第101話【予感の光-火燈鳳鞠Side-】
ラーメンを完食し、次に注文したのは大盛りの甘口カレー。
「カレーも美味そうだな!いただきまーす!」
熱々のライスとルーを口いっぱいに頬張ると、様々なスパイスが舌の上で踊り出す。
「あの…!」
勢いよく食べ進めていると、現れたのは俺達と同い年位の二人の女の子。…いや、俺よりも少し年上か?
流行りのヘアスタイルにやけに大人びた服装。彼女達は緊張した面持ちで、ある人物の方を見つめていた。
……夜空だ。
「突然すみません…。星宮夜空君ですよね…!?ファッションモデルの!」
一人の女の子が、明らかに興奮した様子で夜空に尋ねてきた。どうやら夜空の熱心なファンらしい。
「うん、そうだよ。」
夜空は穏やかな表情で小さく頷くと、女の子達の顔がパッと明るくなった。
「わぁ、やっぱり本物!雑誌で見るよりももっとカッコいいー!」
「私達、星宮君の大ファンで…!いつも『オリオン』見てますっ!それで、もしよかったら……握手して頂けませんか!?」
「私もお願いします!」
そんなお願いに夜空は困った様子もなく、優しい笑みを浮かべて彼女達の要望に応える。
「ありがとう。勿論いいよ、わざわざ声を掛けてくれて嬉しいな。」
夜空は女の子達の手を柔らかく包み込む様に順番に握ると、彼女達は「キャー!」と小さな悲鳴を上げた。
まさかファミレスで憧れのモデルと出会えるなんて想像もしていなかったんだろうな。
興奮が落ち着いたのか、女の子達の視線がゆっくりと俺や華弦の方へ向けられる。彼女達は華弦を見た途端、さっきよりも一段と顔を赤らめた。
「えっと…お二人もモデルさんですか?」
一人の女の子が期待に満ちた瞳で尋ねると、華弦は軽やかな笑みを浮かべて答える。
「残念ながら、僕達は違うよ。只の一般人♪」
「ええっ!?こんなにカッコいいのに!?」
「全然一般人に見えないです!絶対売れそうなのに勿体ないですよー!」
「ありがと♪そこまで言われると照れちゃうなぁ。君達は中々、見る目があるねー?」
冗談めかした華弦の言葉に、女の子達はキャッキャとはしゃぎ出す。
「お兄さん面白ーい!ねぇねぇ!よかったら、お兄さんも握手して頂けませんか!?」
「いいなー!私も私もー!」
今度は華弦に熱烈なお願いをする二人。
「喜んで♪美しいレディの頼みとあらば、断るわけにはいかないなぁ。」
華弦は迷う事なく、差し出された手をギュッと握った。すると彼に手を握られた女の子達の顔は茹でダコの様になり、その場でふらついた。
そうなる気持ちは分からなくもない。婚約者候補達は皆、度を超した美形ばかり。
自分で言うのも何だけど、俺だって芸能事務所のスカウトマンによく声を掛けられるから顔は悪くない方ではないと思う。
中でも群を抜いて美形なのが、この華弦だ。
とても高校生とは思えない大人びた容姿と、余裕のある色気。
周りからはいつも『可愛い』なんて言われて子供扱いされる事が多い俺には、彼の全てが羨ましくて堪らない。
「本当にありがとう御座いました!」
「お二人共、ありがとう御座いました!星宮君、これからも応援してます!」
女の子達は夜空と華弦に深々と頭を下げると、最後にちらりと俺の方を見てニコッと笑う。
それは彼等に対して向けられたものとは少し違っていた。まるで可愛らしい弟を見る様な…ハッキリと子供扱いされているのが分かる笑顔だった。
俺はいつか、華弦みたいに大人っぽい色気を手に入れられるんだろうか…?そんな事を考えていると、何だか溜め息が出そうになる。
「此方こそありがとう。次号は僕の特集も載ってるから是非宜しくね。」
「はい!絶対買いに行きます!」
夜空が軽く手を振ると、女の子達は満足げに自分達のテーブル席へと戻っていった。
「ふぅ…」
緊張していたのか、夜空は勢いで烏龍茶を飲む。
華弦はそんな彼を見て、クスリと笑う。
「相変わらず人気者だねぇ、よぞらんは。君と遊んでるといつも人だかりが出来ちゃう事が多いから、僕も結構大変なんだよ?…ま、それはそれで面白いけどね♪」
「もう…意地悪言わないでよ、僕は人気者なんかじゃないし。藤鷹君こそ、女の子によく声を掛けられてるじゃないか。さっきの子にも握手を求められていたくせに。」
「あれこそたまたまでしょ?単によぞらんのそばにいたからってだけで、君の人を惹きつけるオーラには誰も敵わないさ♪」
「だからそんなのないよ…。」
夜空は天然だから、自分が人気者だという事に本当に気付いていないだろう。
しかし、華弦は自分を謙遜しながらも内心では自分の魅力を充分に自覚している筈だ。
でも、そういうところが憎めない。
「…へーいへい。夜空も華弦もカッコいいし人気者なんだから、謙遜しなくてもいいじゃんか。二人が女の人に囲まれてるの、何度も見てるもんね。」
俺は口の中にあったカレーを飲み込んでから、ぷいっとそっぽを向いた。
「どうしたの、ほまりん。ご機嫌斜めだね?」
「…俺だけ何も言われなかった。二人のおまけみたいになっててさ…。俺ってそんなにカッコよくないのかな…?」
「ぷっ…!拗ねなくても大丈夫さ!ほまりんは充分可愛いんだし、自信持ちなよ♪」
「話聞いてた!?俺はカッコいいって言われたいの!あと、可愛い言うなっ!」
頬をつつく華弦の手を軽く払い除けると、彼はわざとらしく肩をすくめて見せた。
そんな俺達のやり取りを穏やかな眼差しで見守る夜空。だが突然、ピタリと動きが止まった。
「どうしたの、夜空ー?」
夜空は無言で自分のポケットに手を差し込む。そして、そこから小さな小瓶を取り出した。中にはキラキラと輝く黄金の砂が入っていて、ぼんやりと光を帯びている。
「うわぁ、綺麗な砂だねー!どうして光ってるの?蓄光材でも入ってるとか?」
俺の問いに答えず、夜空は小瓶の光をじっと見つめ続けている。
「……藤鷹君、火燈君。出動した方がいいかもしれない。」
ようやく口を開いた途端、華弦の顔つきが変わった。
「よぞらん、まさか…!」
華弦の低い声が緊迫感を帯びて響き、夜空は強く頷いた。只事ではない雰囲気に俺はゴクリと唾を飲む。
「これは能力を感知する特別なもの。羽闇ちゃんにプレゼントしたイヤリングには、この砂の一部を使ったんだ。藤鷹君みたいに追跡までは出来ないけど、彼女の身に何かあったらすぐに駆け付けられるようにパスを繋げてある。」
夜空も彼女にプレゼントしたいと言い出して、慌ててイヤリングを作っていたのはそれが理由だったのか。
「…光り方からすると、羽闇ちゃんの月の力に反応したわけではないよ。」
「どういう事、夜空…?それは能力に反応して光るものなんだろ?羽闇の月の力じゃないなら、何に反応してるっていうんだよ?」
「今、イヤリングを身につけているのは羽闇ちゃんだ。もし月の力に反応した場合だと、砂はもっとまばゆく光る筈なんだ。なのに、こうやってぼんやりと光るという事は……彼女の近くで誰かが能力を使用している。」
「つまり…誰かってのが、敵の可能性があるって事…!?舞久蕗じゃなくて!?」
「仮に一葉さんだとしても、彼は無闇に能力を使う人ではないんじゃないかな。」
「……だとしたら羽闇が危ない!!」
黙って話を聞いていた華弦は、スマホの画面を眺めながら席を立ち上がった。
「…一葉君からはまだ連絡はきてないか。何にせよ、羽闇ちゃんの身に危険な状況が迫っているのは間違いなさそうだ。いくよ、二人共。」
夜空も既に食べ終えており、退店の準備を始める。
だが、俺のカレーはまだ半分程残っていた。
「待って、待ってくれよぉ〜!俺もすぐに食べ終わるから〜!」
カレーを一気にかき込むと、華弦が肩にそっと手を置いた。
「ほまりん、よぞらん。会計は済ませておくから、二人は先に一葉君の家に向かっててくれる?僕もすぐ追いつくから!」
「ムグムグ…分かった!ありがとう、華弦!」
「急いで、火燈君!」
残りのカレーを完食させ、慌てて席を立つ。
「ご馳走様でしたっ!…お待たせ、行こう!」
ファミレスを出て、夜空と共に舞久蕗の家へ向かおうと全力で走り出した。




