羽闇を守り通せれば問題ないと思ったんだよ。これでも能力の特訓はこなしてるし、能力者の間で強いって噂されてるんだから!」


「前に華弦が言ってた!鳳鞠君も能力者一族の一人なんだよね?」


「既に聞いてたか。そ、俺が扱うのは『炎の力』!華弦達と同じく、俺も一族の中で最も能力を宿してるんだって!身体動かすのも得意だし、足手まといにならない自信だけはあるよ!」

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